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25-3 レクトの使者

「まずは、こちらをお収めいただきたい」

 レクト王の使者でクルーマと名乗った男は、革製の四角い鞄を開け、中にぎっしり詰まった金貨を見せつけた。

 派手な色に整えられた髪、豪奢な服、デザインもめずらしくて目を引くけれど。

 でも、こういう服って礼節的にはどうなんでしょう? これが、レクトの文化なんですかね。

 表情は、にこやかだ。でも、どことなくニヤニヤというか、見下されている感じがするのは、気のせいですか?

 私の印象は、あまり良くない。


 エビナー邸の応接室。

 ソファに座るのは4人。

 こちらにエビナー侯爵様とメリーダ様、あちらにはレクトの使者のクルーマとほか1名。

 立っているのは、全部で8人。

 こちらにジャロ師と私、あちらにお供が4人、あとは屋敷のクォーツさんと給仕さんだ。


 私は侯爵様から執事用の服をお借りして、レクトの使者との会見に参加していた。

 ポンと私の体に合う服が出てくるところが、さすが侯爵家なのでしょうか。

 でも、男装なんて、なんだか照れますね。

 慣れの問題なのかもしれませんけれど。

 そして念の為、部屋の端にはこっそりと私の宝具もおいてあった。


「これは、なんの金かな?」

 侯爵様が、差し出された金貨に、とりあえず関心を持ったかのように問いかけられると。

「おわかりなのでしょう?

 こちらに我が国の貴族がお世話になっているはず。

 その宿泊料と思っていただければ」

 クルーマは、薄く笑いながら答えた。

「ほう、貴国の貴族とな?

 仮に当家におるとしても、それにしてはいささか多すぎるように思うが?」

「この程度、我が国でははした金。

 お気になさるとは、『轟槌候』とも聞こえる方が、意外とつつましいのですな」


 これ、交渉なんかじゃないですよね?

 喧嘩売ってますよね?

『お前には多すぎるだろうけれど、金をやるから人を差し出せ』っていうことですよね?

 ……何様ですか?


「しかし、どうしてそんな話がお耳に入ったのでしょうな?」

 侯爵様が話題を変える。

「聖王国も、金には勝てぬようですな。

 神の狼だかなんだか知りませんが、飼い犬の躾はもう少しきちんとされてはいかがかな?」

 これまた、偉そうに言う。

 金にあかせて買い叩いているだけじゃないですか。成金ですか。

 ああ、レクトはここ数年で大国にのし上がったんでしたっけ。成金ですね。


「たしかに、飼い犬に手を噛まれるのは、情けない話ですな。

 しかし、人は働くことに対価を得る、それはあたりまえといえましょう」

 侯爵様はゆっくりとそう仰った。

「そういえば、聖王国の古典に出てくる生き物にもカムロというものがおりますな。

 レクトの方もご存知でしたか」


 カムロ!

 確かミイツ様とご懇意の、情報傭兵でしたっけ。

 なるほど、レクトもカムロに伝手があって、そこからフェイ様の情報を買ったんですか。

 ……まさか、その情報の出元が、ミイツ様だったりしませんよね?


「いえ、私共は名前の由来など、詳しくは存じませんよ。

 ただ、そのように名乗る物乞いがあったので」

 レクトの連中が、クスクス笑っている。

 自分の無教養をさらけ出してなお笑うというのは、ちょっと理解に苦しみます。

「カムロは、人の姿にもなれると伝えられます。

 それは、髪を肩のあたりで切りそろえた、少年とも少女ともつかない美しい姿とか。

 人と獣の姿をともに持つ、そちらの魔導騎士に似ている気もしますな」

「物乞いなどと比べられるのは、心外ですね。

 それに、魔導騎士の足元にも到底及びそうにありませんでしたがね」

「さすがと申し上げるべきですかな」


「さて。

 そういうわけで、ランベル伯爵をお引渡しいただきたい」

「そのような人物、存じませんな。

 仮に我が屋敷にいたとしても、私の一存でお引渡しすることもできん」

「これは、おかしなことを仰る。

 こちらは情報を持っている、対価も用意している。

 これでは、我らの同胞を保護するために、私達は力づくで迎えに来るほかない。

 よろしいのですかな?」


 これ、あの金貨と引き換えにフェイ様を引き渡さなければ、力づくだぞという脅しですよね?

 なんだか、ずいぶん短絡的な気がします。

 えーと、なんていましたっけ? 棍棒外交?


「そもそも、その情報が正しいものという根拠がありますまい」

「カムロは聖王国で活動する傭兵。その情報は信用できる」

「存じませんな。貴方が目撃でもされているなら別だが」

 クルーマは、ああだこうだと言い募るけれど。

 侯爵様はレクトの言い分をバッサリと切って捨てる。

「それに。

 仮に、そのような人物が居たとしても」

 侯爵様は、更に続けられた。

「もしそれが事実ならば、私はそのことを内大臣閣下を通じて陛下に奏上せぬ訳にはいかん。

 そこで閣下や陛下が必要な事実を確認され、国同士、レクトの国王陛下と協議されるべき話。

 ましてや、レクトの国王陛下は、明日聖都に到着されると聞く。

 我々がこのような話をするのは、僭越であるな」

「私は、国王陛下の意を受けて、ここに来ている!」

「儂は、受けておらん。申し訳ないな」

 クルーマが顔を歪めて侯爵様を睨みつけているが、侯爵様は涼しい顔だ。


「さて、お話がそれだけならば、お引取り願おう」

「……これだから、頭の中の古い連中は。凝り固まっていて、話にならん。

 後悔をされないと、良いですな!」

 捨て台詞をしてクルーマはじめレクトの一行が帰っていく。

 見送ったクォーツさんが戻ってくると、こんどは私達が応接室でこれからのお話だ。


「まずは……」

 ジャロ師が短杖を掲げると、一瞬魔力の奔流が部屋を覆う。

「これで、盗聴や探知の魔術なり魔道具を仕込んであっても、効果を失っておる。

 会議中に魔法で工作を仕掛けようとする連中じゃ。

 技術は拙かったが、悪戯をしていく心配があるなら、掃除をしておいたほうが良いじゃろ」

「クォーツ、何かあるか?」

「怪しい動きは、ございました。

 ここと、ここの、……これですな。

 聖王国製の玩具など、聖王国内ではそうそう通用しないと気付けば、無駄な出費もありませんでしたものを」

「でも、自分たちの武器が資金と暴力しかないと理解しているのだとしたら、それに特化した交渉は称賛もできるんじゃないかしら?

 まあ、手元にある自慢の武器を見せつけたかっただけなのでしょうけれど」

 続いて、メリーダ様がそんな評価をされた。


「とはいえ、内意は得た。

 今宵は、騒がしい夜になりそうだ。

 クォーツ、戦えぬ者の差配は任す」


 皆様、わかっているように話が進む。

 え? どういうことなんですか?

 私が目を白黒させていると、

「ハハハ、こういうやり取りには慣れておらんか、レンガ嬢。

 ランベル伯がこの屋敷にいるとの情報が、カムロの手でレクトに伝わっているのならば。

 それは、”ここ”でランベル伯を守ってレクトを退けよという、ご内意よ」

 腕がなる。

 侯爵様はそういうと、獰猛に笑われたのだった。


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