文句はないよね?
文官が持ち帰ったリストを見たモンテカルロ侯爵は血の気が引いていた。
なんと第二王子が召喚した者の中にセレマという名が書かれてあったのだ。但し性別以外に種族他の情報が一切書かれていない。他の召喚者はみな種族など大まかなことが書かれてある。おそらくは王子たちが質問して答えた内容しか記載していないのだろう。と言うことは、第二王子がまともに質問しなかったことになる。
「顔色が優れないようだな、どうかしたのか?」
きつく睨んだままミカエルがモンテカルロ侯爵に問いかける。
出されたお茶や菓子には一切手を付けていない。最初に腰掛けた姿勢のままだ。
「申し訳ございません!!!」
モンテカルロ侯爵は腹から気合の入った声でそう叫ぶと、いきなり地べたにひれ伏した。
それを見た大臣や文官も慌ててその場で地に額をこすりつけるように続いている。ミカエルはそれらを冷めた目で見ていた。
「セレマという名前の者を第二王子が召喚しております。ただ種族を聞かなかったようでして神族とはわからなかったと思われます。今すぐにここに連れて参りますので、どうかご慈悲を!」
温室に木霊するモンテカルロ侯爵の悲痛な叫び。
ミカエルは肘掛けに肘をつき、こめかみに手を添えたまま静かに相手を見据えている。そしてゆっくりと言葉を発した。
「国ごと消されても文句はないよね?」
戦いの経験のないものでもわかるほどに凄まじい殺気が襲い掛かる。
文官の中には失禁し気絶した者がいた。そんな中、モンテカルロ侯爵は頭をフル回転させている。神族が懸念しているのは神族の血筋が他種族と混じることだ。セレマが召喚されてから女性とそういう関係にならなかったと証明できればチャンスはある。しかし召喚したのがあの好色の第二王子だ。かなり望みは薄い。絶望に押しつぶされそうになりながらもなんとか言葉を紡ぎ出した。
「どどどど、どうか平にご容赦を!記録の間での確認の時間をお与えください。」
第二王子じゃダメだろという雰囲気が周りから伝わってくる。
文官のすすり泣く声まで聞こえてくる始末だ。
「時間なら今までに十分にあったよね。僕たちの事バカにしてる?」
感情のないミカエルの声がモンテカルロ侯爵の上に降り注ぐ。
「では、では我々どもの諜報員にセレマなる者の素行を聞き出す許可をお与えください。どうか潔白を証明させてください!」
基本王家の影たちは王子に張り付いているだけで、召喚された者には張りついていない。
どこで何をしていても監視対象外だ。それを知らないモンテカルロ侯爵ではない。もう後がないと口を突いて出てきた言葉なのだろう。
「諜報員ってこの部屋に隠れている数匹の羽虫の事か?すぐに聞けるのなら許可しよう。だが返答次第でお前の首を刎ねるからな。誰でもいい、出て来て話せ。」
ミカエルが言い終わるか終わらないかのタイミングで影の一人が姿を現わした。
モンテカルロ侯爵のすぐ横に跪く。もうモンテカルロ侯爵は生きた心地がしなかった。この影の発言内容によって自分の運命が決まるのだ。心音がうるさいのか影の声がよく聞き取れないようで、ゆっくりと口で息をしながら必死に耳を澄ませている。
「申し上げます。セレマという者は召喚されてからずっと軟禁状態にありました。今はトレードで第三王子の元におります。そちらに行ってからは自由に行動しているようです。私が知るのは以上になりま―――」
「呼び戻しましょう!!!」
顔を上げ、影の言葉を遮るようにモンテカルロ侯爵は大きな声を出した。
その顔は汗と涙でぐしゃぐしゃになっている。そして頭を垂れている影の顔を下から覗くようにして叫んだ。
「お前たち!今から直ぐにセレマという者の確保に向かうんだ!」
言葉だけ聞くと威厳があるのだが、モンテカルロ侯爵の態勢がいただけない。
ただゴロンと横になって影に甘えている犬のようにしか見えないのだ。しかしある意味迫力のある顔面に影も驚いて一瞬バランスを崩し、足に力を入れ直している。
「もういい。役立たず共は引っ込んでろ。」
ミカエルの呆れた声にハッとしたモンテカルロ侯爵は慌てて正座になった。
数々の失態にもう声も出ないようだ。口をパクパクさせながらミカエルの足元まで四つん這いで近づこうとしている。足にでも縋るつもりだろう。
その様子を見てミカエルはさっさと立ち上がる。
「地図を見せろ。直接僕が行く。その第三王子とやらは何処にいるんだ。」




