限界オタクの乱入、あるいは理性を削る百合営業
「失礼しまーす!」
聞き慣れた明るい声とともに、鮮やかな赤のドレスを着たルミがボックス席に現れた。
「おっ、ルミちゃん」
広々としたコの字型ソファの奥、その特等席とも言える中央でふんぞり返っていた水黒部長が、嬉しそうに手を挙げる。
ルミはニコニコと笑いながら近づいてくると、部長の左側に座っていた藤井さんの腕を遠慮なく掴み、強引に立ち上がらせた。
「水黒さん、藤井さん、今日はうちの貴子ちゃんを指名してくれてありがとうございます! もー、遠くから見てても貴子ちゃんがガチガチに緊張してるのわかって、先輩心配になっちゃいましたよ〜! ほら、藤井さんはちょっとそっちの席に移動して移動して!」
「お、おう? なんだルミちゃん、急に」
ルミは戸惑う藤井さんをテーブルを挟んだ手前側へと追いやると、空いたスペース――水黒部長の左側――にすとんと滑り込んだ。
右にロイヤルブルーのドレスを着た清楚な美少女(俺)。
左に赤のドレスを着た華やかなギャル(ルミ)。
中央に取り残された水黒部長は、両脇から押し寄せる美女の気配に一気に鼻の下を伸ばして相好を崩した。
「がっはは! こいつは急に贅沢な席になったなぁ!」
だが、ルミの真の狙いは部長への接待などではなかった。
「ねえねえ、うちの貴子ちゃん、ちゃんといい子にしてましたかー?」
ルミは水黒部長の存在を完全にスルーし、彼の胸の前を塞ぐようにして、右側にいる俺の方へとぐいっと上半身を乗り出してきた。
「もー、貴子ちゃん本当に大丈夫だった? 怖くなかった?」
「えっ、ちょ、ルミちゃん顔近いって……!」
中央の水黒部長をまたぐようにして、ルミが俺の肩を抱き、頬に触れようと身を乗り出してくる。そのたび、彼女の鮮やかな赤のドレスに包まれた豊かな胸が、間に挟まれた水黒部長の腕や胸板にモロに押し付けられた。
「おおおっ!?」
水黒部長が嬉しそうに、かつ困惑したような変な声を上げるが、限界ドールオタクと化したルミの耳には届いていない。
「見てくださいよ部長、このロイヤルブルーのドレス! 私が選んだんですけど、貴子ちゃんの白い肌にめちゃくちゃ映えて最高じゃないですか!? ああもう、生きててよかった……!」
「お、おう、本当に綺麗だねぇ……って、ルミちゃん、ちょっと当たってる、色々と当たってるからね!?」
おじさんの必死の自己申告などどこ吹く風で、ルミは俺の髪を愛おしそうに撫で回している。
真ん中に挟まれた水黒部長は、物理的には「両手に花」の天国のはずなのに、眼前で至近距離から繰り広げられる美少女とギャルの濃厚な百合空間のエネルギーに圧され、完全にパニックと歓喜の狭間で硬直していた。
手前の席に完全に取り残された藤井さんに至っては、もはやお酌をする隙間すら失い、「ウイスキー……ロックでいいですかね……」と、気配を消してグラスをいじるだけのマシーンと化していた。




