お元気で
「殿方が一生懸命働いてる姿って、ほんまええもんどすなぁ。惚れ惚れしますわ。」
キヨラさんがほぅと色っぽいため息を吐いてラミレスさんを眺めている。
夕方だというのにお陰様で職安ギルドは繁盛しているようだ。それに引き換えやっぱり冒険者ギルドはあまり芳しくない。そりゃギルドマスターも暇そうにしてるもんね。ずっとラミレスさんに熱視線を送ってるんだけど、その想い、届くのかしら。ここ数日、ギルド運営の件でラミレスさんと話す機会が多かったんだけど、その中でラミレスさんの好みの女性の話になったのよね。そしたらさ、“自分より角が立派な女性”なんだそう。キヨラさん、角ないでしょ。まあ人の恋路にとやかく口出しはしませんけどね。ラミレスさんの仮住まいの物件とかも斡旋してたみたいだし、ゆっくりと仲を深めたらいいんじゃないですか。
安定した職安ギルドを後にして、私はホストクラブナイトへと足を運んだ。
まだ入り口には明かりが灯っていない。恐らく看板も準備中なのだろう。準備中と営業中がなんとも似ている文字で私には区別がつかない。
「あ!ハニーさん!今日も来てくれたんですね!」
扉を開けると多くの元気な声で迎えられる。
「はいは~い、みんな集まって~。」
私はそう言って片手を上げながらホールの真ん中に向かった。
エンリコさんたちが“ハニーちゃん”って呼ぶもんだから、ホストたちにもハニーさんと呼ばれているのよね。何だかなぁ。
「さぁ、今日も頑張って稼ぐわよ!」
「「「ハイ!!」」」
「ひとつ!色恋営業はしません!」
「「「ひとつ!色恋営業はしません!」」」
「ふたつ!お客様は姫様です!」
「「「ふたつ!お客様は姫様です!」」」
「みっつ!姫様に無理はさせません!」
「「「みっつ!姫様に無理はさせません!」」」
「フォーエバー、ナイトぉぉぉ!」
「「「うぇ~い!!!」」」
恥ずかし~!
会社の朝礼でも経営理念を大声で叫んでるおっちゃんがいたけど、まさか私がそれをやるとは思ってもみなかった。こんな体育会系のノリでいいのかしら。
唱和を終えて店がオープンすると私とキャサリンさんは螺旋階段で上の階に移動した。
手すり越しに店内を見渡す。今日もそこそこの滑り出しに思える。あのご婦人は初日からずっと通い詰めてるけどお金大丈夫なの?“姫様に無理はさせません”ってお財布事情の事なんだけどな。基本、現金払いのツケ厳禁ですからね、この店は。
「ハニーちゃん、色々とありがとうね。」
手すりに背を預けてキャサリンさんが話しかけてきた。
「いえそんな。こちらの方こそ、騒がしい酒場にしてしまって申し訳ありません。」
「いいのよ、気にしないで。それにエンリコがあんなに生き生きしてるの久しぶりに見たもの。感謝しかないわ。」
キャサリンさんの視線の先には笑顔でお客様を迎え入れているエンリコさんの姿があった。
エンリコさんも燻っていたのかな。生きがいとまではいかなくても、楽しんで経営できるお店になったのならお手伝いした甲斐もあるというものだ。
「明日、本当に行っちゃうの?やっぱり家族で見送らせてちょうだいな。」
ですよね、そう言ってくると思ったわ。
昨日のうちにエンリコさん一家には挨拶を済ませている。その時にも見送らせてくれと言われたのだが、経営しているのは夜の仕事だ。睡眠を十分にとって翌日に疲れを持ち越さないようにしてほしい。何事も最初が肝心なのだからと丁重にお断りしたのだ。
「午前中には発ちますのでお気遣いなく。」
「そう、なら止めておくわ。元気でね。」
「はい。お世話になりました。キャサリンさんもお元気で。」
キャサリンさんに向かって深くお辞儀をする。
下の階ではシャンパンコールが巻き起こり、しっとりとした曲が流れ出した。高級シャンパンを注文した特典としてホストとお客様が舞台の上でスローダンスを始めるのだろう。私は曲に合わせて静かに非常口のノブを回した。




