第69話:三つの選択肢と、第四の場所。
三つの選択肢を前に、袋小路に迷い込んだ凛ちゃん。
「仕事に反対するおじいちゃん」という重い事実が、彼女の帰る場所を奪っています。
そんな彼女を救うべく、朝陽くんが出した答えは――
助っ人に、二人の秘密の関係はどう映るのか?
「……一つ目は、ないな」
朝食の片付けをしながら、僕は冷静に告げた。
「昨日の今日だ。根性でなんとかなるなら、凛は僕の部屋に来てないだろ」
「……う、うん。そうだよね……」
「二つ目も……たぶん、凛の中では選べないんだろ。おじいさんとまだ、イラストのことで折り合いがついてないなら、今の状況で帰るのは精神的にきつい」
凛は力なく頷いた。厳格な祖母の夫――おじいちゃんは、凛が「絵師」として生きることを、家業を継がない我儘だと決めつけている。今の凛に、あの屋敷で十日間も耐える気力はないはずだ。
「……となると、三つ目のビジネスホテルしかないけど……」
凛の顔が、目に見えて曇った。不安と寂しさが、隠しきれずに表情に漏れ出している。
僕だって、凛が遠くへ行くのは寂しい。けれど、これは彼女の安全のためだ。
そう言い聞かせようとしたが、その時、僕の口から出たのは別の言葉だった。
「……凛の部屋だと、クーラーが効かないからおばあさんの体に障るだろ。……もしよければ、僕の家で話をしてくれて構わない」
「えっ、でも、いいの!? おばあちゃんに、私たちのこと……」
「どうせ遅かれ早かれバレるんだ。お茶とお菓子を出したら、僕は寝室で宿題をやってるから。……さあ、そうと決まれば掃除だ」
「……朝陽くん。ありがと……っ」
おばあちゃんが着くのは13時。
それまでに、この部屋を「凛のおばあちゃんを迎えても恥ずかしくない場所」にアップグレードしなければならない。
僕は掃除機をかけ、凛はリビングのテーブルを拭く。
「ごめんね、朝陽くん。こんなことにまで付き合わせちゃって」
「いいから。サポーターの領分だ。凛は自分のことに集中しろ」
掃除が終わる頃には、部屋はだいぶ清々しい状態になっていた。時計を見ると12時。おばあちゃんが来る前に、しっかり栄養をつけておかなければ。
「今日は『めかぶとろろそば』だ。食欲がなくても、これならいけるぞ」
僕は手際よく包丁を動かす。
長いもは包丁の腹で叩いてから粗く刻み、シャキシャキとした食感を残す。オクラは塩茹でしてから小口切りにして、さらに粗く刻む。大根はおろしてザルにあげるが、自然に切れる水だけを切るようにした。この水にも栄養があるから、つゆに混ぜて活用するためだ。
「……ねえ、めかぶってそんなにすごいの?」
手伝いながら凛が覗き込んでくる。
「ああ。パックの味付めかぶを使うけど、このネバネバ成分『フコイダン』は、肝細胞の再生促進や、デトックス効果があるんだ。」
「へぇ……朝陽くん、本当になんでも知ってるね」
「サポーターだからな。凛に倒れられたら困る」
たっぷりのお湯でそばを茹で、ほぐれたらザルにあげて流水でぬめりを落とす。すぐに冷水で締めて、器に盛り付けた。
長いも、大根おろし、めかぶを汁ごとのせ、その上に温泉卵とオクラをトッピングする。
「よし、出来上がりだ。めんつゆをかけて食べてくれ」
「……おいしい! つるつるしてて、」
凛がようやく笑顔を見せた。
これを食べて、この後の話し合いの助けになってくれればいいのだが。
昼食を終え、食器を洗う。
13時まで、あと数分。
僕は凛とリビングで二人、姿勢を正しておばあちゃんを待つ。
静まり返った部屋に、時計の秒針の音だけが響いていた。
第69話、ありがとうございました!
サポーターとしての献身的な姿と、おばあちゃんを迎えるための準備。
さて、次回は第70話。
ついにインターホンが鳴り、おばあちゃんが登場します!
寝室で聞き耳を立てる朝陽。おばあちゃんと話し合い、今後についての「本当の答え」とは――?
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