神の三角関係
こっちに来て、かれこれ3ヶ月。
町にも慣れてきた。
店に出ていると、声をかけてくれる人もいる。
この町は案外暮らしやすい。
確かに便利なものがいろいろない。
薪で料理、夜はランプ。出かけるのもたいがい歩く、遠ければ馬車だ。
紙や布も貴重だから、大切に使う。
それでもあまり不便を感じないのは、人とのつながりだろうと思う。困っていると誰かが手を貸す。お互い様だと笑いながら。
テレビやスマホがなくても。
ーーとっくに失ったはずのものが、まだここにはちゃんとある。
お城も教会もあるそうだ。
でも、うまく付き合えているとオモジイは言う。
日本から来た神様は、みんな普通の暮らしのなかに溶け込んでいて、ただのひと種族なのだと。
テラが来た当初は少し大変だったようだが、持ち前の肝っ玉母さんぶりを発揮したらしい。
「まぁテラを怒らすと大変じゃしな」
そう、やはりここでもやらかしたらしい。洞窟にこもってしまい......
結局、王も教会も、何も言わなくなったと。
婚活はちょっと様子見。エルフでこりた。
スセリさんは気にかけてくれるが、クニオは相変わらずだし、それに今、いろいろ楽しいし。
「おーい、カツミ。配達行ってくれ。花屋にな」
「ん?何持っていくん?」
オモジイは棚から小ビンを取り出した。
「これこれ」
また変なもんとちゃうんか。
「これは、そんなけったいなもんやないから。まあ向こうで聞きゃええよ」
地図を書いてもらって出かけた。
ビンを日に透かすと、綺麗なブルーの液体。
「なにに使うんやろ、なぁマシロ」
「きゅるん」
あった。サクヤ花店。
いかにもな名前やなぁ。
もしかして......
「ごめんください」
「はーい」
え?この人違う。
ピコン♪
*イワナ*(石長比売命)
「あ、お姉さんですか」
「ブサイクやって言いたいんやろ」
あ、バレた。
「配達です」
「あ、オモジイか。そこに置いといて」
奥に誰かいる。綺麗な人や。花びら舞ってるし。
いや、床花びらだらけやん。
ピコン♪
*サクヤ*(木花咲耶比売命)
こっちが店主?
「店やってるのは私。妹はフラフラしてるだけ」
「このビンの、なにに使うんですか?」
「これな。あの子おらんかったら必要ないんやけど」
どうやらサクヤが店にいると、売り物の花がどんどん開いてしまうらしい。
つぼみが欲しくても咲いてしまう。
で、オモジイに作ってもらった、開花抑制水らしい。
「ほんまに、咲かすばっかり。なんもせん。
さすがのうちも、切り花はどうにもならんし」
なんかツッコミようがないなぁ。
と、
「ただいま、行ってきたで」
お、いい男入ってきた。
「ご苦労さん」
ピコン♪
*ニギー*(邇邇芸命)
奥へそのまま入っていった。
あ、ツッコめそう。
「今の方って」
「あー。元旦那」
やっぱり。てか、三角関係?
「私はもうどうでもええんよ。見てくれだけの男は要らんし」
あ、エルフ。
「でも、悪いと思ってるんちゃう?手伝いたいって言うから配達させてる」
イワナは花束を持って奥に声をかけた。
「ニギー、配達お願い。婚活ギルドよ」
「え。俺、今帰ってきたとこやで、ちょっとは......」
「だめよ、どうせここにいてもサクヤと遊んでるだけじゃない。行っといで」
んー。残念なイケメン。しぶしぶ出ていった。
イワナとひとしきりおしゃべりして店に帰ると、ギルドの前に人だかり。
かき分けて覗くと
クニオとニギーが。
あれ?にらみ合い?
「ま、因縁じゃし、しょうがないんじゃ」
「え?因縁?」
「まあほっといてもええ。そのうちクニオが引き下がるわい」
「あー。そう言うとありましたよねー」
「一応な、やつも格好だけでもつけんと、な。」
「なるほど。
案外大人ですね、クニオ」
「そりゃそうじゃ。
見た目はあれじゃが、国造りは見事じゃったんじゃよ、うん」
あ。クニオが花束をひったくってギルドに戻った。
ニギーもホッとした顔をして帰っていった。
「めったに出くわさんが、ま、会うとああなるんじゃよ、ハッハー」
ニギーも色々と大変だな。
宿に帰ってテラに今日のことを話した。
「あらぁー。ニギーには悪いことしちゃったかしらね、元は私だし。ふふっ」
あ、そうや根本はここにおった。
「でも、ほんとはみんなそんなに気にしてないわ。だって大昔のことよ、わかっててやってる。意地っ張りなのよ」
「そうなんですか」
「ま、例外もいるわよ、うちのケツメみたいに」
「そう言うと以前、口に出しただけで逃げました」
「でしょ。だから、弟はうちには来ないの。私はたまに会いに行くけどね」
「ケツメさん、お友達がいるって言ってましたね」
「ええ、ウカミーね。町外れでお米作ってる。ちょっといい感じよ。行ってみればいい」
へー。今度行ってみようかな。
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=石長比売命=
永遠や不変を象徴する女神。
その姿は醜いとされたが、命の長さと安定を司る存在。
=木花咲耶比売命=
花のような美しさを持つ女神。
儚くも華やかな命の象徴として知られる。
=邇邇芸命=
天孫降臨により地上を治めた神。
高天原の意思を継ぎ、国を統べる役目を担った存在。




