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隣のクラスの「氷の令嬢」が、隣の部屋で空腹のあまり倒れていた件。〜胃袋を掴まれた彼女が、俺の前でだけ「ふにゃふにゃ」になるまで〜  作者: 比津磁界
第2章

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第238話:シューティングと、空飛ぶ特等席

「あー、楽しかった! 次はどこ行こっか!」


ジェットコースターの興奮がすっかり癖になったのか、凛は頬を上気させながら元気いっぱいにパンフレットを開いた。


「昨日の作戦会議だと、次はコーヒーカップで勝負する予定だったけど……」

「あっ、本当だ。でも……」


俺たちが視線を向けた先、パステルカラーの巨大なコーヒーカップの乗り場には、黄色い帽子を被った小学生の団体がズラリと長蛇の列を作っていた。

どうやら遠足の自由時間と重なってしまったらしい。


「あれはちょっと、並ぶのに時間がかかりそうだな」

「そうだね。じゃあ、コーヒーカップはまた後にして……あ、あれはどう!?」


凛が指差したのは、すぐ隣にあった『ギャラクシー・シューティング』という屋内型のアトラクションだった。

二人乗りのカートで暗闇を進みながら、備え付けのレーザー銃で光る的を撃ってスコアを競うというものだ。これなら列も短く、すぐに乗れそうだった。


「よし、行ってみるか」

「うんっ! コーヒーカップの代わりに、これで勝負だよ、朝陽くん! 負けた方が後でジュース奢りね!」

「おっ、いいね。俺、こういうの結構得意だぞ?」


お互いに変な対抗心を燃やしながら、俺たちは薄暗い入り口へと足を踏み入れた。


案内された二人乗りのカートに並んで座り、それぞれの座席に備え付けられた重たいレーザー銃を構える。

ブザー音と共にカートが動き出し、俺たちはネオンが怪しく光る暗闇のコースへと滑り出した。


『ターゲット、発見! 撃て!』


アナウンスと共に、壁や天井のあちこちに赤や青の的が浮かび上がる。

俺は冷静に的の真ん中を狙い、次々とトリガーを引いてスコアを稼いでいった。


「えいっ! ああっ、また外れた! なんで!?」


一方、隣に座る凛はというと、壊滅的にエイムが下手だった。

気合は十分なのだが、銃口がブレブレで、レーザーは的の明後日の方向へ飛んでいくばかり。

手元のスコアボードは悲しいくらいに低い数字のままだ。


「あれっ!? おかしいな、ちゃんと狙ってるのに!」

「……凛、力が入りすぎてるかも。もっと肩の力抜いて」

「えっ? こう?」


焦る彼女を見かねて、俺は自分の銃から手を離し、隣に座る凛の方へと身を乗り出した。

そして、レーザー銃を握る彼女の小さな両手の上から、すっぽりと自分の手を重ねた。


「ひゃっ……」

「ほら、銃口が上向いてるだろ。少し下げるんだ」


自然と背中から抱き込むような姿勢になり、暗闇の中で俺の顔が凛の耳元に近づく。

「あそこの青い的、俺が合わせるから、凛はトリガーだけ引いて」

「あ、うんっ……えいっ」


ピロリンッ! と、命中を知らせる電子音が鳴り響いた。


「よし、当たった。その感覚だ」

「…………っ」


俺が顔を離して元の姿勢に戻ろうとすると、凛は銃を下ろして俯いてしまった。


「どうした? 撃たないのか?」

「……む、無理。暗いところで急にくっつかれると、心臓に悪い……」


ネオンの光に照らされた凛の顔は、耳の先まで真っ赤に染まっていた。

俺の温もりと至近距離の匂いにすっかりドギマギしてしまったらしく、彼女はゲームどころではなくなってしまったようだ。


結局、勝負は俺の圧勝で終わったが、カートを降りる凛の手はずっと熱いままだった。


「はぁ……びっくりしたぁ……」

「悪い、つい熱中して教えすぎた」

「ううん。でも、ジュース奢りはちゃんと払うからね」


暗闇から抜け出し、少しだけ照れくさい空気のまま、俺たちは次なるアトラクション『スカイサイクル』の乗り場へと向かった。

高いレールの上を、二人並んでペダルを漕いで進む空中自転車だ。

絶叫系とは違い、のんびりと空の散歩が楽しめるはずだった。


「わぁ、見晴らし最高だね!」


カートに乗り込み、駅を出発した直後は凛もご機嫌だった。

しかし、レールが地上十メートル以上の高さに差し掛かると、事情が変わってきた。


「おっと……! け、結構揺れるね……それに、下スースーするし……」


周囲を囲う壁が一切ない吹きさらしのカートは、風が吹くたびにギシギシと揺れた。

ジェットコースターの猛スピードとは違う、自力で空中に放り出されているような生々しい恐怖感。

凛はペダルから足を離し、たまらず俺の左腕にギュッと抱きついてきた。


「大丈夫か?」

「う、うん……ちょっとだけ、怖いかも……」

「なら、俺が全部漕ぐから。凛はしっかり俺の腕に掴まって、遠くの景色だけ見てな」

「……いいの?」

「ああ、任せとけ」


俺は右腕でしっかりとハンドルを握り、二人分の重量が乗ったカートのペダルを、持ち前の脚力で力強く漕ぎ始めた。

部活をやっているわけではないが、日々の生活(と、たまにやる筋トレ)で鍛えられた体力には自信がある。

重たいペダルも、俺一人でスイスイと回すことができた。


「……朝陽くん、すごい。全然疲れてないみたい」


俺の腕に顔を押し付けながら、凛が上目遣いで呟く。


「これくらい余裕だ。ほら、あっちの山、すごく綺麗だぞ」

「ほんとだ……」


恐怖心が薄れたのか、凛は俺の腕にしがみついたまま、景色を楽しそうに眺め始めた。


スカイサイクルを終え、地に足をつけてホッと一息ついた俺たちは、近くのベンチに腰を下ろした。


「はぁー、空の散歩も楽しかったね」

「そうだな。でも、意外と体力使ったかも」


心地よい疲労感を感じながら、時計を確認する。

時刻は午前十一時半を少し回ったところだ。

その時だった。


『……きゅるるるっ』


凛のお腹のあたりから、なんとも可愛らしい、しかしはっきりとした腹の虫の音が鳴り響いた。


「っ……!!」


凛はハッとして、顔をパタパタと手で仰ぎながら、真っ赤になって自分のお腹をギュッと押さえた。


「あ、あのっ! 今のは、その……違うの! 」

「別に恥ずかしがることないだろ。朝から頭も体もいっぱい使ったんだし、お腹空いて当然だ」


必死に言い訳をする彼女が可愛くて、俺は優しく頭をポンと撫でた。


「時間は十一時半。お昼のピークで混み始める前に、早めのご飯にしちゃおうか。事前に決めてたオムライスの店、行こうぜ」

「……うんっ」


俺のスマートな提案に、凛は恥ずかしそうにはにかみながら頷いた。

俺は立ち上がり、彼女の小さな手を取る。

美味しいふわとろオムライスを目指して、俺たちは手を繋いだままレストランへと歩き出した。

第238話、ありがとうございました!

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