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隣のクラスの「氷の令嬢」が、隣の部屋で空腹のあまり倒れていた件。〜胃袋を掴まれた彼女が、俺の前でだけ「ふにゃふにゃ」になるまで〜  作者: 比津磁界
第2章

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第84話:自覚と再認識。

「プレートは白だっただろ!」という叫びとともにリビングへ逃げ去った朝陽くん。

脱衣所で一人、絶望に打ちひしがれる凛ちゃん。

今回は、気まずさが極限に達した二人が、扉越しに「これからどうするか」を必死に話し合う回です。

瀬戸くんの脳裏で暴走する「見てしまった光景」の残像と、不器用な二人の歩み寄りをお楽しみください。

リビングに戻った僕は、ソファに座る元気もなく、そのまま床に突っ伏した。

心臓の音がうるさすぎて、自分の呼吸さえも熱く感じる。


「……落ち着け。忘れろ。いや、忘れられるわけないだろ……」


まぶたの裏には、さっきの光景が焼き付いて離れない。

いつもダボッとした服に隠れていた、凛の意外な素顔ライン


華奢な肩から流れる、しなやかな腕。

白いレースに縁取られた、柔らかそうな胸元の膨らみ。

そして、Tシャツを捲り上げたことで露わになった、驚くほど白くて、きゅっと引き締まったウエスト。


「……あんなの、意識しない方が無理だ」


ただの「だらしない女子高生」だと思い込もうとしていた。

でも、鏡越しに目が合ったあの瞬間、僕は彼女が一人の「女の子」であることを、これ以上ないほど叩きつけられたのだ。

必死に雑念を振り払おうとするけれど、鼻先に残る彼女の微かな匂いが、執拗に僕の理性をかき乱してくる。


……このままじゃ、明日からまともに顔も見られない。

僕は意を決して立ち上がり、重い足取りで廊下へ戻った。


「……凛。……生きてるか?」


脱衣所のドアに背中を預けて、そのまま床に座り込む。

少しの沈黙の後、奥から消え入りそうな声が返ってきた。


「……死にたい」

「……だよな。本当に悪かった。プレートが白だったから、つい油断した。……僕がもっと慎重に確認すべきだった」

「……ううん。私が、ひっくり返すのを忘れたのがいけないの。……ごめんなさい」


お互いに短い謝罪を口にする。

それ以上、自分を責める言葉を重ねる元気は、今の僕たちには残っていなかった。


「……凛。これからのことだけど、『ダブルチェック』にしよう」

「……だぶる、ちぇっく?」

「ああ。プレートを『赤』にするのはもちろんだけど、これからは入る前に必ず一度ノックをする。で、中からも必ず返事をする。……返事がない限り、絶対にドアは開けない。……これでいいか?」

「…………。……うん。わかった」


「……よし。じゃあ、僕はリビングにいるから。……落ち着いたら出てこい」


しばらくして、ガチャリと鍵が開く音がした。

凛がパーカーのフードを深く被り、顔を隠すようにして出てくる。

お互いに、絶対に目は合わせない。


「……これ。さっき拾ったチラシ」

僕はポケットから、少しクシャッとなったチラシを突き出した。

とにかく、この「脱衣所の空気」を別の話題で上書きしたかった。


「……はなび?」

「……ああ。三日後。ベランダから見えるらしいから。……その、気分転換にでも、と思って」

「…………。……うん。見る。絶対、見る」


凛はチラシを受け取ると、そのまま自分の部屋へと歩き出す。

ふぅ、と。ようやく僕が安堵の息を吐きかけた、その時だった。


部屋のドアノブを掴んだまま、凛がピタリと足を止める。

そして、背中を向けたまま、消えそうなほど小さな声で言った。


「……ねえ、朝陽くん」

「……なんだ」


「……その、……どうだった?」

「……は?」


凛が、首だけをこちらに振り向かせる。フードの隙間から覗く横顔は、耳の付け根まで真っ赤だった。


「……私の体、……その。……感想、っていうか。……変じゃなかった……?」


「…………っ!!!」


一瞬、思考がフリーズした。

「どうだった」って。そんなの、正直に言えるわけがない。

細くて、白くて、綺麗で、……あんなにドキドキしたなんて。


僕が言葉に詰まっている間に、凛は「……もういい! バカ朝陽!」と叫んで、逃げるように部屋へ飛び込んだ。


一人残された廊下で、僕は火が出そうなほど熱くなった顔を両手で覆った。

三日目の夕暮れ。

新しく加わった『ノック』というルール以上に、彼女が放った最後の一言が、僕たちの境界線を修復不可能なくらいにかき回していた。

いやー……やってしまいました。

朝陽くん、謝りながらも脳内では必死に「否定」と「肯定」の嵐が吹き荒れています。

「女の子なんだな」と改めて突きつけられた彼は、明日からまともに顔を見られるのでしょうか。


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