第89話:溶けた不安と、気がついたこと。
親友・陽菜ちゃんとの密談。
なにか掴めるといいですね!
最初は、ただの「救世主」だった。
ボロボロだった私を救い、生活を整えてくれた、頼りになる裏方。
でも、いつからだろう。
彼が作ってくれる味噌汁の匂いに、子供みたいに安心するようになったのは。
彼にマッサージをされている時、本当はもっと「このままでいたい」と願うようになったのは。
「……私ね。たぶん、彼に『甘える』のが怖かったんだと思う」
絞り出すように、私は言葉を紡いだ。
「サポーターとして完璧すぎるから、私がわがままを言ったり、女の子の部分を見せたりしたら、この心地いい関係が壊れちゃうんじゃないかって。……でも、昨日のあの時。ブラジャー姿を見られた時、最悪だって思ったけど……。どこかで、『彼ならいいや』って思っちゃってる自分がいたの」
「…………」
「私を救ってくれたからじゃない。……朝陽くんが、不器用で、真面目で、時々ズレてて。それでも私のために必死になってくれる……その『全部』が、もう私の中で、代わりがいないものになってるんだと思う」
言葉にしてみて、初めて気づいた。
私はもう、彼がいない生活を想像できない。
それは仕事のパートナーとしてだけじゃなく、一人の男の子として、私の隣にいてほしいという「欲」だった。
「……なんだ。凛、もう答え出てるじゃん。瀬戸のこと、好きなんだね」
「男の人として好きかは…まだわからない…かな…」
陽菜はふっと柔らかく笑い、私の頭をポンポンと叩いた。
派手なネイルが、私の髪を優しく撫でる。
「過去に色々あって臆病になってる瀬戸と、自分の気持ちに気づいちゃった凛。……いいじゃん、じれったくて。」
「……もう、すぐそういうこと言う」
「いい? 凛。彼は過去のせいで、自分から踏み込むのが怖いだけ。だったら、無理に距離を詰めたりとかしなくていい。ただ少しずつ少しずつ寄り添って、彼がいてくれることに心から感謝して、笑ってる。それが、彼にとっての『救い』になるんじゃない?」
陽菜のアドバイスは、私の不安をきれいに溶かしてくれた。
特別なことをしなくていい。ただ、私は私のままで、彼を信頼していればいいんだ。
「その内、凜の抱いてる感情が、恋なのかそうでないのかもハッキリすると思うな」
「……陽菜、ありがとう。なんか、胸のつかえが取れた気がする」
「いーえ。またパンクしそうになったら、いつでも呼び出しなさいね。その内ご飯食べに行っていい?」
「聞いてみるね!」
夕暮れ時。陽菜と別れて、一人アパートへの道を歩く。
カフェを出た時よりも、足取りは驚くほど軽かった。
(……サポーターだから、じゃない。朝陽くんが朝陽くんだから、私は一緒にいたいんだ)
アパートの前に着き、私は深く息を吐いてから、ドアノブに手をかけた。
「ただいま、朝陽くん!」
玄関を開けた瞬間、私は自分でも驚くほど明るい声を上げた。
それと同時に、食欲をそそるスパイスの香りが鼻をくすぐる。
「……お、おう。おかえり」
キッチンで鍋をかき混ぜていた朝陽くんが、びくっとして肩を揺らした。
ゆっくりと振り返った彼の顔は、今朝のあの「鉄の意志で目を合わせない」状態とは違い、少しだけ戸惑ったような、でもどこか安心したような表情をしていた。
「……早かったな。リフレッシュ、できたか?」
「うん! 陽菜といっぱい喋って、すっごくスッキリした」
私は靴を脱いで、そのままキッチンまで歩いていく。
朝陽くんが着ている、少し使い込まれたエプロン。その後ろ姿。
今までは「完璧なサポーター」に見えていたその背中が、今はなんだか、守ってあげたいくらい愛おしく見えた。
朝陽君への感情が少しわかった凜ちゃん。
恋かはまだわからなくても、接し方がわかってよかったと思います。
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