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隣のクラスの「氷の令嬢」が、隣の部屋で空腹のあまり倒れていた件。〜胃袋を掴まれた彼女が、俺の前でだけ「ふにゃふにゃ」になるまで〜  作者: 比津磁界
第2章

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第112話:青いワンピースと、親友の鋭い視線。

凛ちゃん視点の朝です。

ずっと楽しみにしていた陽菜とのお出かけ。でも、家を出る直前に朝陽くんに言われた「綺麗だ」という言葉が、呪文みたいに頭から離れません。



「…………っ、あー……もう! なにあれ!」


マンションのエレベーターに飛び込み、閉まるボタンを連打した。

鏡張りの壁に映る自分の顔は、真っ赤に染まっている。


『すごく、似合ってる。……綺麗だと思うぞ』


脳内で、朝陽くんの声が何度も再生される。

いつもの、淡々と指示を出すサポーターとしての声じゃなかった。少しだけ言い淀んで、でも真っ直ぐに私を見てくれた、あの目。

お世辞を言わない彼が言ってくれたんだから。……それって、本当にそう思ってくれたってことだよね?


「……反則。あんなの、ずるい」


心臓の鼓動が耳の奥まで響いて、立っているのもやっとだ。

彼に見てほしくて選んだ服だった。

陽菜と遊ぶから、なんて言い訳をして、本当は彼に「いいな」って思われたくて。

その願いが叶った瞬間の衝撃は、私が想像していたよりもずっと、甘くて、少しだけ痛いものだった。


駅までの道。アスファルトを叩くサンダルの音が、なんだか弾んで聞こえる。

照りつける太陽さえも、今の私を応援してくれているような気がして。

私は何度もワンピースの裾を整えながら、浮き足立つ心で約束の駅へと急いだ。


「凛! こっちこっち!」


駅前の改札。大きく手を振る陽菜の姿が見えた。

彼女は私を見つけるなり、弾かれたように駆け寄ってきて――そして、私の数歩前でピタリと足を止めた。


「……ちょっと。凛りん、今日、気合入りすぎじゃない? そのワンピ、新調したやつだよね」

「えっ!? あ、うん……。そ、そんなに目立つかな?」

「目立つっていうか……。あんた、今朝なんかあったでしょ。顔に『幸せです』って書いてあるし、なによりその服……」


陽菜のニヤニヤした視線に、私は思わずバッグの紐をぎゅっと握りしめた。


「だって……家出る時、変じゃないか朝陽くんに見せたんだけど…そしたら、その……」

「そしたら?」

「…………『綺麗だ』って、言われちゃったの」


「…………」

「あ、陽菜!? 急に黙らないでよ!」


陽菜は天を仰ぎ、深く溜め息を吐いた。

「……オッケー。開始五秒でそれね。はい、尋問決定。朝ごはん食べながら全部吐き出しなさい!」


陽菜は私の腕を強引に引き、予約していたカフェへと突き進んだ。


窓際の明るい席。

カフェオレが運ばれてくるなり、陽菜がテーブルに身を乗り出した。


「で? 凛りん、十日間の同居はどうだったのよ。」


「……どうだったって言われると、困るんだけど……」


私はトーストを小さくちぎりながら、思い出す。

十日間の、濃密すぎる時間。


「……最初はね、変な感じだったの。でも、朝起きたらキッチンから包丁の音が聞こえてきて、おやすみって言ったらすぐ隣の部屋に彼がいる。……それがね、びっくりするくらい、当たり前になっちゃって」

「へぇ。当たり前、ねぇ」

「そう。朝陽くん、すごく無愛想なんだけど、私のこと全部見ててくれるんだよ。仕事が進まなくて悩んでいたら、何も言わずに隣に座っててくれたり、私が一番欲しい温度の飲み物を、言わなくても出してくれるの。……なんだか、世界で一番大切にされてるような、そんな気分になっちゃって」


「…………」

「あ、あともう一つ! 昨日から、寝る前に私のベッドまで来て、頭なでてくれることになったの! 私が寂しくないようにって。朝陽くんの手、すごく大きくて、温かくて……。それだけで、なんだか胸がいっぱいになって、すぐ寝れちゃうんだよ」


言い終わってふと顔を上げると、陽菜はパンを口に咥えたまま、静止していた。


「……凛」

「なに?」

「あのね。あんた今、自分がどんな顔して話してたか自覚ある?」

「えっ、どんな顔って……」

「……完全に、恋する乙女の顔。っていうか、もう『奥様』のノロケだよそれ! なによ『世界で一番大切にされてる』って! 契約どこ行ったのよ!」


陽菜に突きつけられた言葉に、私は顔から火が出るかと思った。

でも、否定できない。

朝陽くんがいない部屋に戻って二日。

私は、彼のいない静寂がこんなに苦しいなんて知らなかった。

彼の匂いがしない枕が、こんなに味気ないなんて思わなかった。


「……サポーター……だもん。朝陽くんは、仕事でやってくれてるだけだもん……」

「仕事で頭なでなでする男子なんてラノベの中だけ! ……まったく、瀬戸も罪な男だね。凛りんをこんなに骨抜きにしちゃうなんて。「氷の令嬢」はどこに行ったんだか」


陽菜は呆れ果てたように笑いながらも、どこか安心したように私の手を取った。

「でも、良かった。凛りんがこんなに楽しそうで。……さて、次はショッピング! 朝陽くんがもっと惚れ直しちゃうような秋服、私が選んであげる!」


「……もう! 陽菜のバカ!」


私は真っ赤な顔で言い返しながらも、心のどこかで期待している自分がいた。

今度私服で会ったとき、彼はまた「綺麗だ」と言ってくれるだろうか。

彼の視線が、もっともっと、私だけを追ってくれるようにならないかな――なんて。

第112話、ありがとうございました!

凛ちゃん、もう完全に「ビジネスパートナー」の壁を自らぶち壊してノロケていますね!

陽菜ちゃんに「奥様のノロケ」と言われるほど、朝陽くんとの生活が彼女の芯まで染み込んでしまったことが伝わる回になりました。

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