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隣のクラスの「氷の令嬢」が、隣の部屋で空腹のあまり倒れていた件。〜胃袋を掴まれた彼女が、俺の前でだけ「ふにゃふにゃ」になるまで〜  作者: 比津磁界
第2章

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第73話:引越し作業と、二人のルール。

おばあちゃんの爆弾発言から始まった10日間の同居生活。

まずは「隣」からの大移動ですが、凛ちゃんの機材は想像以上に本格的でした。

デスクトップPCにモニター、液タブ……。大切な商売道具を運ぶ瀬戸くんの腕に力が入ります。

さらに、二人の通信環境を守るため、管理会社への連絡も欠かさない瀬戸くんの「完璧なサポーター」ぶりと、二人の間で決めた誠実なルール。

おばあちゃんを見送り、静かになったエントランスから部屋に戻るなり、僕たちは「引越し」を開始した。

凛の部屋は相変わらずサウナのような熱気だ。一分一秒でも早く、精密機器を避難させなければならない。


「……よし、まずはPCからだな」


僕は凛の仕事の要であるデスクトップパソコンの本体を慎重に抱え上げた。ずっしりとした重みは、彼女のこれまでの努力の結晶のように感じられる。

続けて、モニター、液タブ、そして使い慣れたキーボードとマウス。さらには複雑に絡まった配線類。


「ごめんね、朝陽くん。すごく重いよね……。怪我しないように気をつけて……っ」

「分かってる。凛は軽いものを持っててくれ」


何度も往復し、僕の部屋の一角に凛のワークスペースが構築されていく。

いつもは無機質な僕の部屋に、プロのクリエイターの機材が並び、彼女が使うスキンケア用品やヘアアイロン、ドライヤーといった「女の子の必需品」が運び込まれる。

さらには、枕や掛け布団、そして下着類を隠したポーチまで。


僕部屋が彼女の気配で満たされていく感覚に、心臓の鼓動が一段階早くなるのを必死で抑えた。



荷物の運び込みが一段落したところで、僕はスマホを手に取った。


「……あ、もしもし。お世話になっております、瀬戸です。……はい、実は今日から十日間ほど、同居人が一名増えまして。二人でWi-Fiを使用することになります。……ええ、規約上問題ないか確認と、念のため連絡をと思いまして」


横で見ていた凛が、驚いたように目を丸くしている。

「……朝陽くん、管理会社にまで連絡してくれたの?」


「当たり前だ。二人で同時にネットを使えば速度が落ちるかもしれないし、仕事に支障が出たら困るだろ。十日間だけ回線負荷が増える許可は取ったから、安心して描け」


「……ありがとう。本当に、何から何まで……」

凛の尊敬の眼差しが少しだけくすぐったくて、僕は話題を切り替えるためにノートを広げた。


「さて、座ってくれ。おばあさんに安心して任せてもらえるように、ルールを決めよう」

「うん。……あ、でも、その前に一ついい?」


凛が僕を真っ直ぐに見つめて言った。

「ルール1は、私が決めていいかな。……『朝陽くんは自分のベッドで寝ること』。私はリビングのソファで十分だから」


「……は?」

予想外の提案に、僕はペンを止めた。


「だって、ここは朝陽くんの家だよ? 私が勝手にお邪魔して、主人のベッドを奪うなんてできない。ソファだってふかふかだし、私、どこでも寝られるから!」


「却下だ。凛は今、大事な仕事の真っ最中だろ。慣れない環境で、硬いソファで寝て体を壊したらどうする。……サポーターとして、それは絶対に認められない」


「でも、朝陽くんに負担をかけるのは……」


「負担じゃない。……いいか、凛。仕事を頑張っている女の子をソファで寝かせて、自分だけベッドで安眠できるほど、僕は図太くないんだ」


「……っ」

凛が息を呑み、顔を赤くして黙り込む。


「寝室のベッドは凛が使え。僕はリビングに布団を敷いて寝る。……これはサポーターの決定事項だ。いいな?」


「……。……うん。わかった。……ありがとう、朝陽くん」


そのまま、僕はノートに続きを書き込んだ。


【十日間の共同生活ルール】


寝床の完全分離: 寝室のベッドは凛、リビングの布団は朝陽。


家事と洗濯: 食事と掃除は朝陽担当。洗濯も朝陽が行うが、下着類だけは凛が自分で行うこと。


プライバシーの徹底: 鉢合わせ防止のため、ホームセンターで『使用中』の札を買い、必ず掲示すること。


お互いに少し照れながらもルールを共有し、おばあさんに報告のメッセージを送る。

すぐに届いたのは、慈愛に満ちた返信だった。


『安心しました。瀬戸さんなら、凛をしっかり守ってくれると信じていますよ』


だが、続けてもう一通。

『ところで、瀬戸さんはどこで寝るのかしら? お布団はあるの?』


相変わらず、鋭い。僕は正直に返した。

『リビングで寝ます。予備の布団がないので、今から買いに行きます。元々客用が欲しかったので、ちょうど良い機会です』


すると、おばあさんから思いがけないメッセージが届いた。


『いいえ。今回の件は孫娘も関わっていることですから、お布団代はこちらで負担します。一番良いものを買いなさい。どうせベッドは凛に渡すつもりでしょう? 貴方も倒れてはいけないわ。良い布団を買い、自分の身体も労ってあげてくださいね』


「……おばあちゃん、なんて?」

「……僕がベッドを譲ることまで完全にお見通しだった。一番良い布団を買えって、軍資金は後日凜の口座に振り込まれるって。」


おばあさんは、僕が自分の健康を後回しにして凛を優先することを見抜いた上で、僕という人間を対等に信頼してくれている。その深い慈愛に、改めて身の引き締まる思いだった。


「……おばあちゃん、本当に朝陽くんのこと頼りにしてるんだね」

凛が誇らしげに、少しだけ潤んだ瞳で僕を見て微笑む。


「……さあ、そうと決まれば買い出しだ。凛、行くぞ」

「はーい!」


夕暮れの街へ、僕たちは「二人の生活」を整えるための最初の一歩を踏み出した。


第73話、ありがとうございました!

凛ちゃんの大量の荷物が瀬戸くんの部屋に運び込まれ、いよいよ「同居」の実感が湧いてきました。

瀬戸くんの誠実ルール、おばあちゃんも納得の合格点でしたね。


続きが気になる!と思ってくださった方は、ぜひブックマークや下の【☆☆☆☆☆】で応援をいただけますと嬉しいです!

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