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隣のクラスの「氷の令嬢」が、隣の部屋で空腹のあまり倒れていた件。〜胃袋を掴まれた彼女が、俺の前でだけ「ふにゃふにゃ」になるまで〜  作者: 比津磁界
第2章

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第261話:食材の買い出しと、牛肉コロッケ

「えーっと、卵に牛乳、それにケチャップと……あ、バターも少なくなってたな」

「うん。バターはこっちの無塩のやつにする?」


木曜日の夕方。

学校から一度マンションに帰って私服に着替えた俺たちは、近所の大型スーパーにやってきていた。

明日の女子会に向けて食材をたっぷり買い込むため、今日はカゴではなく大きめのカートを使っている。俺が押すカートの真横にピタリと寄り添いながら、凛がメモ帳とスマホを見比べていた。


「明日は、学校が終わったらそれぞれ一度家に帰って荷造りして、夜の7時に私の部屋に集合ってことになった」

「そうか。なら、7時半頃に俺がオムライスを作って、凛の部屋に持っていくよ」

「うんっ! 食べ終わったら、私が食器を朝陽くんの部屋に下げに行くね。……そこで、おやすみの挨拶」


少しだけ声を潜めて言う凛に、俺はクスッと笑って頷いた。


「了解。で、土曜の朝は俺が朝食を作って、食べ終わったら三人で遊びに行く、と。こんな感じか。朝起きたら連絡くれるか?」

「わかった! あ、ねえ朝陽くん。陽菜ちゃんはトマト大好きなんだけど、沙紀ちゃんはキノコがちょっと苦手みたい」

「マジか。聞いておいてよかった。じゃあ、付け合わせのサラダとスープにはキノコ類は入れないようにしよう」


そんな風に、二人でカートを押しながら楽しそうにメニューの調整をしていく。

周りから見れば、週末に友達を招いてのパーティを企画している、ただの同棲カップルにしか見えないかもしれない。


精肉コーナーでオムライス用の鶏もも肉をカゴに入れたところで、俺はふと思い出したように尋ねた。


「そういえばさ、土曜の朝食はどうする? 佐藤さんたちは、朝はご飯派? パン派?」

「あっ、それ今日学校で聞いておいたよ! 二人ともお昼はいつもお弁当を持ってきてるけど、朝ごはんは絶対『パン派』なんだって」

「そっか、事前のリサーチ助かる。パン派か……」


俺は少し考え込んだ。

女子高生三人、しかも前日の夜は少し重めのオムライスだ。朝からガッツリしたクロックムッシュやピザトーストだと、少し胃もたれするかもしれない。


「じゃあ、朝から重すぎなくて、ちょっとオシャレな『オープンサンド』にするか」

「オープンサンド?」

「ああ。バゲットとか食パンを薄く切って軽くトーストして、その上に具材を乗せるんだ。シャキシャキのレタスに、カリッと焼いたベーコン、それにハムとチーズとか。シンプルだけど、色合いも綺麗でカフェみたいになるぞ」


俺がそう提案すると、凛はパァッと顔を輝かせて、その場でピョンと小さく跳ねた。


「わぁっ……! なにそれ、絶対かわいいし美味しそう! カフェみたいで写真映えもするし、陽菜ちゃんたちもすっごく喜ぶと思う!」

「よし、じゃあ決まりだな」

「うんっ!」


彼女の顔を立てるためにも、明後日の朝は気合いを入れてオシャレなものを作らなきゃな。

俺たちはベーカリーコーナーで美味しそうなバゲットを選び、ベーコンやチーズを次々とカゴに入れていった。


「あとは、夜に食べるお菓子だね! 陽菜ちゃんはポテチのコンソメ味が好きで、沙紀ちゃんは甘いグミが好きだから……」


メインの食材が揃い、お菓子コーナーへ移動した凛が、楽しそうに女子会用のスナック菓子を選び始めた。

俺はその後ろ姿を見守りながら、こっそりとカートから離れ、すぐ近くのスイーツコーナーへと手を伸ばした。


少しだけ値段のお高い、ガラスの小瓶に入った『特製・とろける濃厚プリン』。

それを二つ手に取り、凛が振り返る前に、カゴの端っこにそっと滑り込ませた。


レジでお会計を済ませ、サッカー台でエコバッグに商品を詰めていく。

すると、カゴの底から出てきた見慣れないプリンの瓶を見て、凛が不思議そうに首を傾げた。


「あれ? 朝陽くん、このプリン……」


俺は凛にスッと顔を近づけ、誰にも聞こえないような小さな声で囁いた。


「……明日の準備を頑張るための、俺たち二人だけの前夜祭用。」

「っ〜〜……!」


凛は顔を真っ赤にして、嬉しそうにコクコクと何度も頷いた。


牛乳や野菜、鶏肉など、重いものは全て俺の持ってきた大きなエコバッグへ。

凛の持つ小さなエコバッグには、潰れたら困るパンや卵、そして『前夜祭』のプリンを入れた。


「ふふ〜ん♪」


スーパーからの帰り道。

夕暮れ時の空の下、ずっしりと重い袋を両手に提げて歩く俺の横で、凛がご機嫌な足取りで鼻歌を歌っている。


「朝陽くん、荷物重くない? 半分持とうか?」

「これくらい平気だ。凛は軽い方だけ持っててくれ」

「そっか。……じゃあ、お言葉に甘えて」


そう言うと、凛は自分のエコバッグから、スーパーのお惣菜コーナーで「お腹空いたね」と言って買っておいた、揚げたての『牛肉コロッケ』の包みを取り出した。


「おっ、コロッケ食うか」

「うん。……でも、朝陽くんは両手塞がってるでしょ?」


凛はコロッケを、俺の口元へとスッと差し出してきた。


「だから……はい、あーん」

「えっ、外でか?」

「いいからいいから。早くしないと落としちゃうよ?」


イタズラっぽく笑う凛の瞳。

すれ違う人は少ないとはいえ、外で「あーん」をされるのは少し気恥ずかしかったが、俺は大人しく口を開けて、差し出されたコロッケをパクリ。


「……ん。美味い」


サクッとした薄衣を噛み破ると、ホクホクのじゃがいもと牛肉の甘みが口いっぱいに広がる。


「でしょ? えへへ……間接キス」


俺が食べたのを確認すると、凛は残りを大事そうに両手で持ち、幸せそうに小さな口で頬張った。

夕日に照らされた彼女の横顔が、いつも以上に柔らかく、愛おしく見える。


重い荷物を持って歩く彼氏と、その口にコロッケを運んで甘やかしてくれる彼女。

ただ手を繋いで帰るよりも、ずっと夫婦っぽくて、ずっと甘い帰り道。


いよいよ明日に迫ったお泊まり会。

きっと最高の週末になる。

そんな確かな予感と、小さなプリンという楽しみを胸に抱きながら、俺たちは並んでマンションへの帰路についた。

第261話、ありがとうございました!

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