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隣のクラスの「氷の令嬢」が、隣の部屋で空腹のあまり倒れていた件。〜胃袋を掴まれた彼女が、俺の前でだけ「ふにゃふにゃ」になるまで〜  作者: 比津磁界
第2章

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第239話:オムライスと、幸せなランチタイム

「ここだね! うわぁ、お店の外までデミグラスソースのいい匂いがする……!」


時刻は午前十一時半。

お昼のピークで混雑する前に、俺たちは作戦会議で決めていた『オムライス専門店』へとやってきた。

狙い通り、入り口にはまだ行列ができておらず、すんなりと店内へ案内される。


「いらっしゃいませ! お二人様ですね。こちらの窓際の席へどうぞ」

「ありがとうございます。……ラッキーだったな、凛。景色が見える良い席だ」

「うんっ! 遊園地全体が見渡せるね」


案内されたのは、パーク内の賑やかな景色が見下ろせる二階の窓際、ゆったりとした対面式のテーブル席だった。

向かい合って座ると、凛はさっそくテーブルに置かれたメニュー表をパカッと開いた。


「わぁ……! 見て見て、朝陽くん! いろんな種類があるよ!」

「本当だ。定番のデミグラスに、ケチャップ、ホワイトソースに和風きのこ……結構本格的だな」

「どうしよう、全部美味しそうで迷っちゃう……。朝陽くんはもう決めた?」

「んー……俺は『魚介のトマトクリームオムライス』にしてみようかな。家でオムライス作る時はケチャップかデミグラスが多いから、ちょっと勉強も兼ねて」

「あはは、さすが朝陽くん、料理人目線だね! じゃあ……」


凛はメニュー表をじっと見つめ、うんうんと唸りながら悩んでいたが、やがてパッと顔を上げた。


「よし! 私は王道の『特製デミグラスソースのふわとろオムライス』にする!」

「お、一番人気って書いてあるやつだな」

「うん! それでね、途中で朝陽くんのトマトクリームと一口交換するの! そうすれば二つの味が楽しめるでしょ?」

「なるほど、シェア前提か。いいよ、そうしよう」


ニコニコと笑う彼女の提案に頷き、俺はテーブルの呼び出しボタンを押した。


「お待たせいたしました、ご注文をお伺いします」

「特製デミグラスのオムライスと、魚介のトマトクリームオムライスを一つずつ。あと、食後にホットティーを二つお願いします」

「かしこまりました。少々お待ちくださいませ」


店員さんが下がり、俺たちはテーブルに運ばれてきたお水を飲みながら、ホッと一息ついた。


「午前中、すっごくあっという間だったね」

「そうだな。朝一の立体迷路から始まって、ジェットコースター、シューティングにスカイサイクル……結構ハードに動いたからな」


俺が言うと、凛はカバンからスマホを取り出し、画面をスワイプし始めた。


「シューティング、朝陽くんのおかげでなんとか的に当たったけど……私、本当にあぁいうの才能ないみたい」

「いや、あれは銃の重さもあったから仕方ないって。でも、俺が後ろから手伝った時の凛、めちゃくちゃ顔赤かったぞ」

「もー! あれは朝陽くんが急にくっついてくるからでしょ!? 心臓止まるかと思ったんだから……!」


ぷくっと頬を膨らませる凛が可愛くて、俺は思わず笑い声を漏らす。


「ほら、さっきメリーゴーラウンドの前で撮った写真。朝陽くん、すっごく優しそうな顔して私を見てるんだよ」

「え? ちょっと見せてみろ」

「だーめ! これは私のスマホの宝物フォルダ行きです!」


凛はスマホを胸に抱え込み、いたずらっぽく舌を出した。

そんな他愛のない会話をしていると、不意に俺たちのテーブルにワゴンが近づいてきた。


3. オムライスの到着と実食

「お待たせいたしました。特製デミグラスと、魚介のトマトクリームでございます」

「「わぁ……!」」


テーブルに置かれたお皿を見て、俺と凛は同時に歓声を上げた。

チキンライスの上に、丸々と太ったオムレツが乗っている。見るからにぷるぷるとしていて、今にも崩れそうだ。


「お好みで、真ん中からナイフで開いてお召し上がりください」

「ありがとうございます。……朝陽くん、これ絶対に美味しいやつだね!」

「ああ。じゃあ、さっそく開いてみるか」


凛がスプーンの横に置かれたナイフを手に取り、黄色いオムレツの真ん中にスッと切れ目を入れる。

すると、自重に耐えきれなくなった半熟卵が、とろとろ〜っと両サイドに花開くように広がり、チキンライスを完全に覆い隠した。湯気と共に、芳醇なデミグラスの香りが鼻腔をくすぐる。


「うわぁぁっ……! すごいすごい! 卵が滝みたい!」

「こっちのトマトクリームもいい匂いだ。……よし、冷めないうちに食べよう。いただきます」

「いただきますっ!」


凛がスプーンでたっぷりと卵とライスをすくい、大きな口を開けてパクリと頬張った。


「ん〜〜〜っ!!」


一口食べた瞬間、凛は目を大きく見開き、満面の笑みを浮かべて両頬を押さえた。


「美味しい! 卵がふわっふわで、口の中で溶けちゃう! デミグラスソースもすっごく濃厚!」

「どれ……こっちも美味いな。卵の火の通し方が絶妙だ。魚介の出汁もトマトの酸味とよく合ってる」

「あはは、朝陽くんの食レポ、本当の料理人みたい! 今度、家でもこのソース作ってくれる?」

「ん、まあ研究してみるよ。凛が喜ぶならな」


俺がそう答えると、凛は「やったー!」と嬉しそうに足をバタバタさせた。


4. 堂々たる「あーん」の応酬

半分ほど食べ進めたところで、凛がピタリとスプーンを止め、俺の方をジッと見てきた。


「ねえ、朝陽くん」

「ん?」

「さっきの約束……私のオムライス、一口食べてみる?」


そう言って凛は、自分のオムライスをスプーンにすくい、俺の口元へとスッと差し出してきた。

「はい、あーん」


いわゆる「あーん」のシチュエーション。

お昼時になり、店内は少しずつ他のお客さんで埋まり始めていた。隣の席には別のグループ客も座っている。学校で秘密の交際をしていた頃なら、こんな人目のある場所で大胆な真似は絶対にできなかった。


一瞬、周囲の目が気になって照れくささが込み上げたが、真っ直ぐに俺を見つめる凛の嬉しそうな瞳を見て、すぐに思い直す。

(……今はもう、隠れる必要のない『公認カップル』なんだからな)


俺は小さく息を吐き、少しだけ顔を赤くしながら、差し出されたスプーンに向かって口を開けた。


「……あーん」

「ふふっ、どう?」

「ん……美味い。俺のトマトクリームとは全然違って、王道のコクがあるな」

「でしょ? えへへ……じゃあ、次は私!」


凛は空になったスプーンを自分の口元に当てて、上目遣いで俺のオムライスを見つめてくる。

そのおねだりに逆らえるはずもなく、俺は自分のオムライスをすくい、凛の口元へと運んだ。


「ほら、熱いからふーふーして。……あーん」

「あーん……んっ。わぁ、こっちは海老の風味がすっごく美味しい! 私、こっちも好きかも!」

「じゃあ、もう少し食べるか? はい」

「あーん……えへへ、幸せぇ……」


周囲の目を気にすることなく、好きな人と美味しいご飯をシェアして笑い合う。

「普通のカップル」としての当たり前のやり取りができることが、俺は何よりも嬉しくて、胸の奥がじんわりと温かくなった。


5. 食後の会話と、忍び寄る恐怖

「はぁ〜、お腹いっぱい! 美味しかったぁ」

「食後の紅茶もタイミングバッチリだったな。ごちそうさまでした」


綺麗に空になったお皿を前に、俺たちは温かい紅茶を飲みながらホッと息をついた。

窓の外を見ると、パーク内はすっかりお昼の賑わいを見せている。


「さて、そろそろ午後のルートを確認するか」


俺がタブレットを開いてマップを表示させると、紅茶を飲んでいた凛が「うんっ」と身を乗り出してきた。


「えっと、今ここだから……次は……」

「次は、このエリアだな。『呪われた洋館・お化け屋敷』」


俺がその文字を指差した瞬間。

凛の肩が、ビクッ! と分かりやすく大きく跳ねた。


「あっ……そ、そうだね……お化け屋敷、だね……」

「なんだ、まさか今更になって逃げ出す気じゃないだろうな?」

「に、逃げないもん! 朝陽くんと一緒なら大丈夫だもん!」


強がってはいるが、ティーカップを持つ手がほんの少しだけ震えている。昨夜の作戦会議で意地悪を言われたことをしっかり引きずっているようだ。


「……朝陽くん。絶対、絶対に置いていかないでね。手、ずっと繋いでてよ……?」

「ははっ、わかってるよ。しっかりエスコートしてやるから安心しろ」


俺は立ち上がり、お会計の伝票を手に取った。

「行くぞ、凛」

「う、うんっ……!」


少しだけ足取りが重くなった彼女の小さな手をしっかりと握りしめ、俺たちは午後のメインイベント、恐怖のお化け屋敷へと向けてレストランを後にした。

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