第39話:秘密の解禁、親友たちのニヤニヤ
「ただいま」と言わんばかりの自然さで、合鍵を使って現れた凛。そこには、怪我の手当てを受けていた大輝と紗紀(寺田さん)がいました。言い逃れ不能、絶体絶命のピンチ!
玄関先で、凛が持ったままのキーケースが、カチリと乾いた音を立てた。
静止する、四人の時間。
僕はあまりの衝撃に、「あ、連絡しておけばよかった」という後悔すら、脳の隅っこに追いやられていた。
だが、この沈黙を破ったのは、パニックになっていたはずの凛だった。
彼女はハッと我に返ると、ソファに座る寺田さんの、包帯に巻かれた足に視線を落とした。
「……寺田さん、だよね? 足、怪我したの? 大丈夫?」
その声には、学校での冷徹な響きは微塵もなかった。ただ純粋に、同級生を案じる優しさがこもっていた。
問いかけられた大輝と寺田さんも、ようやく金縛りが解けたように瞬きをする。
「え! あ……うん。ちょっと慣れてない靴履いちゃって、階段でやっちゃったんだ。でも、朝陽くんがすぐ処置してくれたから、もう大丈夫だよ! ありがと!」
「なら良かった。……無理しちゃダメだよ?」
凛がホッとしたように微笑む。その瞬間、部屋を支配していた刺すような緊張感が、嘘のように霧散していった。
「……冬月さん、だよね?」
寺田さんが、まじまじと凛の顔を見つめて呟いた。
「学校の時と印象が全然違う…。 なんか、すごく明るいというか、話しやすい……!」
「あはは……。学校だと、あまり人と話さないようにしてるからね。……こう見えて、人見知りだから…。」
凛は照れくさそうに頬を掻いた。
その告白を聞いて、大輝は驚いたように目を見開いたあと、どこか優しく、噛みしめるように苦笑した。
「人見知り……。そっか、そんな理由だったのか。……あはは、ごめん、笑うつもりはないんだけどさ。みんな勝手に『氷の令嬢』なんて呼んでたけど、実は必死に耐えてただけだったんだな。……なんか、意外だけど少し安心したよ」
「口調まで変わるなんて、相当だよね。……でも、朝陽には最初から『素』だったの?」
「……朝陽くんは、大丈夫なの」
凛がさらりと、迷いなく答えた。
(……心臓に悪いから、そういうのはもっと、心の準備がある時に言ってくれ)
僕は熱くなる顔を誤魔化すように、咳払いを一つした。
だが、大輝と寺田さんの目は誤魔化せなかった。
二人は顔を見合わせると、同時にニヤニヤと僕たちを覗き込んできた。
「「で、付き合ってるの?」」
「「違うよ!/違います!」」
一糸乱れぬ同時否定。
だが、顔を真っ赤にして僕の背後に隠れようとする凛の姿は、どう見ても「ただの友達」の範疇を超えている。
僕は覚悟を決めた。この二人なら、僕たちのこの奇妙な関係を、きっと理解してくれるはずだと思った。
「凛。……二人には、ちゃんと話そうか。この二人は、信用できる。」
「……うん。朝陽くんがそう言うなら、わかった」
そこから、僕たちは話した。
隣同士の部屋であること。
学校から帰ったら、廊下で凛が行き過ぎた不摂生で動けなくなっていたこと。
見かねて料理を作ってあげるようになり、今ではすっかり「餌付け」状態であること。
「冬月さんが、朝陽の飯に釣られたのか……」
「釣られたんじゃないもん。救われたの!」
さらに、凛がプロのイラストレーターとして活動していることも明かした。
(もちろん、世間を騒がせている超有名絵師だという詳細は、彼女のプライバシーのために伏せておいたが)。
最後に、名前で呼び合うようになった経緯まで話し終えると、大輝は深く、深く頷いた。
「なるほどな。……でも、朝陽が誰かのためにそこまで必死になる理由、なんとなく分かる気がするわ。お前、いい奴だもんな」
「二人とも、すごくいい雰囲気だよ。で、いつ付き合うの?」
「付き合いません!だいたい、凜は無防備過ぎて俺のことを男として見ていないぞ。」
言い終わると、凜のいる方向から視線を感じる。
振り返ると、ジト目をした凜がこちらを見ていた。
「複雑な気分…。」
一部始終見ていた大輝と寺田さんは「朝陽、そうゆうとこだぞ!」と、楽しそうに笑っていた。
一通り話し終えた後、僕は肩の力がふっと抜けるのを感じた。
大輝や寺田さんという「理解者」ができたことで、この秘密は、より確かな絆へと変わった気がする。
「……よかったね、朝陽くん」
「ああ。……でも、合鍵の件は、後でたっぷり大輝たちにイジられそうだけどな」
案の定、大輝は「合鍵なぁ、へぇー、合鍵かぁー」と、さっきからニヤニヤが止まらない様子だ。
不器用な僕たちの、特別な夏。
友人たちを巻き込んで、物語はさらに賑やかで、暖かい方向へと動き出していた。
第39話をお読みいただき、ありがとうございました!
一時はどうなることかと思いましたが、朝陽くんの誠実さと、大輝たちとの友情が実を結んだ回になりましたね。凛ちゃんが「朝陽くんは大丈夫なの」と無自覚?に爆弾を落とすシーンは、書いていてもニヤニヤが止まりませんでした! 秘密を共有したことで、朝陽くんも凛ちゃんも、少しだけ心が軽くなったようです。




