第70話:来訪と、誠実の証明。
ついに来ました、おばあちゃんとのご対面!
隠れてやり過ごすこともできた朝陽ですが、彼はあえて正々堂々とエントランスへ向かいます。
「サポーター」として、そして一人の友達として。
「……下に着いたって。あ、朝陽くん、本当に行くの?」
凛が震える手でスマホを握りしめ、不安そうに僕を見上げる。
「ああ。凛を一人で行かせるわけにはいかないだろ。行こう」
エントランスの自動ドアが開くと、そこには夏の着物に身を包んだ、凛のおばあちゃんが立っていた。
彼女は凛の姿を見つけると優しく微笑んだが、その視線が隣にいる僕に止まった瞬間、ふっと細められた。
「あら、凛。……そちらの方は、お友達?」
「あ、あのね、おばあちゃん。この人は……」
凛が言葉に詰まる前に、僕は一歩前へ出た。
「初めまして。お隣に住んでおります、瀬戸朝陽と申します。凛さんにはいつもお世話になっております」
僕は深く、けれど卑屈にならないよう背筋を伸ばして頭を下げた。
「まあ、ご丁寧に。冬月凛の祖母でございます。凛がいつもお世話になっております」
おばあちゃんは穏やかな口調ながらも、僕の目、立ち居振る舞い、そして凛との距離感を一瞬でスキャンするような鋭い眼差しを見せた。
「外は非常に暑いですし、凛の部屋は空調が故障してしまっています。詳しいお話は僕の部屋でさせていただきます。どうぞ、こちらへ」
「あら、よろしいのかしら?」
「はい。冷房も効いておりますので。凛、おばあ様の荷物、僕が持つよ」
「えっ、あ、うん! ありがとう……!」
僕が自然な動作で荷物を受け取り、二人を先導する。
その背中を追いながら、凛はドキドキと鳴り止まない鼓動を感じていた。
(……朝陽くん、すごくかっこいい。おばあちゃんを前にしても、全然物怖じしてない……)
一方のおばあちゃんも、少年の淀みのない言葉遣いと、凛へのさりげない気遣いに、密かに感心したように口角をわずかに上げた。
僕の部屋に入り、二人にソファを勧める。
冷蔵庫で冷やしておいた麦茶と、凛の好みに合わせた和菓子を手際よくテーブルに並べた。
「……ふふ、手際がいいわね」
おばあちゃんがお茶を一口啜り、ふと表情を真剣なものに変えた。
「さて、エアコンの修理の話をする前に……一つ伺ってもよろしいかしら? 瀬戸さん、貴方と凛はどういった関係なの?」
凛がゴクリと息を呑む。
「……あのね、おばあちゃん。私は……朝陽くんに、毎日助けてもらってるの。料理も、生活のことも……。私がダメダメな時に、いつも支えてくれる、大切なサポーターさんなの」
凛は嘘をつかず、今の正直な気持ちを伝えた。おばあちゃんはそれを聞き、今度は僕に視線を向ける。
「瀬戸さんは、どう思っていらっしゃるの?」
「僕は……」
僕は凛の横顔を見て、それからおばあちゃんを真っ直ぐに見返した。
「凛が一生懸命仕事に向き合う姿や、その真っ直ぐな明るさに、僕の方が元気をもらっています。助けているというより、僕も彼女に救われているんです」
その言葉を聞いた瞬間、おばあちゃんの表情が柔らかく緩んだ。彼女の中で、一つの結論が出たような、そんな明るい兆しが見えた。
「なるほどね……。ふふ、ありがとうございます。凛をよろしくお願いしますね」
「さて、それでは今後の話をしましょうか」
おばあちゃんのトーンが、家族の話し合いのそれへと変わる。
僕はその空気を敏感に察し、立ち上がった。
「……大事なお話でしょうから、僕は失礼します。寝室で宿題をしておりますので、何かあれば呼んでください」
「あら、お気遣い痛み入ります。助かりますわ」
おばあちゃんが満足げに頷くのを見届け、僕は会釈をして寝室へと引っ込んだ。
パタン、とドアを閉める。
静まり返った寝室で、僕は教科書を広げたが、意識はどうしても壁一枚隔てたリビングの会話へと向かってしまう。
凛の十日間、そして僕たちのこれからの距離が、今、決まろうとしていた。
第70話、ありがとうございました!
朝陽くん、お見事! おばあちゃんの鋭い視線に気圧されることなく、誠実な言葉で信頼を勝ち取りましたね。
「救われているのは僕の方」という言葉に、おばあちゃんも確かな縁を感じたようです。
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