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朝の光と自己寝取られ

朝の白い光が六畳間に差し込み、翔子はいっきに目を覚ました。


隣で規則正しい寝息を立てている横顔を見て、彼女の心臓が凍りつく。

 そこにいるのは、まだ十五歳くらいにしか見えない、線の細い美少年だった。


(どうしよう……未成年と関係してしまった。これ、完全に青少年保護育成条例違反だわ……!)


昨夜の狂気的な熱は、太陽の光とともに完全に吹き飛んでいた。

 もし今、本物の隆史くん(兄)が帰ってきたらどうなる?


翔子は跳ね起きると、床に散らばった服をかき集め、慌てて身を整えた。


「弟くん、すぐに服を着て」

「……なんで?」

「お兄さんが帰ってきたら困るでしょ!」


寝起きの頭が働かない隆史が「兄さん?」と素で聞き返すと、翔子の頬にはつーっと涙が伝っていた。

 情緒が完全に不安定になっている。


「まず、急いで服を着て。私、ここにはいられないから。あとでゆっくり話しましょ。……昨日のことは、絶対に誰も言っちゃだめよ」

「わかった。約束するよ」

「あと、連絡を取りたいから、連絡先教えて」


隆史が無意識に自分のLINEのQRコードを示そうとすると、翔子は弾かれたように首を振った。


「だめ! それ、隆史くん(兄)の携帯でしょ。それを使ったら、お兄さんにわかっちゃうじゃない。……とにかく、ここを離れましょう」


翔子は隆史に無理やり服を着せると、その細い腕を引っ張って下宿を飛び出した。

 早朝の冷たい空気の中、年上の女が美少年を引きずって歩く絵面は、客観的に見てかなりまずい。


翔子の足が向かったのは、近くにある園田スポーツセンターのグラウンドだった。

 あそこの中央なら、誰にも聞かれることはない。


「園田スポーツセンターに行くわよ」


前を歩く翔子に腕を引かれながら、隆史は少し面倒になって口を開いた。


「なんだよそれ。なんでそんなとこまで行かないといけないんだ。ここで話せばいいだろ」


その瞬間、翔子の背筋に冷たい汗が流れた。


今の一言。弟属性が完全に消え去っている。

 まるで本物の隆史くんと話しているような錯覚に陥ったのだ。


「ここでは……話せないの。お願い」

「……わかったよ」


隆史が再び大人しくなったことで、翔子はなんとか思考を立て直した。



早朝の園田スポーツセンター。

 人っ子一人いない広大なサッカーグラウンドの中央に、二人は立っていた。


「ここでいいの?」

「うん……昨日は……ごめんなさい。あなたの……初めてを、あんな強引に奪ってしまって……」


(……ああ、そうか)


隆史は内心で深く納得していた。

 昨日は、浮気を疑う翔子の目を逸らすために「うぶな弟」を全力で演じていたのだ。

 朝になって彼女は完全に正気に戻っているらしい。


昨夜激しくエネルギーを消費したせいで、胃の奥では猛烈な「肉飢餓」がうねりを上げている。

 しかし、目の前の展開があまりにも面白すぎて、空腹すら一時的に麻痺していた。


もちろん、翔子のことは好きだ。

 だが、このヤンデレ気質を秘めた彼女に今、正体がバレたら確実に殺される。


だとすれば、どう答えるのが正解か。

 隆史は少しだけ俯き、長い睫毛を揺らして、最高の「共犯者」の顔を作った。


「……僕、お姉さんのこと、好きです」


鈴を転がすような甘い声に、翔子がビクッと肩を震わせる。


「初めてが、翔子さんで良かったです。……だから、これからも付き合ってください。隆史兄さんにも……あの、兄さんがよく話してた『宝塚さん』? にも内緒で」


隆史があえてカマをかけるように「宝塚」の名前を出すと、翔子はふっと憑き物が落ちたような、少しだけ冷酷な顔で微笑んだ。


「宝塚くんのことは……もういいの」

「えっ……」


「彼は確かに美しかったし、素敵な人だった。でも、彼はもう一人で『完成』されているから……私がいなくても大丈夫なの」


翔子は、美少年の折れそうな体を強く、逃がさないように抱きしめた。


「でも、あなたは違う。まだ未完成で危ういあなたを、私が一から育てて『完成』させたいの。……宝塚くんと一緒に見た映画の、あの主人公みたいにね。私があなたを、究極の作品にしてあげる」


――その瞬間、隆史の頭の中で何かが完全にへし折れた。


(俺との映画の思い出を、俺を捨てる理由に使うなよ!!)


自分が心血を注いで作った「理想のイケメン」が、『もう完成されてるからいじり甲斐がない(用済み)』という芸術家の残酷なエゴによって、急造品の美少年にあっさり敗北した瞬間だった。


(ていうか、俺が映画の感想で語った『完成していく過程がいい』って言葉、お前のヤバいプロデュース欲の燃料にされてんじゃねえか!!)


(完全に俺、俺自身に寝取られてる!!)

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