第88話:陽菜の分析と、素直になれない私の本音。
カフェの片隅で、ついに「女子会」が始まります。
出会いから三日間の濃すぎる思い出、そして昨日の大惨事。
一人で抱えるには重すぎた秘密を、凛ちゃんはついに親友・陽菜ちゃんにぶちまけます。
見た目は派手なギャル、中身は誰よりも友達思いな陽菜ちゃんが導き出す、二人の関係の「本当のところ」とは。
待ち合わせ場所の駅前に着くと、そこにはすでに陽菜がいた。
流行りのシアーシャツをさらりと着こなし、スマホをいじる姿は、遠くからでも目立つ。
「おーい、陽菜!」
「おっ、きたきた」
陽菜は顔を上げると、私を上から下までジロジロと眺め回した。
そして、不敵な笑みを浮かべる。
「今日は変装なし? っていうか凛……顔に『色々ありました』って書いてあるよ?」
「……やっぱり?」
「隠す気ないでしょ。っていうか、その服。おじいちゃん(瀬戸)を殺しにかかってるの?」
「殺してないよ! ……ていうか、そもそも見てもくれなかったし」
「へぇ……? 『見ないようにしてた』の間違いじゃなくて?」
陽菜は私の腕を掴むと、グイグイと近くのカフェへと引っ張っていった。
「さて。話を聞かせてもらおうか。おじいちゃん(瀬戸)と孫に何が起きたのか……一言一句漏らさずね?」
カフェの奥まった席に座るなり、陽菜はストローを指で弄りながら、獲物を見つめるような目で私を見た。
「まずは、その……『手を使わないマッサージ』を相談してきた凜が、どうやって今の『顔に色々書いてある』状態まで進展したのか。……全部聞かせてくれる?」
「……うぅ」
私は冷たいアイスコーヒーを一口飲んで、覚悟を決めた。
これから話すことは、きっと自分でも整理できていない「熱」の話になる。
朝陽くん、ごめん。……全部、話しちゃうからね。
カフェの隅、結露したアイスコーヒーを前に、私は出会いから今日までのすべてを話した。
スランプでボロボロだった私を救ってくれた、完璧すぎるサポーターとしての朝陽くんのこと。
事務的だったはずの距離が、いつの間にか「お姫様抱っこ」や「深夜のパスタ」でかき乱されていったこと。
「……で、気づいたら十日間だけ一緒に住むことになってて」
陽菜は、派手なネイルを施した指先でストローを弄りながら、一言も挟まずに最後までじっと話を聞いてくれた。
「……そっか。凛、本当によく頑張ったね。一人で抱えてて、しんどかったでしょ」
陽菜の口から出たのは、揶揄する言葉ではなく、私を労わる優しいトーンだった。
「……う、うん。でも、昨日のことが本当にもう……最悪で」
私は顔を真っ赤にして、昨日の「脱衣所ブラジャー鉢合わせ事件」と、その後の自分の「どうだった?」という自爆発言までを白状した。
話し終えると同時に、私はテーブルに突っ伏した。
「もうお嫁にいけない……。朝陽くんにも、きっと変な子だって思われてるよ」
「……ぷっ、あはは! ごめん凛、今の話はちょっと面白いわ。でもさ」
陽菜はクスクスと笑いながらも、身を乗り出して私の手をそっと握った。
「……凛、自信持ちなよ。瀬戸が凜のこと嫌いなわけないじゃん」
「いい? プレートのルールを徹底しようって言ったり、今朝わざと凜を見ないようにしたり。それ、嫌悪感じゃなくて『敬意』だよ。凜を大事な仕事相手として、一人の女の子として大切にしたいからこそ、必死に自分を律してるんだって」
陽菜の言葉は、派手な見た目からは想像できないほど落ち着いていて、すとんと私の心に落ちてきた。
「瀬戸はきすごく真面目だからね。凛が『臭い』って思ってるかもってパニックになって消臭剤買いに走るなんて、もうアンタに嫌われたくなくて必死なだけでしょ」
「……そうなのかな」
陽菜の言葉が、私の耳の奥で反芻される。
嫌悪感じゃなくて、敬意。私を大事にしたいからこその、必死の自制。
そう言われてみれば、朝陽くんの行動はいつだって私の「創作」と「プライバシー」を守るためのものばかりだった。
「……ねえ、凛。アンタにとって、瀬戸ってどういう存在なの?」
陽菜が、覗き込むように私を見た。その瞳は、茶化すような光ではなく、親友として私の「本当」を知りたいという、深い優しさに満ちていた。
「どういう……って……」
私はアイスコーヒーの氷をカラリと鳴らした。
朝陽くんを、どう思っているか。
第88話、ありがとうございました!
陽菜ちゃん、見た目はギャルでも、凛ちゃんのことを一番に考えるいい人でしたね。
朝陽くんの頑なな態度を「誠実さ」と捉える彼女の視点は、迷える凛ちゃんにとって大きな道しるべになったはず。
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