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25-2 メリーダ様とサファイア様

 これから、サファイア様がいらっしゃる。

 エビナー侯爵家に私がお邪魔することになった時、メリーダ様がサファイア様にそれをお伝えして、もう今日の予定は決まっていたのだけれど。

 でも、それまでに、これだけ事態が動くなんて思いませんでしたよ。


 サファイア様は応接室で侯爵家の方にご挨拶されたあと、メリーダ様のお部屋にやってこられた。

「大変でしたね、レンガ」

「ご心配をおかけしましたら、申し訳ないです。

 でも、『ヤキトリ』の力を、いくらかはうまく使えるようになりました」

「そう。

『ヤキトリ』のことをメリーダに話したのね。

 これでメリーダに拗ねられる心配がなくなって、良かったわ」

 サファイア様はそんなことを仰ってから、フフ、と笑われた。


「では、聞きましょう。

 レンガに何があったのか」

 そして私は、サファイア様に報告していく。

 レクトの魔導騎士に襲われていたフェイ様を助けたこと、

 学院に潜入してきたリンザという魔導騎士と戦ったこと、

 そのときに、『ヤキトリ』の力によって自分の傷を癒やし、敵を焼いたこと。


「なるほど。

 フェイ伯爵の探し人は、ガゼル元伯爵ですか?」

 サファイア様の言葉に、私は驚く。

 ガゼル元伯爵って、たぶんあのガゼルさんだ。

 そして、サファイア様が、この流れからすればメリーダ様も、ガゼル様のことをご存知だったことに。

「いえ。

 探しているのは、『廃公』シリル様その人だと」

「なるほど。

 フェイ伯爵も、ガゼル元伯爵までたどり着いたのは、さすがですね。

 それならばシリル元公爵も、フェイ伯爵の見立て通りに、生きておいでかもしれません」

 はい、お元気ですよ。

 サファイア様がメリーダ様と私を見回し、私は表情に出ないように気をつけた。

 サファイア様の視線が、しばらく私の顔の上を彷徨う。

 ……ばれてませんよね?


 サファイア様はラピスさんの注いだ紅茶をひとくち飲んで、

「フェイ伯爵の探し人も気にはなりますが、もう少し近い見込みの話もしましょうか。

 レクト国王の聖都来訪は、予定通り明日と聞いています。

 派手好きで、小技はあまり得手ではない方ですから、所在を掴みそこねることもないでしょう。

 私なら、今日中に白黒をつけますね」

 そのように仰れば、

「家の者から、レクト王の使者が、このあとこの屋敷に来ると。

 おそらく関係していることでしょう」

 メリーダ様がそう返した。

 もしかして、朝に侯爵様が仰っていた午後の予定って、これに関係あるんでしょうか?

 私がそんな事を考えていると、

「私が参加できないのは、残念だわ。

 でも、この屋敷には居てもいいのよね?」

「サファイア様は、大人しくお帰りください。

 まんがいちということも、ございます」

「今晩、レンガとフェイ様を、私の私邸にご招待しましょう。

 お2人が今ここにいるのは、もうレクトは承知しているのでしょう?」

「サファイア様の御身に危険が及ぶなど、とんでもない」

「誘い出すにも、ここより良いでしょうに」

「わざわざ誘わずとも、夜の羽虫のように勝手に向こうから寄ってきます。

 ご自重ください、サファイア様」

「自分は、自重しないくせに」

 サファイア様とメリーダ様は、とても仲が良いようだ。


 結局、メリーダ様の主張が通り。

 サファイア様はこのあとお帰りになり、私はエビナー邸でレクトの出方を待つこととなった。

 それは、そうだ。

 でも、

「ひどいわ。

 私だけ、のけものなのね」

 サファイア様はいつも表情に乏しいけれど、瞳はけっこう素直ですよね。

 ひどく恨みがましい眼でみつめられてしまった。

「泉へのお出かけの際は、私がのけものでしたけれどね。

 反省されたのではなかったのですか?」

「だから、こんどは最初から一緒にいましょうって、お話しているじゃない。

 貴女やレンガと一晩一緒に居られるかもしれないのよ?

 その機会を奪うなんて。

 メリーダ、貴女はいつからそんなに残酷になったのかしら?」

「サファイア様のためでしたら、私はいくらでも残酷になりますよ。

 こんど、レンガ様とどこかでお泊りをしましょう」


 ん?

 あれ?

 私の予定が、またいつの間にか決まっているような気がしますよ?


「……まあ、いいでしょう。

 そのあたりが、落とし所ですね。

 メリーダ、貴女こそ無茶をせず、安全なところで応援するのですよ?」

「また顛末をご報告に伺いますわ。

 私が、メリーダ様との約束を守らなかったことがありますか?」

「ないわね。

 わかりました、任せます」

 そして、サファイア様とメリーダ様は、軽く抱擁を交わされた。

 そのあと、サファイア様は私の前まで来て、軽く手をひらく。


 えーと、さっきメリーダ様と抱擁する前のポーズですよね?

 私も、ってことなんでしょうか?

 いいんですかね?


 ちらりとメリーダ様を窺うが、そっぽを向いて知らん顔だ。

 サファイア様は、相変わらずの表情で、私をじっとみている。

 うわぁ、これ、ことわれないですよ!


 そっとサファイア様を抱きしめる。

 小柄なサファイア様は、すっぽりと私の腕の中に入った。

 こんな小さな体で、あんなにすごい龍の呪いと戦っておいでなんですよね。

 なんだか、改めて応援したくなる。

 背に回した手を動かして鱗の様子を探ってみるが、特に何も感じない。

 ドレスを着ているから、当たり前か。


 ……はっ!

 我に返って、手を離す。

 思わず、長めに抱きしめてしまった気がしますけれど、大丈夫でしたかね?


「意外と、情熱的でした。

 もっと長く抱擁していても、良かったのですよ?」

 サファイア様がいたずらっぽそうな眼をしながら仰った。

「もう、からかわないでくださいよ」

 私が小さく拗ねながらそういうと、

「それではね。

 勝利と無事をお祈りしているわ」

 なんて、ちょっと物騒なことを言いながら、お帰りになられたのだった。


 気付くと、メリーダ様が私の隣に来て。

「私、またレンガ様の気持ちがわからなくなりそうですわ」

 などと仰る。

 メリーダ様は、そのまま軽く手を開いて。

 これって、さっきサファイア様がされた『抱擁』のポーズですよね?

 どうしてかはわからないけれど、求められたのでとりあえず軽くメリーダ様の体を抱く。

 メリーダ様の体って、やっぱり細いですよね。

 でも、なんだかとてもしなやかで、柔らかい、です。

 あれ?この香り、どこか記憶があるような。

 確か、ネロリ?


 そんな事を考えていたら、メリーダ様は、次に私に顔を近づけると目を閉じた。

 あ、これも、なんだか記憶がありますよ。

 たしか、あの時はこのあと……

 ええ!?

 メリーダ様、本気ですか?

 私が戸惑っていると、メリーダ様は少しだけ片目を開けられた。

 それが、なんだかとても不安そうに見えたので。

 ああ、もう!

 私は、メリーダ様のためなら、がんばれますよ!

 そっと、頬に唇を落とす。

 一瞬、私の体に回っていたメリーダ様の手に力が入った気がした。


「えぇと、これでよかったですか?」

 私がメリーダ様に聞くと、

「その質問がなければ、合格でした」

 メリーダ様の採点は、厳しいですね!

「それでは、次はレクトですね。

 軽くひねって差し上げましょう」

 そして、メリーダ様はそう宣言すると、私と一緒に部屋を出たのだった。

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