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隣のクラスの「氷の令嬢」が、隣の部屋で空腹のあまり倒れていた件。〜胃袋を掴まれた彼女が、俺の前でだけ「ふにゃふにゃ」になるまで〜  作者: 比津磁界
第2章

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第99話:夜空の瞬きと気付くこと。

ついに、待ちに待った花火大会が幕を開けます。

人混みを避け、ベランダから見上げる夜空。

「……あ」


地響きのような重低音が遅れてやってくる。

夜空に大輪の華が咲き、一瞬だけ、ベランダが昼間のような明るさに包まれた。

赤、青、金。極彩色の光が、交互に僕たちの顔を照らし出す。


「すごい……。こんなに近くで、ちゃんと見たの、初めてかも」


凛が、子供のように瞳を輝かせて空を見上げている。

僕も、その光の粒子に視線を奪われていた。


実は、僕も花火をまともに見るのは初めてだった。

これまでの夏、僕にとって花火は「騒がしいだけのノイズ」でしかなかったから。


かつての僕なら、きっと今頃、部屋のカーテンを固く閉めて、ヘッドホンで音を遮っていただろう。

「サポーター」なんて仮面を被る前、僕はもっとずっと、卑屈で、一人の暗闇に閉じこもるのが得意な子供だった。

誰かの役に立たなければ居場所がない。自分を「人間」ではなく「道具」だと思い込むことで、ようやく息をしていた時期があった。

その頃の僕にとって、華やかな花火は、自分の孤独を際立たせるだけの残酷な光だったんだ。


……けれど、今は。


(……温かいな)


たまたま、家が隣同士で。

たまたま、彼女が倒れているのを見つけて。

たまたま、十日間だけのサポーターになった。

そんな「たまたま」が何百、何千と積み重なって、今の僕は、こんなにも綺麗な景色を、隣で笑う誰かと一緒に見ている。


(……ああ。幸せだな)


サポーターとしての責任も、自分への卑下も、今はどうでもよかった。

ただ、この偶然がくれた一瞬の「幸せ」を、目に、心に、焼き付けておきたかった。



一方、凛は夜空を見上げるフリをして、隣にいる朝陽の横顔を盗み見ていた。

花火が弾けるたびに、彼の端正な輪郭が鮮やかに浮かび上がる。

いつもは「有能なサポーター」として眉間に皺を寄せている彼が、今は、迷子が見つけた光を追いかけるように、純粋で、穏やかな目をしていた。


その横顔が。

火花が散って消えてしまう瞬間のように、酷く儚くて、今にもどこかへ消えてしまいそうに見えて。


(……あぁ。だめだ)


胸の奥が、壊れそうなくらい激しく締め付けられる。

これはもう、単なる「感謝」や「居心地の良さ」なんて言葉で片付けられるものじゃない。

毎朝のご飯の匂いも、不器用な優しさも、昨日のマッサージの時の熱も。

全部、全部が、今の私を形作っている。


この人を、離したくない。


いつか彼が「完璧なサポーター」としての役割を終えて、私の前からいなくなるなんて、耐えられない。

朝、隣から漂ってくるご飯の匂いも。

ぶっきらぼうだけど、誰よりも私の体調を気遣ってくれる大きな手も。

自分を「ただの道具」だと言い切る、その不器用な心も。


全部、私が守りたい。全部、私だけのものにしたい。

たとえ今のこの関係が、ただの「たまたま」だとしても。

私はこの手を伸ばして、彼をこの場所に、私の隣に、繋ぎ止めておきたい。


(……離したくない。絶対に、離したくないんだ)


爆音の中で、自分の鼓動だけがはっきりと、痛いくらいに響いている。

それが「恋」なのか、まだ確信はない。

けれど、この人を失うくらいなら、私はなんだってできる……そんな確信だけが、腹の底に重く沈んでいた。



「……朝陽くん、これ、夢じゃないよね?」


凛が、夜空を見上げたまま、ぽつりと呟いた。

顔は見えない。けれど、その声は微かに震えているように聞こえた。


「ああ。……夢なら、こんなに火薬の匂いはしないはずだ」


俺は、無理に作った落ち着いた声で答える。

そうでもしないと、隣にいる彼女の存在があまりに眩しくて、自分まで溶けてしまいそうだったから。


「……そうだね。……よかった。今年、朝陽くんと一緒に見られて」


「……僕もだ。……ありがとう」


俺たちはそれ以上、何も言わなかった。

ただ、夜風が二人の間を通り抜け、遠くで響くお囃子の音を運んでくる。

繋いでいないはずの手が、すぐそばにあるような気がして。

触れていないはずの心が、重なり合っているような気がして。


俺は、そっと拳を握りしめた。

この時間が、永遠に続けばいいのに。

サポーターの仮面が剥がれ落ちるのを、必死に食い止めながら。


夜空が、一瞬の静寂に包まれる。

次の一発が上がるまでの、わずかな隙間。

そこで僕たちは、お互いの本音を隠したまま、同じ未来を願うように息を潜めた。


第99話、ありがとうございました!

凛ちゃんが「この人を離したくない」という強烈な独占欲に近い感情を自覚した夜。

あえて「好き」と言葉にしないことで、二人の間の緊張感がより際立ちました。

「火薬の匂い」という現実を噛みしめる二人の、静かな決意。


続きが気になる!と思ってくださった方は、ぜひブックマークや下の【☆☆☆☆☆】で応援をいただけますと嬉しいです!

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