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隣のクラスの「氷の令嬢」が、隣の部屋で空腹のあまり倒れていた件。〜胃袋を掴まれた彼女が、俺の前でだけ「ふにゃふにゃ」になるまで〜  作者: 比津磁界
第2章

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第262話:プリンと、待ち遠しい放課後

スーパーから帰宅した俺たちは、買ってきた大量の食材を協力して冷蔵庫へとしまっていった。

帰り道にコロッケを買い食いしてお腹も少し満たされている。


「今日の晩御飯は、パパッと済ませるか」

「うん、賛成。私、お皿並べるね」


俺はフライパンを取り出すと、冷蔵庫の残り物を使ってシンプルなネギ玉チャーハンと、中華スープを作ることにした。

熱したフライパンに油を引き、溶き卵を入れてすぐに温かいご飯を投入。

お玉の背でご飯をほぐしながら強火で炒め、刻んだネギを加える。

最後に塩コショウと少量の醤油、そして香り付けにごま油をサッと回しかければ完成だ。


「わぁ……ごま油のすっごくいい匂い」

「お待たせ。冷めないうちに食べよう」


パラパラに仕上がったご飯に、卵の甘みとネギのシャキシャキとした食感。

シンプルだからこそ、ごま油と醤油の香ばしさが引き立ってレンゲが止まらない。

俺たちはあっという間にチャーハンとスープを平らげると、それぞれの部屋へ戻り、順番にお風呂に入って一日の汗を流した。


『朝陽くん、お風呂あがったよー』


俺が自室で髪を乾かし終えたタイミングで、凛からスマホにメッセージが入った。

「よし、と」


俺はクローゼットの奥にしまってあった予備の布団セットを抱え上げ、隣の凛の部屋へと向かった。


「ごめんね朝陽くん、重いでしょ」

「これくらい余裕だって。……この辺でいいか?」


少しだけ模様替えをして作ってくれていた空きスペースに、マットレスと敷布団を敷き、掛け布団をセットする。


「天日干しはするなって言われたけど、さすがに長期間しまってたからな。ここ数日で、ベランダでホコリだけは叩いておいたぞ」


俺がそう説明すると、凛は嬉しそうに掛け布団に顔を埋め、すーっと深呼吸をした。


「うん、ありがとう。……朝陽くんの匂い、ちゃんと残ってる」

「っ……お前なぁ、そういうことサラッと言うのやめろって。そこまでいい匂いしないだろ…。」

「いい匂いだよ?落ち着く!」

「わからん…。」


俺が呆れたようにそう言うと、凛は「むぅ」と不満そうに唇を尖らせた。


「……信じてないね。じゃあ、ちょっと私のベッド座って」

「…え?なんで?」

「いいから!」


そう言うと、凜は俺を強引にベットに座らせた。

何をされるのかと身構えていると、目の前に立っていた凛が、一歩また一歩と距離を詰めてきた。


「ちょっ、凛……?」


次の瞬間。

ふわりと、お風呂上がりのシャンプーの甘い香りが鼻をくすぐったかと思うと。

凛の細い腕が俺の頭を包み込むようにして、ギュッと力強く抱きしめてきた。


「〜〜っ!?」


座っている俺と、目の前に立っている凛。

その体勢のせいで、俺の顔はちょうど、凛の胸の少し下……柔らかくて温かいお腹のあたりにスッポリと埋まる形になってしまった。


「ほ、おい、凛……っ!」

「ねえ、朝陽くん。……今の私、どんな匂いがする?」


身動きが取れない俺の頭を優しく撫でながら、頭の上から凛の甘い声が降ってくる。


「ど、どんなって……」

「嘘つかないで、誤魔化さないで、素直に教えて」


すぐそこに密着している柔らかい感触と温もりに、俺の心臓はこれまでにないほどの早鐘を打っている。

それでも、凛の真剣で優しい声に応えるように、俺はゆっくりと息を吸い込んだ。


「……シャンプーの、甘い匂い。それと……なんだろう、すげぇ安心するっていうか……ずっと嗅いでいたくなるくらい、落ち着く匂い……」


顔を真っ赤にしながら、絞り出すように本音をこぼす。

すると、俺の髪を撫でていた凛の手がピタリと止まり、嬉しそうなふふっと笑う声が聞こえた。


「……でしょ?」

「えっ?」

「それと一緒なんだよ。私が朝陽くんの布団の匂いを嗅いで『落ち着く』って言ったの。好きな人の匂いって、特別なんだからね」


私の気持ち、少しはわかった?

そう言うように、俺の頭をもう一度だけポンポンと優しく叩いてから、凛は満足そうに体を離した。


「わ、わかった! わかったから、もう降参……っ、心臓持たない……っ」

「ふふっ、朝陽くんの顔、真っ赤」


バクバクとうるさい胸を押さえてうずくまる俺を見て、凛はご機嫌な様子で笑っている。

好きな人の匂いの特別さ。それをこんな方法でわからせにくるなんて、本当にこの『氷の令嬢』には敵わない。


「さ、布団も敷き終わったし……いよいよ前夜祭といきますか」

「おう」


俺たちはリビングのテーブルに向かい合い、先ほどスーパーでこっそり買っておいた、少しお高めの『瓶入りとろけるプリン』を冷蔵庫から取り出した。


「いただきまーす」


小さなスプーンですくい、口に運ぶ。

濃厚なカスタードの甘さと、少しほろ苦いカラメルソースが舌の上で滑らかに溶けていく。


「ん〜っ……! すっごく美味しいね」

「ああ、卵の味が濃くて美味いな」


幸せそうに目を細めてプリンを味わう凛を見ているだけで、俺まで満たされた気持ちになる。


「明日、いよいよだな」

「うん。陽菜ちゃんも沙紀ちゃんも、すっごく楽しみにしてくれてたから……私、しっかりおもてなししなきゃ」

「おいおい、ただ友達がお泊まりに来るだけなんだから、そんなに気負う必要ないぞ」


少しだけ肩に力が入っている凛に、俺は優しく声をかけた。


「ご飯の準備は俺が全部やるから。明日は凛自身が思いっきり楽しんでくれな」

「……うんっ! ありがとう、朝陽くん」


プリンを食べ終え、凛が自分のベッドに潜り込む。

俺はベッドの端に腰掛け、布団を被ってこちらを見上げている凛の頭を、いつものように優しくポンポンと撫でた。


「それじゃあ、おやすみ、凛」

「うん、おやすみ、朝陽くん」


凛がゆっくりと目を閉じるのを見届けてから、俺は音を立てないように部屋を出て、自分の部屋のベッドへと潜り込んだ。

いよいよ明日は金曜日だ。



そして、翌日の金曜日。お昼休み。

すっきりと晴れ渡った青空の下、学校の中庭の隅にあるベンチに、俺たちは集まっていた。


「いよいよ今日だね! 凛ちゃんちのお泊まり会!」

「うんっ! 瀬戸のご飯、すっごく楽しみにしてるよー!」


お弁当を広げながら、佐藤さんと寺田さんがキャッキャとはしゃいでいる。

二人とも、朝からずっとこのテンションだ。


「あんまりハードル上げすぎないでくれよ。普通の手料理なんだから」

「えー? 凛がいっつも『朝陽くんのご飯は世界一美味しい!』って自慢してるから、もうハードル上がりきってるよ?」

「ちょっ、沙紀ちゃんっ! それは言わないでって言ったのに……っ」


顔を真っ赤にして慌てる凛を見て、女子二人がさらに楽しそうに笑う。

そんな和やかな空気に、一人だけ不満そうな声を上げた奴がいた。


「あーあ、いいなぁ。俺も行きたかったぜ」


卵焼きを頬張りながら、親友の大地がこれ見よがしにため息をつく。


「俺に今日の放課後、野暮用さえ入ってなけりゃなぁ……男陣は男陣で集まって、一緒に晩御飯でも食えたのにな。畜生!」

「ははっ、また今度な。」

「おう、絶対だからな! 俺にも美味いもん食わせろよ!」


悔しがる大地を宥めながら、みんなでドッと笑い合う。

友達に囲まれて、楽しそうに笑っている凛。

ふと、彼女と視線がぶつかった。


凛は、周りのみんなには気づかれないように、俺に向けてだけ……小さく、甘く、微笑みかけてきた。

それは、昨日二人だけでプリンを食べた時と同じ、安心しきったような優しい笑顔だった。


(……ズルいな、そういうの)


ドクン、と心臓が跳ねる。

放課後が待ち遠しいのは、どうやら女子たちだけじゃないらしい。

いよいよお泊まり会本番となる今日の夕方に向けて、俺の中でさらに期待が高まっていくのを感じていた。

第262話、ありがとうございました!

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