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第69話:限界ギャルの素顔、あるいはホストクラブへの誘惑

「ちょっと、貴子ちゃん? どうしたの、急に顔色悪くなって……」


ルミが不思議そうに俺の顔を覗き込む。


「い、いや……なんでもないです……。ちょっと、急に酔いが回ったみたいで」


俺は引きつった笑いを浮かべながら、手元の唐揚げ棒をギュッと握りしめた。


「そっかー。初めてのお酒だったし、無理しないでね」


ルミはあっけらかんとしてチューハイを煽った。彼女の深く追求しない明るさに、俺は密かに救われていた。


「私さ、こう見えて地方出身なんだけど、親がけっこう甘くてさ。この部屋の家賃、十万以上するんだけど、半分は親もちなんだよね」


「えっ、そうなんですか?」


俺は素で驚いた。家賃の半分を親が払ってくれているのか。

六畳一間のアパートでカツカツの生活をしている俺からすれば、完全に住む世界が違う。


「でもさー、私すっごい金遣い荒くて。家賃の残り半分も払わなきゃいけないし、親のお金だけじゃ全然足りないから、バビロンで週4で働いてるの」


「週4で……ルミさん、お給料どれくらいもらってるんですか?」


「うーん、月で100万くらいかな?」


「ひゃくまん!?」


時給三千円に喜んでいた自分が、急にひどく小さく思えた。


「いつもはラストの1時までお店にいるんだけどね。今日は貴子ちゃんの本入店初日だったし、一緒に帰りたくて早く上がらせてもらったんだー」


「あ……ありがとうございます」


俺のために、稼ぎ時である時間を削って早上がりまでしてくれたのか。

ちょっと申し訳ない気持ちになると同時に、ルミの面倒見の良さに少し胸が温かくなった。


「局、月に100万も稼いで、何に使ってるんですか? 服とか、コスメとか?」


俺が尋ねると、ルミはニヤッと妖しく笑って身を乗り出してきた。


「ホスト」


「……はい?」


「ホストクラブ! いつもお店のカオルって子と仲良くて、一緒に遊びに行ってるの。推しの担当にシャンパンとか入れてると、100万なんてあっという間に溶けちゃうんだよねー」


なるほど。限界オタクの行き着く先はホスト狂いだったか。

キャバクラで稼いだ大金を、そのままホストクラブで溶かす。まさに夜の街の生態系そのものだ。


「ねえねえ、貴子ちゃん!」


ルミが突然、テーブル越しに俺の手をギュッと握ってきた。


「今度、私とカオルと一緒にホスト行こうよ! 貴子ちゃんみたいな超絶美少女連れてったら、絶対お店の男たち全員狂うと思うんだよね! あー、想像しただけで最高!」


「えっ!? いや、私はそういうの……」


「大丈夫大丈夫! 初回は安いし、私が奢ってあげるから!」


目を輝かせて迫ってくるルミを前に、俺は引きつった笑顔のまま、心の中で全力のツッコミを入れた。


(中身が男の俺が、男のホストに接客されてどうするんだよ!!)


美術系のトラウマから抜け出したと思ったら、今度はホストクラブへの誘惑。

絶世の美少女の体を手に入れた代償は、俺の想像の斜め上をいき続けていた。

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