第40話:忠告と、四人の食卓
秘密を共有し、少しだけ肩の荷が下りた朝陽と凛。
しかし、そんな二人に紗季(寺田さん)からの鋭い「指導」が入ります。「危機感がなさすぎる!」という親友ゆえの愛のムチ。
その後、感謝を込めて、朝陽は四人分の料理を振る舞うことに。
秘密を打ち明け、少しだけ和やかになった空気。
「言わなきゃいけないことがある。」
寺田さんが、真面目な顔をしてこちらを見ていた。
「……あのね? 二人とも、わかっているとは思うけど」
その声のトーンが一段下がり、僕と凛は思わず背筋を伸ばした。
「冬月さん。いくら非常時でお腹が空いて動けなかったからって、知らない男の人の部屋にフラフラ入っちゃダメだよ? 朝陽くんだから良かったものの、もし変な人だったら何されてたかわからないんだからね?」
「……うっ。……はい、ごめんなさい」
凛がシュンとして肩をすぼめる。寺田さんの矛先は、次に僕へと向いた。
「朝陽くんもだよ! 相手が優しい冬月さんだから良かったものの、もし変な人だったら誘拐とかで訴えられてたかもしれないんだよ? 善意が仇になることだってあるんだから、もっと危機感を持って行動しなさい!」
「……おっしゃる通りです。気をつけます」
ぐうの音も出ない正論。僕たちは二人揃って、叱られた子供のように頭を下げた。
「うむ、わかればよろしい。」
本気で僕たちの身を案じてくれる寺田さんの言葉が、どこか温かかった。
重くなった空気を変えるように、大輝が立ち上がった。
「昼飯の時間だし、そろそろお暇するかな!」
大輝は寺田さんの家に電話をかけようとした。
だが、誕生日に二人の誘いを断ったことを思い出し、一緒にご飯でもと思った。
凜の方を見ると、目を輝かせて頷いていた。考えてることは同じなようだ。
「大輝、寺田さん。もし良かったら、食べていかないか? この間の埋め合わせも兼ねて、四人分作るよ」
「え! いいのか!? 朝陽の飯、食いたかったんだよ!」
「わあ、嬉しい! お説教した後に図々しいかなって思ったけど……お言葉に甘えちゃうね」
二人がパッと顔を輝かせる。
僕はさっそくキッチンに立ち、冷蔵庫の食材を確認した。凛はと言えば、自分の部屋から予備の椅子を持ってきたり、慣れた手つきで食器を並べたりと、自然に僕のサポートに回っている。
「……お前ら、マジで付き合ってないかよ…。」
大輝の呆れたような呟きが聞こえたが、僕は聞こえないふりをしてフライパンを握った。
「「「「いただきまーす!」」」」
テーブルには、手早く作ったパスタと彩り豊かなサラダが並んだ。
「美味しい! 朝陽くん、お店出せるよこれ!」
「だろ? こいつのメシを毎日食えるなんて、冬月さんが羨ましいぜ」
大輝と寺田さんは、それはもう見事な食べっぷりで僕の料理を平らげてくれた。
学校の話、これからの夏休みの予定……。
普段は僕と凛の二人きり、静かな会話が流れるこの部屋に、今日は絶え間ない笑い声が響いている。
凛も、最初は少し緊張していたようだったけれど、最後には寺田さんと楽しそうにファッションやイラストの話で盛り上がっていた。
夕方になり、外が茜色に染まり始めた頃。建物の前に一台の車が止まった。
寺田さんのご両親が、二人を迎えに来てくれたのだ。
「お父さん、お母さん、お待たせ!」
「お邪魔しました!」
大輝と寺田さんのご両親は、昔からの付き合いのようで、窓越しに親しげに笑い合っている。その光景は、長い時間をかけて築かれた信頼の塊のようで、見ているこちらまで心が落ち着くものだった。
「じゃあな、朝陽!」「冬月さん、また連絡するね! 夏休み、どっか行こう!」
二人は元気に手を振って、去っていった。
再び訪れた、二人きりのリビング。
急に静まり返った部屋で、僕と凛はしばらくの間、残された食器を見つめていた。
「……賑やかで、楽しかったね」
凛がぽつりと、名残惜しそうに呟く。
「ああ。……でも」
僕は残ったグラスをキッチンへ運びながら、ふと思ったことを口にした。
「……いつもの二人の方が、なんだか落ち着くな」
「…………っ」
凛がハッとしたように僕を見つめ、それから顔を赤らめて、花が綻ぶように微笑んだ。
「……うん。私も、そう思う」
二人で並んで、静かにお皿を洗う。
カチャカチャと響く水音と、隣から漂う凛の体温。
大騒動だった夏休み初日は、これまでで一番心地よい静寂と共に、幕を閉じようとしていた。
第40話をお読みいただき、ありがとうございました!
紗季さんの愛のあるお説教、心に染みましたね。でも、その後の四人でのご飯は、朝陽くんにとっても凛ちゃんにとっても、忘れられない「初めての友達との時間」になったはずです。賑やかさの後に訪れる、二人きりの時間の「特別感」……。これこそが、今の二人の距離感そのものなのかもしれません。




