君よ、死にたまえ
書きたい箇所が多すぎるが、それを書くと時間が足りなくなるので泣く泣く削る……
くっ、お金さえあればずっと創作できるのに……
銃声が一つ、鳴り響く。
「え……うそ……まって……?」
「は?……え、いや、は?」
薬莢が静かに床を転がる。
「……?」
けれど、けれども、エルフの少女は再び瞳を開けた。
「ふむ、確かに弾は出た。だが、君は死んでいない。」
「……?」
「では、コイツは何を殺したのか。この魔具は何を撃ち抜いたのか。確かに殺した。それだけは確かだ。」
「……」
「エルフとしての君……は、もう死んでいたね。では、死んだのは化物としての君か。」
全くもって悪辣に、馬鹿馬鹿しい茶番。
銃口を少女に向け、トリガーを数回引く。
「ふむ、やはり出ない。ゆえに、殺しはしたのだ。」
「……」
全くの嘘。何もかも嘘。
「そんな目で見るな。確かに化物としての君は勝ったのだ。
ただ、化物としての君が死んで、それでもただの少女としての君は死ぬつもりは毛頭ない。コイツはそう判断したんだ。
あるいは、その逆なのか……まぁ、なんにせよ、それは君が決めるといい。なにせ、私はゲームに負けたからね。」
「……み、え、る……りゅう、のめ……みえ、る……?」
「あぁ、なるほど。封印も殺したのか。」
彼女の後ろで突き刺さった弾を床から取り出し、眺めながら呟く。
「うそぉっ!?」
「はー……そういう……」
なおも、白々しく振る舞う。
本当はシュティが封印を解除して、発射した瞬間に弾を彼女の後ろに転移させただけ。
「おめでとう、君はただの少女と相成った。
エルフとして死に、化物としても死に、その上で生き残った、ただの少女たる君。」
「……う、そ……つい、た……?」
「まさか。魔具が判断したのだ。もはやどうしようもないくらいに、君の命は保証されてしまった。
ただ、それだけの話さ。これ以上の客観性はもう出せない。」
「…………」
どこか納得がいかない様子の少女を尻目に、アンとレヴィに話しかける。
「さて、急に失礼しました。」
「……いや、うん、別に。」
「普通にびっくりしましたよ!?」
ベルに制止されていた2人がようやく自由になった。
今日はベルが素直に仕事してくれて感動だ。
「……」
「なんですか?」
アンがジッとこちらを見つめてくる。
「……ねぇ、その子のことなんだけどさ。」
「はい。」
「本当に殺すつもりだったの?」
「彼女が心の底から死を望んでいれば、魔具は必ず殺したでしょう。」
「本当の本当に?」
「えぇ、人の命に区別なく。」
「……そっか、優しいね。君は。」
春風に木の葉が揺れるように微笑み、春を謳う陽射しのような瞳で、俺を見つめた。
「ふふ、どうでしょうね?」
「だって、そうだろう?ソレの引き金を引くのは君だった。必ず君の責任なんだ。殺すも殺さないも、どちらの結果であれ責任は必ず君にある。」
流石に商会長ともなれば嘘であっても本質を見抜いてくる。
「……ふふ、流石ですね。」
「うん、だからね。そんな君だから、ボクは最低なお願いをしなくちゃいけない。」
立ち上がり、緩やかに歩みながらそう言うと……
「なんでしょう?」
「この子を、幸せにしてくれないかな。」
エルフの両肩に手を置いた。
「……妻が数人、娘も2人。そんな私にですか?」
「なおよし、ってやつだね。どうにもボクの周りは独身ばっかりでいけない。」
「恋愛しようにも仕方をしらないっすからねー」
「黙っててくれる?」
「うい。」
クスクスと笑うレヴィに圧のある笑みで黙らせる。
「しかし、その子が賛成しないことには……」
ふと、彼女に視線を移す。
「せ、きに……ん……とっ……て……」
存外に乗り気らしい。
その様子は、こんな俺でも、あの人のように寄り添う事を許された気がして。
「……わかりました。それでは、お手をどうぞ。」
「……」
あまりにもか細い指が、薄い手のひらが、俺の手をとる。
「化物の楽園にようこそ、小さな君。
君はもはやただの小さなエルフであるのだと、嫌でも実感する事になるでしょう。」
きっと、長い、長い道のりになるだろうから。
握り返したその手を離さないように。
「だからどうか、いつの日にか……君の虚空に、見上げた彼方の空に、星のありますように。」
「……」
いつかあの日に貰った熱を、今後は自分があげられるように、そっと少女を抱きしめた。
今日という日が、彼方の果てに灯る火の火種となりますように。
「……は……い……」
よくわからない、そう言いたげに、けれど、わからないなりに俺を抱きしめ返した。
「いい子です。」
「……」
こちらが腕を離しても、離れる気配がない。
突き放す理由もないので、抱き上げる。
「うわ軽……」
同じ身長で作った木製の模型の方が重いのではないか、そう思わざるをえないほどに、軽い。
「……」
少女は何も言わず、身を預けてくる。
「さて、この子はうちで育てさせていただきます。」
「え、あ、うん。よろしくお願いします。」
「えー、なんか癪っす。あんなに無反応だったのに。いいんすか?まーじで可愛げないっすよ?」
「レヴィほんとに黙ってて。」
「いいえ、可愛げのあるなしに関わらず、いつか自分もまたそうありたい、そう願った日に誓うのです。」
なんのことはない。
受けた恩をまた別の誰かに施す、ただそれだけの話なのだ。
「……なんすかそれ。」
不意に、レヴィの瞳が険しくなる。
泥のような瞳だった。
「?」
「じゃあなんすか、仮にどうしよもない化物がいたとして、それでもいいんすか?」
なんとも言えない、どこか拗ねてしまったような……なんとなく羨ましいような、そんな口振りで彼女は言った。
「私にとって価値は等しくありませんので。私がそうであればよい、そう考えたなら。」
「……ふーん。」
暗く、暗く、昏く澱んだ蛇の瞳でジッと見つめてくる。
「レヴィ、お願いだからもうやめて。」
「なんて、ふっふー!冗談っすよー!」
けれど、レヴィはにぱっと笑って普段のように。
「……そうですか。」
あの瞳が冗談なはずがあるものか。
それでも、彼女が何も言わず、飲み込む事にしたのなら、それを尊重するしかない。
「さて、支度金を渡そう。」
「あぁ、それは結構です。物にもお金にも困りませんから。」
「そんなっ!?うちら以上のブルジョワジー!?」
「どうぞお気遣いなく。」
本当に必要ないのもそうだが、お金目当てで引き取るように見えるのも癪だ。
「……うん、そっか。わかった。」
「アン!?アンが納得した!?絶対渡さないと気が済まないタチなのに!?」
「うるさいよ。レヴィ。」
「わーん!今日は扱いがひどいっすー!おにーさん、ウチも引き取ってくださいっすー!1日限定で!」
「いらないです。」
「そんなっ!?即答!?」
「さて、本日はお時間をいただきまして、誠にありがとうございました。」
レヴィを無視して、アンが話を締めくくる段階に入った。
彼女も中々に嫌われ役を買って出る。
「こちらこそ、良い出逢いがありました。」
「……」
服を超えてゆるりと伝う熱にエルフの少女が頬をくっつける。
「どうか、どうか、その子をよろしくお願いします。」
そして、アンは自分のことのように深く頭を下げたのだ。
どうにも、俺はこの人を信用していいのだと心から思ってしまう。
「いつかこの子があなたと笑って話が出来るように、必ず。」
だから、そんな約束をしてしまうのだ。
「ベル、帰ろう。」
「承知しました。」
さて、ローナ達になんと説明しようか。
嗚呼、それよりも、この子の名前を決めないと。




