化け物を騙るモノたち
結局、リーシアを連れて帰ったので温泉旅行中は2日ほど延長となった。
なったのだが……
「ローナお姉様!私、必ず妻になります!」
「えぇ、いつでも歓迎するわ。」
爆速で馴染んだ。
それはもう驚くほど、この2日で馴染んだ。
あの人間嫌いのラウすら……
「ねー、お兄さん。あの子、いつ娶るの?」
俺の膝の上でこの有り様である。
面識があったとはいえ、多少なりとは不機嫌になるかなと思っていた。だが違った。
「……」
「あはー、祝福した子が母様?ウケる。」
「認めてもらえてよかったね!」
ベルの視線が程々に痛い。
前の吐瀉物を見るような目ではないものの、『やっぱりやりやがったなコイツ』くらいの熱量はあるし、エルはからからと笑っている。
いつの間にか外堀の何もかもが埋まっている。
なんというか、もうこのまま家に連れて帰ってしまおうか。
《やってること神話の神連中と変わりませんよ。》
だよねぇ……
それがつい先日までのこと。
飛行艇が上空を通るついでに、リーシアを連れてルイスさんの館に戻ったところ……
「シミズ様、アン様御一行がお会いになりたいそうです。」
「はい?」
帰り際、セル爺さんからそんな話を聞かされた。
「はぁ……そうですか。」
これがまた驚くほど気乗りしない。
《会って損はないかと。》
前言撤回。
《まぁ、嬉しい。》
「都合の良い日は聞いておられますか?」
「はい、3日後から5日後の間、どこか1日ほどと。」
「じゃあ3日後にここに来ますので、お伝えいただけますか?」
「承知いたしました。」
「お願いします。」
─3日後─
青く、蒼く、高らかに晴れ渡る空の下、ルイスさんの館からアン&レヴィ商会の事務所まで案内してもらった先の応接間。
「やぁ!こんにちは!」
ハツラツと謳うように笑うアンと
「こんちわっす!」
にしり、とイタズラっぽく笑うレヴィに……
「……」
「はい、こんにちは……っ!!?」
ぺこり、と一つお辞儀をするいつかのエルフの少女が居た。
枯れかけの枝葉のように細い腕と脚に、亜麻色の長い髪は綺麗にされてこそいるが、新品なだけの服を纏っている様は過去の鏡のようで。
「おや、これはこれは……また面白いこと。」
「ベル、今回は黙ってろ。」
「承知いたしました。」
「っ!?」
「!?」
なぜか同行を申し出たベルに一声かけてから、エルフの少女と視線の高さを合わせて、改めて挨拶を。
「初めまして。タケシ・シミズと申します。」
いつかの俺に似たあなたへ。
「……は……い……な、まえ……な、い……」
口を動かすけれど、声は途切れ途切れに、片目には虚空、もう片目は前髪に隠れている。
「そうでしたか。どうか、ご無理はなさらずに。」
けれど、けれども、かつてライとして邂逅した時には視線さえ合わなかったのだから。
《声を出す習慣がなかったようですね。声を出す為に必要な筋組織が発達していません。》
なるほど、そういう感じ。
「あれ……返事を、した?」
「しましたね……えぇ、うそぉ……」
なんとなく、2人の反応から察しがついた。
かつての自分と同じように、彼女は普段、空虚に漂うだけなのだと。
「それで、御用はなんでしょう?」
「何を隠そう、その子のことさ。」
そうして、この子のここに至るまでの話を聞いた。
「そういう訳で、その子が君に会いたいと願い出たのさ。
初めて能動的に動いたのがそれだったから、どうしても君に会わせてあげたくて。」
少し悲しそうに笑うアンを見て、この人にはどうしようもなかったのだと悟る。
「……そう、でしたか。私に。
では、お話をしましょう。隣、失礼しますね。」
俺に何かができるなら、それが許されるなら、いつかあの日に見た……あの人のようになれるなら、全力を尽くそう。
「理由とか、聞かないんすか?」
「必要ありません。」
「食い気味っすね……」
「いいんですよ。そんなこと。私に、いや、俺に出来る事があるのなら、なんだっていいんです。」
「……そっか、ありがとう。」
アンは同意の代わりに、そう呟いた。
寂しそうに笑うその姿が、なによりも信頼に足る証なのだ。
「……」
すると、小さな指で俺の服を微かにつまんだ少女。
「はい、なんですか?」
穏やかに、緩やかに、彼女の言葉を待つ。
「わ……たし、を……こ、ろ……して、……く、れま……す、か……?」
思わず、懐かしさが心の中で響いた。
あまりにも、同じなのだ。
だからこそ、同じ絶望を味合わせる事に……ほんの少しだけ、ためらった。
「……いいえ。」
「ま、もの……わた、し……りゅ、う……のめ……だ、か……ら……」
マモノ……魔物?
《元は過去の大戦時の魔族への蔑称です。魔の者から始まり、魔者として定着し、侮蔑を込めて魔の動物、つまり魔物と変遷していった言葉です。》
……なる、ほど。
《この少女、片目が龍眼ですね。しかも、目が見えなくなる封印かかってます。》
龍眼……?
《龍の因子……それも最高位の因子が混ざっています。理由は……長くなりますねこれ。後にしましょう。》
シュティと話していると、彼女は続けた。
「ばけ、もの……わ、たし……だか、ら……こ、ろし……て。」
……ふむ、これアレだな。一芝居うつか。
「!……」
「……ふはっ、化け物?お前が?」
ベルに合わせるように一度だけ視線を送って、続ける。
「くっ……ふふっ……おい、聞いたか?」
「ふ……ふふっ……」
ベルと顔を見合わせ、クスクスと小馬鹿にするように笑って、悪辣に振る舞う。
「はははっ!あはははははっ!!!!」
嗚呼、全くもってバカバカしい。
「し、シミズ君?」
「え、なんすか急にこわ……」
《結界の構築完了しました。》
「……ガキが、あまり化け物を舐めるなよ。」
《安全制御機構、全段解放。》
刹那、青年の魔力が部屋を突き刺すように満たした。
堤防が決壊するように、全てを飲み込むように、肺に、胃に、直接水を流し込まれるような圧迫感と共に。
「っ!?」
「うぉっ!?」
「っ!!!?!」
魔力の濁流で押し潰すように、少女を見据える。
「化け物?お前が?お前ごときが!!?
ふざけるな!ふざけるのもバカにするのも大概しろ!!」
瞳を刺すように、嗤うのです。
「化け物とは俺たちのような、どうしようもない存在の事だ。
決してお前のような、ただ片眼が変わっているなどと、たったそれだけの、その程度の存在が名乗れるはずがないんだよ。」
さぁ、盛大にバカにしよう。
「貴様は化け物などではない、ただ哀れなだけのちっぽけな子どもだ。それだけだ。わかるな?
俺が保証してやる、貴様はただ化け物を舐め腐ったクソガキだ。
ぶち殺すぞ。エルフ。」
虚空さえ押し流す善意の泥の中で
叩き潰されるような圧迫感の内海で
滝壺に投げ込まれたような恐怖の中で
呆れ果てるような化け物を目の前に
それでも、それでも……
「それ、でも……わ、たし……は……ばけ、もの……え、るふ……つい、ほうさ……れた……」
と、小さな化物が、前を向いたのです。
「!!!」
「な、に、も……かわ、ら、ない……わた……し、は……まも、の……」
「……よろしい。では、その心意気に免じてゲームをしよう。」
《安全制御機構による魔力収束を開始》
緩やかに四散していく魔力に目眩がしているのか、ふらりとソファに座り込んだ少女。
手を差し伸べたい心を押し殺して、ハンドガンを取り出す。
本当に、ただの自動拳銃。
M1911を手に騙る。
「これは特別な魔具でね。本当に死にたいやつか、物にしか弾が出ないガラクタさ。」
全くの嘘。
「こんな風に、死ぬつもりがない奴にはなにも起きない。」
自分の頭に銃口を押し当てて、トリガーを数回引く。
「だが、物に対してはこう。」
次にりんごを一つ取り出して、りんごを掴んだまま撃ち抜く。
─ダァンッッ!!!
「わっ……」
「うおっ……」
「!」
なんのことはない。
撃ちたい時はシュティに弾を込めてもらうだけだ。それも、考えるだけで意思疎通ができるのだから。
「では、本当にお前が死にたいのか。試してやろう。」
「!……お、ねが……い……」
少女は静かに瞳を閉じた。
「さて、お前が勝てば死ぬ。何か言い遺すことは?」
「……あり、が、と……う……さよ、なら…….」
ふわり、と微かに笑った。
「あぁ、そうかよ……」
感傷に指をかける。
「え、ま、待って!?」
「マジでやるつもりっすよ!?!?」
「では、さようなら。小さな君。」
─ダァンッッ!!
そして、1発の銃声が部屋に響いたのでした。
書き上がったらとりあえず投稿です
戴冠戦とかブルーなアーカイブやったり二次創作したりしますが、なんだかんだこの趣味も楽しいですね




