奇抜なスーツ
順調に面接が行われている中、私はジェシカさんとクラブの二階のちょっとした応接室に来ている。
ホールから螺旋階段を上ったところにあるのだが、通路突き当りには外に出られる非常扉もある。VIPルームとして使われていたようだが、ここで経営するホストクラブには無用の長物、個室なんて健全なホストクラブには必要ないのだ。だから従業員のロッカールーム兼レストルームにすることにした。
そして今ここには業務用パイプハンガーに吊るされた大量の“誰が着るの?”っていう派手なスーツがずらりと並んでいる。
「全部持ってきたけど、こんな服どうするの?悪趣味以外の何物でもないわよ。」
ジェシカさんが汚いものを見るような目で眺めている。
何を隠そう、これは全部あのクラークさんのお古なのだ。何故ジェシカさんが持ってるって?それは今からお話しするわ。
事の発端は、私がジェシカさんに奇抜なスーツを取り扱っていないかと尋ねたことだった。やっぱりホストが着るなら一般人が着ないようなオシャレなスーツでしょって思ったからなのよね。それでジェシカさんにそんな聞き方をしたんだけど、彼女は一瞬顔を曇らせたと思ったらいきなり全部買い取ってほしいと懇願してきたのだ。え?あるの?って飛びつきそうになったけど、全部買い取りってところに違和感を感じて逆にその商品の掃かせ方を提案したんだけど。
何でもこの国よりももっと東の方にファッションの都があって、これらの服はそこのかなり有名なメーカーの品なんだそう。洋服はクラークさんのを見てるから趣味が悪いと思ったものの、作りはきちんとしてるし小物くらいなら売れるかもと思って、カタログか何かないのかと尋ねたらこれらのスーツが送られてきたそうだ。実家には怒られるし、クラークさんに返そうとしたら“ジェシカが見たいって言ったんじゃないか”と受け取りを拒否。その後は売ろうにも買い手が無い、孤児院に寄付しようとしても要らないと言われ途方に暮れていたようなのだ。クラークさんもカタログが見たいって言われて自分の服を全部送るか?とにかくタダでもらったものなんだから数着は譲ってもらい、あとは店で売ることを勧めた。
「こんなの絶対に売れないでしょ。」
ジェシカさんはまだ胡散臭そうに私を見てくる。
ところがどっこい、売れるんだなこれが。取り敢えずホストたちに一人二着を好きに選んでもらう。そのあと残ったものはホスト御用達にしたジェシカさんの実家のテルム商会系列の店で売ってもらうのだ。ホストたちだって同じ服だと見栄えが悪い。絶対に欲が出て買いに来るはずだ。良心的な値段に設定してもらう。もちろん普通の服よりは高いわよ、高級品だもの。ここにあるロッカーも黒服たちの制服もテルム商会で購入してあげたんだからこれくらいの条件は飲んでもらわなきゃ。タダの服が現金化出来るんだからいいじゃない。
「ハニーちゃん、開店できそうな人数は集まったぞ。」
面談を終えたエンリコさん一家が入ってきた。
何回か面談に立ち会ったけど、私と同じ感性で選んでくれていたと思う。合格に至った男性は往々にして悪意のない明るいキャラだった。中にはセイタイシと兼業なんて人もいたけど根は真面目そうだったんで採用としたのよね。
溢れかえった衣装の山にキャサリンさんとジミーは目を白黒させている。この二人はどうやって運んできたのか知らないから仕方ないか。
「スゲェ!いかしたセンスのスーツばっかだな!」
エンリコさんは一着一着食い入るように確かめている。
ああ、一番見せてはいけない人物に見せてしまったようだわ。食いついて来るとは思ってたけれども!
もう勝手に試着しようとしてるし。ジェシカさんはそれを見て絶句していた。




