第67話:献身のレシピと、真夜中の訪問者。
午前中のモデル撮影で得た「熱」をそのままに、凛ちゃんは仕事場へ、朝陽くんはキッチンへと戦場を移します。
「サポーター」としてさらなる高みを目指し、疲労回復料理とマッサージ技術の研鑽に励む朝陽くん。
午前中の熱が嘘のように、午後の時間は静かに流れていった。
凛は「忘れないうちに全部描ききっちゃう!」と言って、自分の部屋に籠もった。僕の身体から写し取った資料が、彼女の中で鮮やかな線へと昇華されているのだろう。
そんな彼女を邪魔しないよう、僕は自分の部屋でサポーターとしての修行に励むことにした。
パソコンを開き、調べたのは『デスクワークの疲労回復』と『絵描きに効くストレッチ』、そして『最新の整体マッサージ』だ。
「……腕の付け根から前腕にかけて、か。ペンを持つ手はここが一番凝るんだな」
動画を一時停止しながら、自分の腕を使ってツボの場所を確認する。
料理だけじゃなく、体調管理まで完璧にこなしてこそ、彼女の隣に立つ資格がある――そんな使命感が、僕を突き動かしていた。
気づけば窓の外は深い群青色に染まり、時計の針は17時を回っていた。
さて、キッチンに立つ時間だ。
今夜のメニューは、仕事を完遂するであろう凛へのご褒美、スタミナ満点の『チーズタッカルビ』。
まずは鶏肉を一口大に切り、キャベツは大胆にザク切り。玉ねぎはくし形、にんじんは火が通りやすいよう短冊切りにする。ボウルに鶏肉を入れ、コチュジャンや醤油を合わせた特製ダレを揉み込んで10分ほど漬け置く。
ホットプレートを170℃にセットし、ごま油の香りが立ってきたら野菜を投入。
野菜がしんなりしたところで、タレがしっかり染み込んだ鶏肉を加えて炒め合わせる。表面に良い焼き色がついたら、蓋をしてじっくり蒸し焼きにする。
「……そろそろか」
蓋を取ると、食欲をそそる甘辛い香りが一気に広がった。具材を左右に寄せて中央に道を作り、そこにたっぷりのピザ用チーズを流し込む。弱火に落とし、チーズがゆっくりと溶け、ふつふつと泡立ち始めるのを待つ。
カチャ。
まさに完成の瞬間、ドアが開いた。
「……朝陽くん……終わったぁ……。もう一歩も、動けないよぉ……」
魂が抜けたような顔で入ってきた凛が、ホットプレートの上を見て、瞬時にその瞳を輝かせた。
「……なにこれ、天国?」
「チーズタッカルビだ。ほら、冷めないうちに座れ」
「……んんー! 美味しい! 甘辛いタレとチーズが、疲れた脳に染み渡る……!」
ハフハフと熱い肉を頬張り、凛はみるみるうちに元気を取り戻していった。
食後、お風呂を済ませて僕の部屋に戻ってきた凛を、僕はソファへと促す。
「凛、ちょっと腕出せ。新しいマッサージを勉強したんだ」
「え、また? ……わ、本当だ、いつもと違うところ押されてる。……そこ、すごく……っ、効く……」
ペンを握り続けた前腕の筋や、眼精疲労に効くこめかみのツボ。
僕の指先が彼女の肌に触れるたび、凛は猫のようにリラックスしていく。
午前中の接触とは違う、彼女を労わるための柔らかな熱。
「……朝陽くん、本当にすごいね。……ありがとう。おやすみなさい」
「ああ、お休み」
心地よい眠気に誘われたのか、凛はふわふわとした足取りで自分の部屋へと戻っていった。
深夜。
クーラーをかけているはずなのに、今夜はやけに空気が重くて暑い。
ふと目が覚めると、喉がカラカラに乾いていた。
「……水、飲むか」
半分寝ぼけた頭で、掛け布団を跳ね除けてベッドから降りようとした、その時だった。
「……え?」
隣に、見慣れた姿があった。
月明かりが差し込む薄暗い部屋の中、僕のベッドの脇に寝ている人影。
「……凛? なんでここに……」
自分の部屋で寝たはずの彼女が、なぜか僕の部屋の、ベッドのすぐ傍らにいた。
彼女は返事もせず、ただ静かに、隣で寝ていた。
第67話、ありがとうございました!
朝陽くんのチーズタッカルビ、レシピ通りでめちゃくちゃ美味しそうでしたね。
そして、ラスト。まさかの深夜の訪問者……!
自分の部屋で寝たはずの凛ちゃんが、なぜ朝陽くんのベッドの横に?
怖かったのか、それとも……?
続きが気になる!と思ってくださった方は、ぜひブックマークや下の【☆☆☆☆☆】で応援をいただけますと嬉しいです!




