第263話:瀬戸デリバリーと、絶賛のオムライス
今回は凛ちゃん視点。
金曜日の放課後。
学校から朝陽くんと一緒にマンションへ帰ってきた私は、自分の部屋で急いでお着替えを済ませた。
陽菜ちゃんと沙紀ちゃんが来てもリラックスできて、かつ、だらしなく見えない部屋着。
少しオーバーサイズで胸元に可愛いロゴが入ったパーカーに、動きやすい細身の黒いジャージパンツというスタイルだ。
「よしっ、準備オッケー」
鏡の前で身だしなみをチェックしてから、私は隣の朝陽くんの部屋のドアを叩いた。
「いよいよだね」
「ああ。凛、その服可愛いな。似合ってるぞ」
「えへへ、ありがとう」
陽菜ちゃんたちが到着するまでの小一時間。
私は朝陽くんの部屋のソファに座り、お泊まり会本番に向けて、少しだけ彼に甘えてエネルギーを補給させてもらった。
「オムライス、うんと期待してて」
「うんっ。陽菜ちゃんたちの胃袋、ガッチリ掴んじゃってね」
夜の6時45分。
私は「それじゃあ、後でね」と朝陽くんに手を振り、自分の部屋へと戻って待機した。
それから15分後の、夜7時ちょうど。
ピンポーン、と私の部屋のチャイムが元気よく鳴った。
ドアを開けると、小さなボストンバッグを手にした陽菜ちゃんと沙紀ちゃんが、目を輝かせて入ってきた。
「凛ー! お邪魔しまーす!」
「お邪魔しますっ。うわぁ、凛の部屋すっごく綺麗!」
「いらっしゃい! さあさあ、荷物そこら辺に適当に置いてね」
二人をリビングに案内しながら、私はポケットの中のスマホを操作し、朝陽くんに『2人来たよ!』とLINEを送る。
すぐに『了解。これから作るから、できたら持っていくよ』と、なんとも頼もしい返信が返ってきた。
「とりあえず、洗面所とお風呂はここね。トイレはこっち」
「はーい! あ、ねえ凛、寝る場所はどうする? 」
水回りを軽く案内した後、沙紀ちゃんが部屋の隅に置かれた布団セットを見つけて尋ねてきた。
「あ、二人は私のベッドを使って! 私はそこに敷いてある下の布団で寝るから」
「えーっ!? ダメだよ、家主を床で寝かせるなんて! 私たちが下の布団で寝るよ!」
ブンブンと首を横に振って遠慮する二人。
でも、その布団をよく見た陽菜ちゃんが、ピタッと動きを止めた。
「……ねえ凛。もしかしてその布団って、朝陽くんから借りたやつ?」
「えっ」
陽菜ちゃんの言葉に、沙紀ちゃんもハッとした顔をして私を見る。
「あ〜っ! なるほどね!? 凛、瀬戸くんの布団で寝たいから私たちにベッド譲ってくれたんだ!」
「ほ、ほうほう〜? やだ凛ったら、ラブラブじゃん〜!」
ニヤニヤと意地悪な笑みを浮かべて、両側から私をつついてくる二人。
「ち、違うよっ! うちに予備の布団がなかっただけで……っ」
「え〜? 本当かなぁ? 凛の顔、真っ赤だよ?」
「もうっ! 変なこと言わないの!」
顔に熱が集まるのを感じながら、私は必死に二人をポカポカと叩いて抗議した。
そんな風にキャッキャと騒いでいると。
夜の7時半。再び、部屋のチャイムが鳴った。
「あっ、朝陽くんだ!」
私が慌てて玄関のドアを開けると、そこにはエプロンを外した私服姿の朝陽くんが、大きなお盆を両手で持って立っていた。
お盆の上には、湯気を立てる大きなオムライスが3つと、彩り豊かなサラダ、そして温かいコンソメスープが乗っている。
「うわーっ……! いい匂い!」
玄関まで顔を出した陽菜ちゃんと沙紀ちゃんが、バターとケチャップの甘い香りに歓声を上げた。
「美味しそう! 朝陽くん、すっかり主夫じゃん!」
「すごい、お店のオムライスみたい!」
二人の絶賛に、朝陽くんは少し照れくさそうに苦笑いをした。
「『瀬戸デリバリー』です。熱いうちにゆっくり食べて」
「「はーい!」」
「凛、食べ終わったらLINEして。食器下げるから」
そう言って、朝陽くんはスマートに自分の部屋へと戻っていった。
「「「いただきまーす!!」」」
リビングのテーブルにオムライスを並べ、3人で手を合わせる。
私はスプーンを手に取り、黄色い卵の真ん中にスッと切れ目を入れた。
すると、半熟の卵がとろりと崩れて左右に広がり、中から湯気を立てる熱々のチキンライスが顔を出した。
「うわぁっ……! なにこれ、卵とろとろ!」
一口食べた陽菜ちゃんが、目を見開いて叫ぶ。
「んんーっ! めっちゃ美味しい! チキンライスのお肉もゴロゴロ入ってるし、バターの風味が最高!」
「ほんとだ、やばいこれ! お店の味じゃん!」
頬に手を当てて幸せそうにオムライスを頬張る二人を見て、私は心の底から湧き上がる『優越感』に浸っていた。
「……でしょ?」
隠しきれないドヤ顔を浮かべながら、私も自分のオムライスを口に運ぶ。
うん。やっぱり、朝陽くんのご飯は世界一美味しい。
「ふぅ〜、ごちそうさまでした! お腹いっぱい!」
「ほんっとに美味しかった! 朝陽くんに感謝だね」
オムライスを綺麗に平らげた後。
私は3人分の食器をお盆にまとめると、「ちょっと食器届けてくるね」と立ち上がった。
お盆を持って、隣の朝陽くんの部屋へ。
ドアを開けると、朝陽くんが自分の分のオムライスを食べ終えてくつろいでいた。
「ごちそうさま! 2人とも大絶賛だったよ!」
「おっ、本当か。それはよかった」
お盆をキッチンのシンクに置いた途端。
私は振り返り、朝陽くんの胸にギュッと飛び込んだ。
「うおっ、おい凛、どうした?」
「……エネルギー切れ。ちょっとだけ、充電」
隣の私の部屋には、陽菜ちゃんたちがいる。
壁一枚隔てただけの場所で、こうして彼氏に抱きついている背徳感。
そして、誇らしい彼氏への「大好き」という気持ちが溢れて、どうしても我慢できなかったのだ。
「……たく。お前なぁ」
朝陽くんは呆れたように息を吐きながらも、私の背中に腕を回し、ポンポンと優しく頭を撫でてくれた。
「えらいえらい。しっかりホスト役やってるみたいだな」
「うんっ。朝陽くんのおかげだよ。ありがとう」
ほんの10分間だけ。
目一杯甘やかしてもらってから、私は朝陽くんの胸から顔を上げた。
「じゃあ、明日の朝もよろしくね。おやすみなさい、朝陽くん」
「ああ、おやすみ。女子会、楽しんでこいよ」
朝陽くんの優しい笑顔に見送られ、私は幸せな気分のまま自分の部屋へと戻った。
「おかえりー! 朝陽くん喜んでた?」
「うんっ。お粗末様でしたって言ってたよ」
お風呂の自動お湯張りのスイッチを入れ、私は二人が座るラグマットの上へと腰を下ろした。
「さーて! お風呂が沸くまでの間、何話す?」
「やっぱり、明日の予定でしょ! 朝陽くんの美味しい朝ごはん食べた後、どこに遊びに行く?」
「あっ、駅前に新しくできたショッピングモールに行きたい! 可愛い雑貨屋さんが入ったって聞いたよ」
「いいね! あと、せっかくお揃いのパジャマ買ったし、お風呂上がりの写真撮影会もしなきゃ!」
「あはは、やることいっぱいだね」
お腹も心も満たされて、私たちの女子会はまだまだ始まったばかり。
オムライスの余韻に浸りながら、私たちは明日の予定や、これから着るパジャマの話などで、ワイワイと盛り上がっていった。
第263話、ありがとうございました!
お泊まり会スタート! そして瀬戸デリバリーの絶品オムライスでした!
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