繋がる命
冒険者ギルドまで、必死で走った。
ギルドの前には、横倒しになった黒い馬車。
――あぁ、いない……。
ギルドに飛び込むと、ヤマトが手を振った。
「カツミちゃん、こっちこっち!」
ギルドの奥、簡易医療室。
カツミが飛び込むと――
空気が、ほんのり温かい。
白い湯気の向こうに、
タケシが横たわっている。
何かが、ぴょんぴょんと動き回っている。
「タケシさん……タケシさん!」
「うるさいのう。静かにしなさい」
湯気の中から、ぴょん、と飛び出した。
――ちっこいおっさん?
ピコン♪
*スクナ*(少名毘古那神)
「おいヤマトよ、もう大丈夫じゃ。スサノーに言ってこい」
「あの、本当に大丈夫なんですか?」
「ん?あんた……」
じっと顔を覗き込まれる。
「その顔……疲れておるじゃろ」
「いえ、私は……」
「かまわん。どうせしばらくは起きんから、ここにおれ」
ひょい、と指先をつままれて、連れて行かれる。
タケシの横に座り、そっと顔を見る。
――良かった。傷も無さそう……。
白い湯気に包まれて、
そのまま、意識が落ちた。
ふっと、目が覚める。
「どうじゃ、ちいとスッキリしたじゃろ」
確かに、体が軽い。
「なんちゃって温泉じゃ。オモジイとな、共同開発中でな。
まあ、うまいこと実験できたわ」
「え?オモジイとって……なんか他に、別機能とか……」
「ないない。まあ、ちーと強めの神力がな。
ここにはスサノーがおるでな」
「あの……タケシさんは」
「体を強く打っておったが、まぁ大丈夫じゃ。
死んでもおかしくはなかったが……」
にやりと笑う。
「まだ、あの世に行く気はないらしい」
「……良かった」
「朝までこの中で眠れば勝手に起きてくる。
あんたもな、無理はいかんよ」
朝。
カツミが目を覚ますと、
タケシはベッドの上に座って、ぼんやりしていた。
その姿を見た瞬間――
涙が、溢れた。
「カツミさん……おれ……」
言葉を聞く前に、
思わず抱きつく。
「おれ......ずっと...一緒にいたいんだ」
タケシは、ぎゅっと抱きしめ返した。
「すまんな、タケシ。
俺の監督不行届だ。本当に申し訳ない」
スサノーが頭を下げる。
「カツミよ、うちの冒険者の馬が暴れたんだ。タケシが馬車で止めていなかったら、もっと被害が大きかった。」
「タケシ、3日ほど、姉者の宿に泊めてもらえ。話はしてある。まだあまり動くなよ。スクナにもそう言われているからな」
ギルドの用意した馬車で宿に帰ると、テラが待っていた。
「タケシ、大変だったわね。ゆっくりして……
あら」
しまった。思わず繋いだ手を離すタケシ。
「お部屋、一緒がいい?」
「いや。別で」
「そう。じゃぁこっちに」
テラに続くタケシの肩に、どこからかカースケが飛んできて止まった。
「マシロ マジやば」
「きゅん」
タケシの部屋から、テラの笑い声が聞こえてる。
タケシの声は聞こえないけど、久々に会ったんだろうしな。
じゃぁ私はー。
「ちょっとオモジイの店に行ってきますー」
「はーい。いってらっしゃーい」
オモジイの店行くと
「大丈夫そうじゃな」
「うん。スクナ様が良くしてくれたよ」
「カツミの顔色も良くなったのう」
「エヘ。なんちゃって温泉。良く効いたよ」
「うむ。そりゃ良かった。そうそうー」
またゴソゴソして小さなプニプニの玉を取り出した。
「これな、なんちゃっての元じゃ。プチっと潰せば1時間程湯気が出る。持って帰って使ってやれ。ただし1日1回だ」
「わかった、ありがとう」
「それから、こっちもやろう」
「ん?なにこれ」
「飴じゃ。ワシは食わんから」
小さな紙包みを数個、プニプニ玉と袋に入れて渡された。
タケシが宿にいる間、休んでいいと言われたが、店には普通に出ることにした。
だって。
多分......間が持たん。
夕飯は、2人で食べた。
とはいえ、無言だ。
黙々と食べるタケシ。
話の糸口みつからんー。
食後のお茶を飲んでいると、テラが来た。
「オモジイ元気だった?」
「うん。あ、これ、もらった」
袋を出して、中身を広げる。
「プニプニは、なんちゃって温泉の元なんだって。後で試す?」
頷くタケシ。
「こっちは飴だって言ってたよ」
1つ取って紙を剥くタケシ。
「じゃぁ私も」
2人同時に口に放り込む。
テラがなんか笑ってる?
「好き」
「好き」
え?2人同時に?
吹き出すテラ。
あれ?何これ?
真っ赤になってうつむくタケシ。
「それ、本音飴よ。ふふっ、オモジイってば」
くっそーあのジジイ。
騙したなー。
没収や。絶対没収や。
でもーーなんかうれしい。
ふと、思い出す。
あの、小さな神様。
湯気の中で、ぴょんぴょん跳ねていた――
命を、つなぎ止める手が、
私達を繋いだ。
******
=少名毘古那神=
大国主神とともに国造りを助けた小さき神。
医療や薬、酒造、温泉の知恵をもたらし、人々の病や苦しみを癒したとされる。




