初めてのお客様
店では、またオモジイがゴソゴソしている。
何やってんだろう。気になるけど、今日のところは黙っていよう。だってーー
オモジイは、店にある小さめの棚を組み合わせて、屋台を作ってくれた。
広げて天板を固定するとちょうどいい大きさの売り場が出来、中の棚が使える。畳めるから店の隅に置いておける。
「これでよかろう」
「オモジイ、ありがとう」
「もう一つな、作っておるから待っとれ」
「何?」
「まぁ待っとれ、絶対いるもんじゃ」
店にあるもので使えるものは、安くゆずってくれるって。
さすが雑貨屋、よく探せば大概のものは見つかるのだ。
ただ、ちょっと古かったりするのだが。
ほこりをかぶった食器はきれいに洗った。テーブルクロスも洗濯した。
今探しているのは、鍋だ。どこかにあったと思う。見た気がする。どこだったかなぁ。
あ、レードル見つけた。
「おーい、カツミー」
「はーい」
探し物の手を止めて、オモジイのところに行くと、あった。鍋。この寸胴が欲しかった。
「なんじゃ、探しておったか。ワシのほうが早かったな、ハッハッ」
「それ欲しい」
「ああ。カツミなぁ、宿でカレー作って持ってくるんじゃろ?
じゃから、ちょっとこの鍋に細工した」
え。細工って。大丈夫なん?
「冷めるじゃろ。じゃからー。保温鍋じゃ」
うっそー。炭使おうかと思ってたけど。
「火を使うと加減が難しいだろうが。じゃから、できあがった熱々のカレーを入れてくるんじゃ」
「でも鍋じゃ冷めるじゃん」
「カツミよ。ワシを誰だと思っちょる」
「神様」
「フフフ。この鍋はな、2重構造じゃ。
間に保温材を挟んでおる。ぴったり蓋をすればかなり持つはずじゃ」
うわ。まともなやつキター。
「ただし、火にはかけるでないぞ。直火は鍋の傷みが早くなる。
必ず熱いのを移して蓋をする。これさえ守れば長く使える」
「オモジイー。ありがとうー」
思わず首に抱きついてしまった。
休みの日前日、少し早く仕事を上がらせてもらい、買い物に行く。カートに積んで宿に帰って、台所の隅に置かせてもらった。
肉は、冒険者ギルドから、朝一番に配達された。ヤマトが手配してくれた。
今日の肉はハイランドオークだ。大ぶりに切って、いつものように焼いてーー
出来上がったカレーを、保温鍋に移す。熱いから慎重に、小鍋ですくって移し、しっかり蓋をして、カートに乗せた。
よし、11時。いい時間だ。
店に行って屋台を広げる。テーブルクロスを敷いて鍋を置き、皿を準備しているとパンが配達された。
それからー
「カレー」と大きく手書きしたのぼりと、
屋台の隅に座ったマシロの首に、プレートを掛ける。
「カレー
一杯5エニ
ハーフ3エニ」
ハーフはお試しで食べてもらえるように。手を出しやすい価格だと思う。
よし。やるぞ。
マシロに目配せ。
「きゅっ」
ちょっと声を張り上げて、
「いらっしゃーい。
カレー、いかがですかー」
「キュルキュルキュー」
前を通る人たちは、不思議そうな顔で行き過ぎる。
なかなか立ち止まってもらえないけど、声をかけ続ける。
んー。やっぱなかなか厳しいなぁ。
ちょっとうつむいた私の前に、黒い影が。
「カレーください」
カチャリと銅貨が5枚置かれた。
顔を上げると、あ、このおじさん。
「あ、ありがとうございます」
皿にカレーをよそって、パンとスプーンを添えて。
「どうぞ」
「ん。」
おじさんは、横のベンチに座ると、匂いを嗅いで......一気に食べ始めた。
通る人がちょっと足を止めて見ている。
おじさんは、パンで皿をきれいにぬぐって口に放り込むと、すっと立って屋台の端に皿を置いた。
「ごちそうさん。美味かった」
そう言うと、立ち去った。
なんだかおじさんの目にうっすら涙が.......気のせいかな?
「ありがとうございまーす」
呆然と見送っていたら、オモジイが
「あやつがそのカートを作ったんじゃ」
えぇー。先に言ってよ。
お礼言ってないー。
おじさんが去ったあと、その様子を見ていた男の人が
「ハーフを」と。
「はい。ありがとうございます」
「キュキュッ」
またベンチで食べ始める。
遠巻きに見ている人が増えていく。
それからーー
2時間ほどでカレーは売り切れた。
片付けをしていると、
「初日にしては、よかったんじゃないかの」とオモジイ
「うん。今日は少なめにしてたし、次はもう少し増やすわ」
「水をな、置いておけ。ほしいやつもおるだろう」
「そうよね、ちょっとびっくりしてたもんね」
「ハッハ。だがみんな、食っていたんだろ」
「うん。残す人はいなかったよ。なんかねー。パンで拭うのが作法みたいになってた」
「そりゃいい。洗い物が楽じゃ。ハッハッハー
あぁそれとな、次の予定、貼っておけ。
いつやるか、分かるように屋台に貼っておけばええ」
「うん。そうするー。マシロもごくろうさん。頑張ったね」
「きゅん」
ゴロゴロとカートを押して、宿に帰りながら思い出す。
おじさん、泣いてたのかな......
あれって、カレーが嬉しかったのかな。
それとも......さびしかったんだろうか。
「ねえマシロ、どっちだろ」
カートの中からマシロが
「きゅる?」




