第71話:眼差しと、孫娘の本音
瀬戸くんが寝室へ引っ込んだ後、リビングに残されたのは凛ちゃんとおばあちゃんの二人だけ。
普段は「ポンコツ」なんて言われている凛ちゃんですが、おばあちゃんの前では一人の女の子。
彼女が瀬戸くんをどう想い、おばあちゃんがそれをどう見抜いたのか。
パタン、と寝室のドアが閉まる。
朝陽くんが気を使って席を外してくれた。……その気遣いが、今はなんだか余計に私の心臓をバクバクさせる。
「……ふふ。いい子ね、瀬戸さんは」
おばあちゃんが、朝陽くんが淹れてくれた麦茶を一口飲んで、優しく微笑んだ。
「あ、うん。……そうなの。すごく、いい人で。私が困ってる時、いつも……」
「そうね。お部屋を見ればわかるわ。男の子の一人暮らしなのに、こんなに隅々まで整えられていて。それに……」
「凛のために、毎日あんなに栄養のあるものを一生懸命作ってくださるのでしょう? 台所のシンクにあったお野菜の切れ端を見ればだいたいわかるわ」
入ってくる時に、おばあちゃんの鋭い視線がキッチンを捉えていたようだ。
「……っ。……うん。朝陽くんは、私の『サポーター』だから」
おばあちゃんは、少しだけ真剣な表情になって、私を真っ直ぐに見つめた。
「さて、凛。さっきの三つの選択肢、どう思う?」
私は膝の上で拳をぎゅっと握りしめる。
「……一人の部屋は、もう熱くて住めない。……実家は、おじいちゃんと喧嘩になっちゃうから、今は帰りたくない。……ホテルは、なんだか、すごく寂しい気がして」
「そうね。貴方は今、あの瀬戸さんと過ごす時間に、何より救われているものね」
おばあちゃんの言葉に、顔が一気に熱くなる。
「……そんな、隠せてない?」
「ふふ、無理よ。あんなに堂々と凛を守ろうとする彼を見て、頬を染めている孫娘を、おばあちゃんが見逃すはずないでしょう?」
おばあちゃんは、少しだけ声を潜めて言った。
「おじいさんには内緒ですけれど、私は凛が頑張っているお仕事、応援しているのよ。瀬戸くんは、凛の『描きたい』っていう気持ちを、一番近くで大切にしてくれている。……そうね?」
「……うん。朝陽くんがいなかったら、私、今頃もっとボロボロだったと思う」
私の声が、少しだけ震えた。サポーターなんて言葉で誤魔化してきたけど、私はもう、朝陽くんがいない生活なんて考えられない。
おばあちゃんは満足げに頷いて、湯呑みを置いた。
「……決まりね。瀬戸さんという人は、信頼に値するわ。彼なら大丈夫。……むしろ、彼以外には考えられないわね」
「えっ……? おばあちゃん、それって……」
「ええ。凛、貴方はここにいなさい。瀬戸さんに預かってもらいましょう。それが貴方にとって、一番『幸せな十日間』になるはずだわ」
おばあちゃんはいたずらっぽく笑って、寝室のドアを振り返った。
「瀬戸さん。……瀬戸さーん。ちょっとこちらへ戻ってきてくださる?」
私は慌てて顔を伏せたけれど、心の中には、言葉にできないほどの大きな喜びと、少しの「覚悟」が、じわじわと広がっていった。
第71話、ありがとうございました!
おばあちゃん、鋭すぎますね。
部屋の隅々まで行き届いた手入れや、凛ちゃんの体調を考えたメニュー……。瀬戸くんが言葉で飾るよりもずっと饒舌に、彼の誠実さが部屋中に溢れていたようです。
そして、ついに自分の気持ちを1/3くらい認めた凛ちゃん。
「サポーター」という言葉が、二人の間にある「何か」を繋ぎ止めるための、精一杯の言い訳に聞こえてきましたね。
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