表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
隣のクラスの「氷の令嬢」が、隣の部屋で空腹のあまり倒れていた件。〜胃袋を掴まれた彼女が、俺の前でだけ「ふにゃふにゃ」になるまで〜  作者: 比津磁界
第2章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

65/219

第65話:資料と、秘め事

資料作りもいよいよ中盤。

腕のラインの次は、イラストの要となる「首筋から鎖骨」にかけて。

仕事モード全開の凛ちゃんは、スマホを片手に普段の遠慮を忘れてグイグイ攻めてきます。

自分のスマホの中に朝陽くんの「際どい写真」を溜めていく凛ちゃんと、翻弄される朝陽くんの、密室でのひとときをお楽しみください。

「……よし、腕のパターンはこれくらいかな。次、お願い」


凛が液タブのペンを置き、代わりにデスクから自分のスマートフォンを手に取った。

リビングのエアコンは効いているはずなのに、熱気のせいか、それとも僕の気のせいか、部屋の温度が一段階上がったような気がする。


「次って、どこ?」

「首から、鎖骨。……あ、シャツのボタン、あと二つ外して」


「……は?」

思わず聞き返したが、凛は至って真面目な顔で、スマホのカメラアプリを起動している。

「影の落ち方を見たいの。服で隠れてると、骨格のつながりが分からないから。……ほら、早く」


「……分かったよ」

僕は溜息をつき、指示通りにボタンを外した。

胸元が大きく開くと、なんだか急に心許ない気分になる。


「……もう少し顎を上げて、右を向いて。……うん、いい感じ。あ、でも……」


凛がスマホを構えたまま、再び僕の目の前まで歩いてきた。

至近距離。

彼女の生身の瞳が僕を射抜く。


「……ここ、もう少し影が欲しいな」

凛の細い指先が、僕の首筋から鎖骨のラインをそっとなぞった。

「……っ」

「動かないで。……朝陽くんって、意外とここ、しっかりしてるんだね」


指先から伝わる温度。

カシャッ、カシャッ、と至近距離で響くスマホのシャッター音。

彼女のスマホのフォルダに、僕の鎖骨や首筋が記録されていく。

普段、僕に世話を焼かれている時の「ポンコツな凛」の面影はどこにもない。

そこにいるのは、僕の体温さえも画像として切り取ろうとする、鋭い眼差しを持った「絵師」だった。


「……よし、角度を変えてあと数枚。……あ」


ポーズを固定して数分。

僕の肩に力が入っているのに気づいたのか、凛が慌ててスマホを下げて身を引こうとした。


「ごめん、一回休んで! 根詰めすぎちゃった」


そう言って、彼女が後ろに下がろうとした瞬間。

床に置いてあった作画用の専門書の山に、彼女の足が取られた。


「わっ……!?」


バランスを崩し、後ろに倒れそうになる凛。

「危ない……っ!」


僕は咄嗟に椅子から立ち上がり、彼女の腰を抱き寄せるようにして抱きとめた。


狭い作業部屋に、二人の重なった呼吸だけが響く。

抱き寄せた彼女の身体は、驚くほど細くて、柔らかかった。

僕の腕の中に、完全に収まってしまうほどに。


「……あ」

凛が僕の胸元に顔を埋めたまま、固まる。

手元で光るスマホの画面には、さっきまで撮っていた僕の首筋が映し出されていた。


「……だ、大丈夫か?」

「……ぅ、うん。……ごめん、なさい」


凛が顔を上げると、その頬は真っ赤に染まっていた。

近すぎる距離。

僕が掴んでいる彼女の腰の感触と、僕のシャツをぎゅっと握る彼女の指先。


「……あ、あの! 撮影、もう終わり! 最高の資料、撮れたから!」


凛が慌てて僕の腕から飛び退き、机に向き直った。

その背中は、どこか落ち着かない様子で小刻みに揺れている。


「……そうか。役に立ったなら良かったよ」

僕は乱れたシャツのボタンを留め直し、自分を落ち着かせるように深く息を吐いた。


「……ふぅ」

撮影が終わり、いつもの「世話を焼く」サポーターとしての立場に戻れたことに、少しだけ安堵する。

凛の方を見ると、彼女は机に向かったまま、スマホの画面をじっと見つめていた。


……プロモードが解けた、いつもの、少しポンコツな凛の顔。

でも、その横顔が夕日に照らされて、やけに綺麗に見えて――。


僕は思わず、彼女の方を無言で見つめてしまった。


ガタッ。


凛が急に振り返る。

その手に持ったスマホのレンズが、一瞬だけ僕に向けられた。


(カシャ)


シャッター音が響く前に、凛が慌ててスマホを胸に抱え込む。

……今、撮られたのか? 音はしなかった気がするが、彼女の挙動があまりに不自然だ。


「……おい。今、僕のこと撮ったか?」


「えっ!? 撮ってないよ! 全然、気のせいだし! ……ただ、スマホの画面に朝陽くんが映っただけだし!」


凛は顔を真っ赤にして、ありえない言い訳を口にした。

……絶対撮っただろ、その顔。


「……変な顔してたら消せよ」


「消さない! ……じゃなくて、撮ってないから! ……もう、朝陽くんのバカ!」


凛はスマホを胸に抱えたまま、はにかむように、そしてどこか嬉しそうに笑った。


(……消すわけないじゃん。……だって、今の朝陽くん、すごく……)


彼女の唇が、僕には聞こえない小さな囁きを形作る。

秘密を共有し、お互いの深い場所に踏み込むたびに。

僕たちは、元いた「ただの隣人」という場所へは、もう戻れなくなっていく。


夏休みの午前中。

火照った僕たちの頬を、冷房の風が静かに撫でていった。

第65話、ありがとうございました!

朝陽くんが油断した瞬間の、彼女に向けた「素」の顔を、どうしても残しておきたくて、思わずシャッターを切ってしまった凛ちゃん。

「撮ってない!」という必死のごまかしと、内心の「消すわけない」という想いが良いですね。


続きが気になる!と思ってくださった方は、ぜひブックマークや下の【☆☆☆☆☆】で応援をいただけますと嬉しいです!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ