神の祝福
お祭り騒ぎの翌日、仕事が終わってから、ギルドに寄った。
この時間、案外、人がいる。
カウンターのスセリは対応中、ふわりとした尻尾にピンと立った耳。オオカミ獣人だ。
だいぶ見慣れたけれど、やっぱりまだ抵抗あるな。
掲示板を見てみる。
名前、年齢、職業。種族。
経歴やら収入やらのアピールポイント。でもこれ信用していいものか?
あ、たまに特殊スキルとかもあるけど、なんとなく胡散臭い気がする。
それから似顔絵付きもある。
いや似顔絵って、盛り放題じゃん。
それに私、まだリザードマンは区別つかへんし。
やっぱりオモジイも言ってたしな、ちゃんと頼んだほうがいいって。
カウンターが空いたので、スセリに声をかけた。
「お久しぶりですね、カツミさん」
「ええ、たまには顔を出そうかなー、なんて」
「掲示板ご覧でしたね、気になる方いらっしゃいますか?」
「いえ、特には」
「まぁ出来れば、こちらでマッチングされた方がいいと思いますよ」
「一応チェックはしてありますが」
「チェック?」
「ええ、まぁ例えばですねー、犯罪行為とか。そういうのはみんな隠しますから。そこは私どもが見ています。裏ステータスで分かるので」
「裏ステータスですか」
「ええ、一般の方には見えません」
「あ、神のみぞ知るですか」
「そういうことです」
なるほどなー。やっぱり神やなー。
「で、どうなさいます?マッチングしてみます?」
「そうですね。そろそろやってもいいかも」
「では、ご要望をお聞きします」
「えーっと優しくて」
「頼りがいがあって」
「あの、リザードマンさんとドワーフさん」
「いや、そこ外して」
「......」
「できれば普通の人で、あ、かっこいい人がいいな」
「つまりルックスですね」
ん?そう言われるとなぁ、どうなんだろう。
「カツミさん、ご要望はわかりましたが、あまり色々指定すると、お値段も高くなりますし、マッチングも難しくなるんです。なので、出来ればちょっと絞っていただいたほうが。特にルックスはお高いので」
「え?」
「今のご要望だと50エニになります」
「え、バイト1日分やん」
「ルックスだけなら30です」
んー。どうする。ホンマに美形くるんかな?
ええい。バイト代もちょっとたまってるし、行っちゃえ。
「じゃぁこれで」
30エニをカウンターに置く。
「承知いたしました。マッチングでき次第、またご連絡いたします」
ギルドを出ながら考える。
つい勢いで決めちゃったけど
「なぁマシロ、良かったんやろか?」
マシロは知らん顔だ。
ボンヤリしてたからか、階段でつまづいた。
「うわっ!」
あ。誰かが支えてくれた。
この人......
スキンヘッドのおっさん、初めてきた時におった人や。
「ありがとうございます」
「ん。」
そのままギルドに入っていった。
めっちゃ無愛想なおっさんやな、マシロ
「きゅるん?」
今日はなんだかギルドが騒がしい。
「どうしたんでしょう?」
「あぁ、今日は結婚式があるんじゃろ」
「え、ギルドでですか?」
オモジイいわく
婚活ギルドで成婚したら、ギルドで祝福を受けられる。
イザナギイザナミに報告すると、小さな加護が与えられるのだそうだ。
「じゃがな、あんた結婚式見たの初めてじゃろ。案外少ないんじゃよ。」
「え。なんでですか?」
「マッチングして、交際しても、ゴールまでいけるかは本人次第じゃ」
「まぁそうですけど」
「神はマッチングまで。それは以上は関わらん。
じゃから、他で結婚式を挙げる者もおるしな」
「あー、そういうことですか」
「じゃが、みんなわからんだろうが、ちゃんと神はマッチング後も見ているんじゃよ。
神に感謝する者には、祝福を与える」
「祝福って?」
「少しじゃがな、ステータスを調整しておる。長く添い遂げられるようにな」
「すごいことじゃないですか」
「いや、ほんの少しじゃ、気づかんくらいのな。
まあクニオとスセリは、その辺よくわかっとるからな」
「あ、なるほど」
「おぉ、始まったようだ。見てきていいぞ」
やったー♪
窓の向こう。
丸い鏡の前に、二人が並んだ。
リザードマンは、いつもの鎧じゃなくて、ちゃんとした正装。 けど、尻尾が、ゆらゆら揺れてる。
ウサギの子は、白い衣装に身を包んで、 長い耳をきちんと後ろで結んでる。でも時々、ぴくっと動く。
どっちも緊張してるな。
ーーいやこれ……まんま因幡の白ウサギやん。
一瞬、頭をよぎる。
……あかんあかん、あれ結構エグいやつやで。
ちらっとリザードマンを見る。
優しそうな目。うん、大丈夫そうやな。
クニオが、静かに手を上げた。
「これより、契りの儀を執り行う」
いつもの軽い調子とは違う声。 空気が、すっと変わる。
鏡が、ふわっと光った。
あれは――
二人の姿が映ってる。 ……だけ
その奥に、もう一つの姿が。
あれ……?
一瞬だけ。
リザードマンは、人の姿に。 ウサギの子も、同じように。
種族も、見た目も違うのに、 その“重なった姿”は、不思議とよく似て見えた。
「神は、形を見ぬ」
クニオの声が、静かに響く。
「心をもって、契りとする」
スセリが、鈴を鳴らす。
ちりん、と小さな音。
その瞬間――
鏡の光が、ふっと消えた。
……何も変わってない。
リザードマンはリザードマンのまま。 ウサギの子も、そのまま。
でも、さっきより、少しだけ。
二人の間の距離が、 ぴたりと、合って見えた。
「……今の、祝福ですかね」
思わず、つぶやく。
後ろでオモジイが、くくっと笑った。
「言うたじゃろ。ほんの少しじゃと」
「でも――」
十分やと思う。
あれだけで、 ちゃんと“夫婦になった”ってわかる。
「……ええなぁ」
ぽろっと出た。
あ、やば。
誰に聞かせるでもなく、独り言。
そのとき――
窓の向こうで、 ウサギの子が、ぱっと笑った。
それにつられて、 リザードマンも、ぎこちなく笑う。
(あー……)
あかん。
あれは、ずるい。
幸せって、ああいう顔するんや。
オモジイが、ぽつりと言う。
「神の加護なんぞな」
「はい」
「無くても、うまくいく者は、いく」
「……ですね」
「じゃがな」
少しだけ、声がやわらかくなる。
「うまくいく確率が、ほんの少し上がるなら」
「……?」
「それだけでも、十分ありがたいもんじゃろ」
うん。
それでええ。
奇跡みたいなもんやなくていい。
ちょっとだけ、 転ばへんようにしてくれるくらいで。
それくらいが、ちょうどいい。




