第四話「討伐令」
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軍の先触れが来たのは、三日後だった。
若い兵士が一人、馬に乗ってやってきた。渡し場の前で馬を止め、ミナを見下ろした。
「ナギ将軍の命により、この渡し場を封鎖する」と兵士は言った。「以後、いかなる者も川を渡ることを禁ずる」
「理由を聞かせてください」とミナは言った。
「鬼の討伐のためだ。境界を封じれば、鬼はこちらへ来られなくなる。向こう岸を孤立させた上で、軍が渡る」
「向こう岸へ、軍が渡るということですか」とミナは言った。「この渡し場を使って」
「この渡し場を使う。邪魔をする者は、鬼の味方と見なす」
兵士は言い終えると、馬を返した。砂埃を上げて、北へ去った。
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「封鎖」とハルは言った。
「封鎖」とミナは言った。
二人は小屋の中に座っていた。
「従う気はないな」とハルは言った。問いかけではなく、確認として。
「従わない」とミナは言った。
「なぜ」
「渡し場は、渡す場所だ」とミナは言った。「渡せなくなれば、渡し場ではない。渡し場でなくなれば、私は番人ではない」
「番人でなくなることが嫌か」
「嫌ではない」とミナは言った。「しかし——向こう岸に人がいる。薬を買いに来た鬼が、里へ帰った。娘を訪ねた老婆が、まだ向こうにいるかもしれない。そういう人たちを、渡せなくなる」
「軍が渡ってくれば、向こう岸の里は滅ぼされる」とハルは言った。
「そうだ」
「止められるか」
「止められない」とミナは言った。「しかし、渡し場を軍に渡すことはしない。それだけは決めた」
ハルは立ち上がった。
窓から川を見た。
「ムロさんに知らせる方法はあるか」とハルは言った。
「舟を出せば向こうへ行ける。今はまだ封鎖されていない」
「向こうへ渡って、ムロさんを探す」とハルは言った。
「危ない」
「危ない」とハルは言った。「しかし、向こうの里に知らせなければ、準備ができない。軍が来れば、何も分からないまま攻められる」
「一人で行くのか」
「お前は渡し場にいなければならない」とハルは言った。「封鎖になる前に、向こうへ渡れる者を渡しておかなければならない。俺が向こうへ行く」
ミナはハルを見た。
「戻ってくるか」
「戻ってくると言った」とハルは言った。「約束した」
「約束した」とミナは言った。
「守る」
ミナは少しの間、黙っていた。
「急いで」とミナは言った。「軍が来る前に」
「急ぐ」とハルは言った。
舟を出した。川を漕いだ。向こう岸へ向かった。
ミナは桟橋から、舟が遠ざかるのを見ていた。
向こう岸の木立に、舟が消えた。
川が流れていた。
ミナは桟橋に立ったまま、向こうを見ていた。
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その日の午後、向こう岸から渡してほしいという声が来た。
川の向こうで、数人の鬼が手を振っていた。
ミナは舟を出した。一人で漕いで、向こう岸へ渡った。
鬼が四人いた。老いた者が二人、若い者が二人だった。
「封鎖になると聞いた」と老いた鬼の一人が言った。「こちらへ渡しておいてほしい。こちらに所用がある」
「何の用ですか」とミナは聞いた。
「人間の里に、知り合いがいる。軍が来る前に、別れを告げておきたい」
「渡れます」とミナは言った。
四人を舟に乗せた。
川を渡った。
こちら岸に着けた後、ミナはもう一度向こう岸へ舟を出した。
また何人かが待っていた。
それを繰り返した。
日が傾くまで、ミナは往来し続けた。
封鎖になる前に、渡れる者を渡した。
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夜になってもハルは戻らなかった。
ミナは小屋に灯りをともした。
待った。
川が流れる音が聞こえた。夜の川は昼より静かだった。
月が出た。川が月を映した。
光る川を見ながら、ミナは思った。
ハルは向こう岸で何を見ているだろう。鬼の土地の夜を、初めてまともに歩いているだろう。ムロさんを探しているだろう。あるいはもう見つけて、話しているだろう。
会いに行けなかった母親のことを、考えているかもしれない。
「急いで帰ってこなくていい」とミナは川に向かって言った。声には出さなかった。心の中で。「向こう岸で、会うべきものに会ってきてほしい」
月が、川を渡っていった。
光が、川面を動いていった。
真夜中を過ぎた頃、舟の音がした。
ミナは桟橋に出た。
ハルが戻ってきた。
疲れた顔をしていた。しかし、目に何かがあった。
「無事か」とミナは言った。
「無事だ」とハルは言った。
「ムロさんに会えたか」
「会えた」とハルは言った。「向こうの里にも知らせた。準備するよう伝えた」
「他に何かあったか」
ハルは舟を結びながら、少しの間黙っていた。
「母に会った」とやがて言った。
ミナは息を止めた。
「会えたのか」
「ムロさんが連れてきてくれた。向こうの里の外れで、待っていてくれた」とハルは言った。「背が小さかった。もっと大きいと思っていた。でも、小さかった」
「何を話した」
「たいしたことは話せなかった」とハルは言った。「時間がなかった。でも——」
「でも?」
「顔を見た」とハルは言った。「それで、十分だった」
ミナはハルを見た。
ハルの目が、月明かりの中で光っていた。
「良かった」とミナは言った。
「うん」とハルは言った。
二人は桟橋に並んで立った。
川が流れていた。月が映っていた。
「明日、軍が来るかもしれない」とミナは言った。
「来るだろう」とハルは言った。
「どうするか、決めたか」
「渡し場を守る」とハルは言った。「お前と一緒に」
「私もそう決めた」とミナは言った。
「では、決まりだ」
二人は川を見ていた。
月が、川の向こうへ沈んでいった。
夜が、静かに続いていた。
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(第四話 了)




