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第一章 酸素ハウスの静寂

リビングの隅にある透明な箱の中で、

オイラは息をしていた。


いや――

息をしようとしていた、の方が近いかもしれない。


胸の奥が重くて、

空気がうまく入ってこない。


吸っているはずなのに、

どこにも届かない。


そんな感覚が、ずっと続いていた。


かすかに流れる音が、耳の奥で揺れている。

その音に包まれていると、

少しだけ、楽になる気がした。


ここに入る前よりも、

ほんの少しだけ。


外の空気は冷たくて、

オイラの体にはもう強すぎたのかもしれない。


このぬるい、やわらかな空気の中で、

オイラはただ、呼吸を繰り返していた。


苦しい。


でも――

それをどう伝えればいいのか、わからない。


声にしようとしても、

うまく出てこない。


ただ、体の奥で何かが削れていくような、

そんな感覚だけが残っていた。


箱の外に、気配がある。


オイラは知っている。

この気配を。


いつもそばにいる人だ。


オイラの名前を呼んでくれる人。


目を開けようとする。

でも、うまくいかない。


それでも、わかる。


そこにいる。


すぐそばに。


ああ――

この時間は、静かだ。


走り回っていた頃のことを、

ぼんやりと思い出す。


風の匂い。

地面の感触。

呼べばすぐに振り返っていた、あの声。


オイラは、ちゃんと生きてきた。


そう思う。


胸は苦しいままだけど、

そのことだけは、はっきりしていた。


「寅」


その声が、聞こえた気がした。


ずっと前から、

そう呼ばれていた名前。


オイラは、それが好きだった。


返事をしたかった。


いつもみたいに、

すぐに顔を上げて。


でも――

体が、動かなかった。


だから、せめて、

この呼吸を止めないようにと、


オイラは、静かに、

息を続けていた。

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