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別格な神


それからしばらくは、雑貨屋で仕事をしながら、街を観察することにした。

相変わらずオモジイは、何かしら変なものを作っている。

あまりにもおかしなものは没収するが、たまには――ほんまにたまに――役に立つものもあるらしい。

街をぶらぶらしていた時、アクセサリー屋の店先でそれを見つけた。

オモジイ作の、勾玉ペンダントである。

「身につけると、ほんの少し綺麗に見える」

らしい。

……いや、実際は大して変わらない。

ただ、なんとなく――「あれ?ちょっとマシ?」くらいの気がするだけだ。

けれど、その「気がする」が大事なのだと、オモジイは言う。

自信がつくから、結果的に綺麗に見えるのだと。

まあ、理屈は分からんでもない。

それならええか、と販売は許可した。

――が。

これ、値段がなかなかのボッタクリである。

なるほど。

こういうので稼いどるわけか。

でないと、あの閑古鳥が常駐しとる店で、

私の給料が出るはずがない。

……いやほんま、どっから出てるんやろな、あれ。



森の方が騒がしい。

男たちが集まって、わあわあと声を上げている。

門を抜けて入ってきたのは――

やたらガタイのいい、キラキラ衣装の男。

背中には、バカでかい太刀。

堂々とした足取りで歩いてくる。

後ろには、ぞろぞろと男たちが続いていた。

……あれ?

肉屋の前で止まると、

ドカリ、と何かを降ろした。

――でっかい蛇だ。

「ありゃ、オクタヘッドサーペントじゃな」

オモジイが、のんびり言う。

「初めてか。見てきてええよ」

やったー。ダッシュだ。

人混みをかき分けて、覗き込む。

うわ。

ほんまに頭、8つある。

ピコン。

*スサノー*(須佐之男命)

やっぱり来たー。

そらそうよな。これしかない。

それにしても――

めっちゃかっこいい。

見回すと、周りの女子はみんな目がハートだ。

……わかる。

いやいや。いかんいかん。

首を振って、もう一度よく見る。

大きな蛇だ。

首だけで、人の胴くらいある。

……これ、どうすんの?

肉屋の店主が、ペコペコと頭を下げている。

その後ろでは、もうどんちゃん騒ぎが始まっていた。

「今日は祭りじゃー!」

スサノーの声が、町中に響く。


店に戻ると、オモジイはもう片付けを始めていた。

「おう。今日は店じまいじゃ。祭りじゃ」

「えらい突然ですね」

「スサノーはな、冒険者ギルドのギルマスじゃが、

時々こうやって狩りをして、皆に振る舞うんじゃ。

ここは決して恵まれた場所ではないからのう。貧しい者もおる」

あ、やっぱりあるんや冒険者ギルド。

「へぇ……優しい方ですね」

「まあ、怒らすと怖いがな。ハッハー」

いや、それは見たら分かる。

「てことは……あの蛇、食べるんですね」

「そうじゃよ。これがな、なかなかうまいんじゃ。

たっぷり酒を仕込んであってな」

そう言いながら、オモジイは棚から何かを取り出した。

――神印焼肉のタレ。

……あんたのやったんか。

「フフ。商売繁盛じゃ」



街中あげての、お祭り騒ぎだ。

屋台では肉が焼かれ、香ばしい匂いがあたり一面に立ち込めている。

その間を、オモジイがチョロチョロとタレを配達していた。

……商魂たくましいな。

あ、ドワーフだ。

ジョッキ片手にご機嫌やけど――

ちょっとここは避けとこ。

屋台の前では、子供たちが手を伸ばし、

人も獣人も入り乱れて、みんな笑っている。

踊ってるのはウサギ獣人たちか。

あ、いた。リザードマン。いっぱいおるけど見分けつかんな。離れとこ。


その真ん中に、どっしりと座る男。

――スサノー

優しい目で、町の様子を眺めていた。

横にスセリが、楽しげに話しかけている。

雑貨屋の前に腰を下ろし、マシロと一緒に肉をいただく。

わぁ……これ、鶏っぽいけど、

しっかり噛み応えもあって美味しい。

……あ、コガネも食べるん?

それ、共食いちゃうん。

まあ、ええか。あーんして。

パクっ。

――うん。このタレ、いける。

今度ちょっと、レシピ聞いとこ。


ふと横を見ると、クニオが走っていった。

そのままスサノーの前へ。

ぺこぺこと頭を下げて――

またどこかへ走っていく。

……忙しいな、あの人。

「ハッハー。あやつ、相変わらず頭が上がらんのよ」

オモジイが、愉快そうに笑う。

「え?誰に?」

「だって、ほれ。義父じゃろ」

「……えーっと、じゃあ――」

「スセリの父親じゃからな。

まあ昔は、あからさまにいじめておったが、

さすがにもうそんなこともせんがな」

……え。

町中に肉ふるまってる、あの優しい顔の人。

めっちゃ怖いやつやん。

……まぁ、がんばれクニオ。




宿に帰ると、ケツメが台所に立っていた。

手には、握りたてのおにぎり。

「おかえりなさい。いかがですか?おひとつ」

返事をする前に、マシロが手を伸ばす。

「こら、マシロ。……すみません、じゃあいただきます」

ホカホカの、塩おにぎり。

さっきの肉のあとには、ちょうどええ。

うまい。

「さっき、お友達がお米を届けてくださったので」

へぇ。

神の友達って、どんな人なんやろ。

「まぁ、本当は……いらないんですけどね」

……ん?

「お米だけはって、どうしてもおっしゃるので。フフ」

……ん?

そういえば、この人って。

「お祭りでお肉、焼いてたんですよ。

スサノーさんの……」

「ひぇー!」

ケツメの姿は悲鳴とともに消えていた。

……あ、やっぱり。


とりあえず、お米は安心。

まぁ他のものは......いや、考えんようにしよう。

ケツメの料理、美味しいし。街では日本食食べられへんし。

うん。そうする。

「な、マシロ」

「きゅん」



そっかー。スサノーかぁ。

かっこよかったよなぁ。

ああいう人、おったらええなぁ。

頼りがいあって優しくて。

いや。神やからなぁ。

部屋でボンヤリ考える。

「なぁマシロ、久し振りにギルド覗くか」

「きゅん」





******



=須佐之男命=

荒ぶる力を持つ一方で、人々を守る英雄神。

試練を越え、災いを祓い、新たな道を切り開く存在。





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