第266話:『ショッピングモールと、彼を想うお買い物』
今回は凛ちゃん視点。
ショッピングモールは、土曜日ということもあって大勢の人で賑わっていた。
「うわー、すっごい人! 」
「ほんとだ! あっ、ねえ見て見て凛、あのディスプレイの服すっごく可愛い!」
「うん、本当だね。沙紀ちゃんに似合いそう」
陽菜ちゃんと沙紀ちゃんに挟まれながら、私たちは広々とした通路を歩いていく。
話題のコスメを試してみたり、可愛い雑貨屋さんの小物を眺めたり。
女子三人でのお買い物は、やっぱりすごく楽しい。
楽しい、のだけれど。
(あ……あのフライパン、この前朝陽くんがネットで見てたやつかも)
私の視線は、無意識のうちにキッチングッズのコーナーへと向いてしまう。
それだけじゃない。
通り過ぎるメンズアパレルのマネキンを見れば「あの落ち着いた色のシャツ、朝陽くんに似合いそうだな」なんて考えてしまうし、美味しいと評判のクレープ屋さんの行列を見れば「朝陽くんなら、これよりもっと美味しいの作れちゃうんだろうな」なんて思ってしまう。
「……凛? どしたの、そんな真剣な顔して」
「えっ!? う、ううん、なんでもないよ!」
マネキンをじーっと見つめていた私に、陽菜ちゃんが不思議そうな顔で顔を覗き込んできた。
慌てて誤魔化そうとしたけれど、隣にいた沙紀ちゃんがニヤリと口角を上げた。
「……ははーん。さては凛、朝陽くんへのプレゼント探してたな?」
「っ……! ち、ちがっ……」
「図星だ! まーね、昨日から今日の朝まで、あんなに限れり尽くせりのおもてなしされちゃったら、お返し買いたくなっちゃうよねー!」
「うぅ……っ」
二人のニヤニヤとした視線に射抜かれ、私は観念してコクリと頷いた。
「……うん。すっごく嬉しかったから、何かお礼がしたくて。でも、服とかはサイズも好みもあるから難しいし、あんまり高いものだと気を使わせちゃうかなって、色々考えてたら……」
私がポツリポツリと本音をこぼすと、陽菜ちゃんと沙紀ちゃんは顔を見合わせて、パァッと明るい笑顔を浮かべた。
「そっかそっか! よーし、今日の目的変更!」
「『朝陽くんへの最高のお返しを探す会』、開催しまーす!」
「えっ、でも二人の見たいお店も……」
「いいのいいの! 私たちも、二人がイチャイチャするためのアシストなら全力でするから!」
心強い(そして少し恥ずかしい)友達の宣言と共に、私たちはモールの中を本格的に探索し始めた。
「これなんかどう? ちょっといいコーヒー豆!」
「うーん、朝陽くん、コーヒーも飲むけど紅茶の時もあるからなぁ……」
「じゃあ、お揃いのマグカップは? 凛の部屋に置いておく用!」
「そ、それは……もうあるの……」
「あんのかい!」
三人でああでもない、こうでもないと意見を出し合いながら、オシャレな生活雑貨のお店に入った時のことだ。
「……あっ」
私の足が、とあるコーナーの前でピタリと止まった。
そこには、シンプルなパッケージデザインの『ハンドクリーム』がずらりと並んでいた。
(……これ、いいかも)
毎日、私のために美味しいご飯を作って、洗い物をしてくれる朝陽くん。
水仕事が多いから、これからの季節は絶対に手が荒れやすくなるはずだ。
いつも料理をしてくれる彼の手。
私が不安な時、優しく頭を撫でて安心させてくれる、あの温かくて大きな手。
(ずっと綺麗なままでいてほしいし……何より、少しでも労ってあげたいな)
テスターで香りを確かめてみる。
甘すぎない、爽やかなシトラスとハーブの香り。
これなら男の朝陽くんでも使いやすいはずだ。
値段も高すぎず安すぎず、気を使わせない程度のちょうどいい価格帯だった。
「ねえ二人とも。……これ、どうかな。毎日洗い物してくれてるから、手荒れ防止に」
私がそのハンドクリームを指差すと、陽菜ちゃんと沙紀ちゃんはパッと顔を輝かせた。
「わっ、それすっごくいい! 気が利く奥さんって感じ!」
「しかもこの香り、絶対朝陽くんに似合う! ねえ凛、渡す時は絶対『私が塗ってあげる』って言って、朝陽くんの手を握るんだよ!?」
「っ!? そ、そんな恥ずかしいことできるわけないでしょ……っ!」
顔から火が出そうになりながら慌てて否定するけれど、二人は「はいはい!」とニヤニヤ笑っている。
恥ずかしさでいっぱいだったけれど、私はそのハンドクリームを大切に手に取り、レジへと向かった。
『プレゼント用でお願いします』と伝えると、店員さんが落ち着いた色合いの紙袋に、綺麗にリボンをかけてくれた。
夕方。
すっかり日も傾き始めた頃、私たちは駅の改札前で解散することになった。
「今日は誘ってくれてありがとう。すっごく楽しかった」
「こっちこそ! お泊まり会、本当に最高だったよ! 朝陽くんにもよろしくねー!」
「ハンドクリーム、ちゃんと塗ってあげるんだよ! 報告待ってるから!」
「だから、塗ってあげるとかはしないってば……っ」と最後に少しだけ口を尖らせてから、大きく手を振って帰っていく二人を見送る。
そして、私も自分のマンションへと向かって歩き出した。
手元には、綺麗にラッピングされた小さな紙袋。
ギュッと持ち手を握りしめると、紙袋の擦れる小さな音がした。
(喜んでくれるかな……。男の人って、こういうの面倒くさがらないかな……)
そんな不安もあるけれど、それ以上に「早くこれを渡したい」という気持ちが、私の胸の中でどんどん大きく膨らんでいく。
気づけば、私の足取りは自然と早くなっていた。
「……早く、朝陽くんに会いたいな」
口からこぼれた素直な独り言は、夕暮れの風に溶けて消えた。
朝陽くんの待つ場所へ。
プレゼントを渡した時の彼の顔を想像するだけで、私の唇は自然と、ふにゃりと緩んでしまうのだった。
第266話、ありがとうございました!
お友達のアシストを受けて、朝陽くんへのプレゼントを選ぶ凛ちゃんでした。




