おにぎりは神のめぐみ
「おーい カツミー」オモジイが呼んでいる。
「はーい」店の片付けの手を止めて表に行くと、オモジイは空を見上げていた。
「これ、配達してくれへんか」 オモジイの手には、黒いてるてる坊主?
「何ですか?これ」
「ハッハー。変なもんじゃないぞ。そろそろいる頃じゃ。
これをな、町外れに農園があるんじゃがな、そこに届けて欲しいんじゃ」
「そこって、ウカミー農園ですか?」
「そうじゃそうじゃ。ちと遠いからの、ミニ馬車に乗っていけばいいぞ。今日はそのまま帰っていいからな」
わーい。
「マシロー。行くよー」
最近、宿でよくケツメとおしゃべりする。仕事が休みの日は、時々キッチンを借りて料理を作ったり、教えてもらったりしている。
ウカミーの話もよく出る。美味しいお米はウカミーからだ。
だからちょっと興味がある。
ミニ馬車は町の中心からぐるっと巡回する、いわゆるコミュニティバスのようなものだ。
ロバのような小さい馬が引く馬車は5〜6人しか乗れない幌なし荷馬車だが、安くて、こういう時に便利だ。
ミニ馬車はゆっくりと川沿いの道を下っていく。
川向う、はるか先にお城が見える。
「ほらマシロ、大きなお城が見えるよ」
お城は中世風、とがった屋根が、いくつも空に向いている。
城下町が広がっている。
神の住む町とは川で隔てられているのだ。
「でも、いつか行ってみたいね」
「きゅん」
あ。あれは.......
川沿いの公園。花を手入れしているのは、ラディスだ。
馬車に向かってひょいと手を挙げた。
「いい子なんだけどねぇ」
と、後ろから一回り小さなリザードマンが走ってきて、ラディスの隣に立った。
手にした花を髪に挿してやるラディス。
あらら、いい雰囲気じゃん。
良かったね、ラディス。
ゴトゴトと馬車は進んで、やがて町外れに。
「ここですね」
「ありがとう」
馬車を降りるとーー
広がる田んぼ。
風に揺れて、さわさわと音を立てている。
「うわぁ……」
思わず声が漏れた。
町の中とは、空気が全然違う。
土の匂い。水の匂い。
なんかこう、ちゃんと生きてる感じ。
「きゅん」
マシロも鼻をひくひくさせている。
その時――
「誰じゃー」
低い声。
振り向くと、田んぼのあぜ道に、一人の男が立っていた。
日に焼けた肌、太い腕。
首に手ぬぐいを巻いて、麦わら帽子。
いかにも農家、って感じ。
ピコン♪
*ウカミー*(宇迦之御魂神)
「配達です。オモジイから」
黒いてるてる坊主を差し出す。
「おぉ、来たか。」
受け取ると、軽く持ち上げた。
「何ですか、それ」
聞くと、男はニヤリと笑った。
「おーい、クエビーよ。来たぞー」
ぴょんぴょんと一本足で跳んでやってきたのは、カカシだ。
ピコン♪
*クエビー*(久延毘古)
「あぁ良かった。欲しかったところです」
わ。カカシしゃべった。
そっか、カカシも神様なんだ。
ウカミーが、黒いてるてる坊主をクエビーの首にかけると、またぴょんぴょんと畔の向こうに跳んでいった。
「雨よ」
え?
「ここは雨が少ないからな。川からも水は引いているが、それでも日照りが続くと米にはちときつい。
クエビーも頑張っているがな、そのサポートだ。
雨は1度しか降らせんが、まぁそこはクエビーがタイミングを計っているし。十分役立つんじゃ」
へー。それで黒。
案外オモジイってすごい神なのかも。
「あんた、カツミさんじゃろ。聞いとるよ、ケツメからな」
「はい。よろしくお願いします」
「おぉ。握り飯を作ったからな、食っていけ」
やったぁー♪
母屋は茅葺きだ。
お皿いっぱいに盛られた大きなおにぎり。ツヤツヤに光っている。
ウカミーの、あのごつい手で握ってくれたんだと思うと、ありがたくてたまらない。
縁側に座っておにぎりにかぶりつく。
広がる田んぼ。風が、短い稲の上を渡ってくる。少しヒンヤリと気持ちいい。
ウカミーがぱっと庭先にコメを撒くと、スズメくらいの大きさの鳥が、いっぱいついばみに来た。
いいなぁ。忘れていた風景。
そうだ。私、こんなところに住みたかったんだ。
「ハハッ、クエビーにはナイショじゃよ。怒るんじゃ。マジで怖い」
そりゃ怒るわ。
「どうじゃ。うまいか」
マシロが口いっぱいに頬張って、ウンウンと頷いた。
「はい。とっても美味しいです」
青い空の下で食べる真っ白なおにぎり。それだけでご馳走だ。
「そうか。食え食え。腹いっぱい食え。ハッハッハ」
マシロが次のに手を出した。
お腹がいっぱいになり......ポカポカのお日様。
ーー風が気持ちよくって、うっかりうたた寝してしまった。
ガバっと飛び起きた。
あー。やっちゃったぁ。
「おう、起きたか」
「すみません、つい気持ちよくって」
「かまわんよ。ちょっと待ってくれな」
ん?
あー、そろそろ帰らなきゃなー。
戻ってきたウカミーの後ろには、馬車が。
馬を引いているのは、見覚えがある。
あ、ギルドのハゲたおっさん。
「宿まで送ってもらえ」
「あ、いいんですか?」
「ちょうどケツメに米を届けるつもりだったんでな、ついでじゃよ。ついで」
「じゃぁお願いします」
「ん。」
******
=宇迦之御魂神=
穀物と食物を司る神。
豊穣と実りをもたらし、人々の暮らしを支える存在。
=久延毘古=
一本足の神とされる知恵の神。
動くことはないが、世のあらゆることを知る存在。




