家族会議
キャサリンさんは父親が経営していたこの店で歌を歌ってたらしい。
サビの部分を聞かせてもらったけど、しっとりとしたシャンソンみたいなやつだった。エンリコさんはここに演奏しに来てて知り合ったんだって。ってか、エンリコさん、ミュージシャンだったの?ヒモっぽい見た目だから完全に無職だと思ってたわ。
「そうだ、あそこが舞台なんですよね?そこで生演奏して時々歌ったらどうですか?もともとBGMは欲しいと思ってたし、いいと思うんですけど。」
私の提案に少し驚いたキャサリンさんだったが、にっこり笑って頷いてくれた。
流しの音楽隊は結構いるみたいなのでそれも職安ギルドで募集をかけることにする。最初はエンリコさんの昔の仲間に声を掛けてもらえることになった。ゆくゆくは何組かを交代で雇いたい。そうすれば不測の事態にも対処できるだろうし、この店の人気が上がれば逆に演奏したいって人も増えるだろうしね。
エンリコさんも演奏したいと言ってきたのだが、会計の仕事があるからダメだと却下した。ちなみにギターだそうだ。他の人はボンゴやアコーディオンらしい。反対に貴族はバイオリンやフルート演奏なのだそうだ。それでもキャサリンさんが歌うときだけは絶対に譲れないというので代替え案を確認したら、その時は息子に会計を任せると言う。元々息子を黒服リーダーとして働かせるつもりだったみたい。乾きものやフルーツなどの盛り付け、バーテン、会計と一通りは出来るみたいだ。ホントかしら。
「身内贔屓なんじゃないですか?そんなにマルチにこなせるなら既にどこかに就職してますよね?」
「どうなんだろうな~、キャサリンは知ってる?多分働いてると思うけど、でも俺が酔いつぶれた時はたいてい助けに来て、全部やってくれるぜ。」
サムズアップして笑うな!
そして息子のことくらい把握しておけ!
「何で勤務中に酔っ払うんですか!」
「いや、暇すぎて、つい、、、。」
「キャサリンさん!こんなんでいいんですか?マジで倒産しますよ!それに息子さんの都合ってもんもあるでしょう?」
「僕は別ににいいんですが、、、。」
「ひゃぁぁぁ!!!」
不意に後ろから声がしたもんだから、めちゃくちゃ驚いてしまった。
恐る恐る振り返ってみる。そこには掃除用具を持ったオーバーオールの男性が立っていた。向こうもこちらを見て固まっている。一体いつからいたの?エンリコさんに白熱して話していたにしても私が気配に気付けなかったなんてある?手練れの刺客なんじゃないの?いつでも抜けるようにそっと手を刀に添えた。
「ジミー、終わったんなら掃除用具を片付けてきなさい。挨拶はそれからよ。」
キャサリンさんの顔見知りなのか普通に指示を出している。
その指示通り男性はホールの隅の掃除用具置き場へと歩いて行った。何か変な動きはしないかと目で追っているとキャサリンさんがため息を吐いた。
「ごめんなさいね、うちの息子、おとなしいのよ。」
えーーーー?!息子なんかい!
もうおとなしいを通り越して存在無くない?アサシンかと思うくらいよ。
戻って来た彼はぼそぼそと自己紹介を始めた。典型的なヲタク君ね。猫背だし、前髪は長いし、声は小さいし。名は体を表すって言うか、全体的に地味なのよね。ジミーなだけに。、、、、あー、笑えないわ。
黒服リーダーになるならハキハキしゃべって身なりもスッキリしないといけない。
まずはとにかく座らせて、前髪だけでも上げて小ざっぱりしないと!そう思い、持っていたヘアピンで前髪を留めることにする。こういった場合、たいていの漫画やアニメでは超がつくくらい男前が爆誕するのよね。ワクワクするわ!
ご両親と本人の了承を得て後ろから前髪に手をかける。さらさらとした感触がイケメンを彷彿とさせた。ふわりとした感じを持たせて毛先をねじって固定する。片方の耳に髪をかけて出来上がり!期待に胸を膨らませ、ジミーの前に立った。
「、、、、、、、、、、、、、、、、。」
まあ、なんだ?そんなこともあるよね~って感じ。
い、いいんじゃないかな。視界がクリアになるってことはこれからもっと、、、、もっと、ああ、言葉が続かない。つまりは地味男って事よ。もういいじゃん。
改めて地味男を迎えてナイト人材発掘という名の家族会議を始める。
まずは黒服。これはもう真面目で気が利いて仕事を効率よくできる人物がいいわね。愛想がいいのも付け足しておく。そしてホスト。第一にしゃべりが上手い。二番目に顔。三番目に誠実。どちらにも共通するんだけど、雇ったわすぐ辞めたわじゃ話にならない。その辺りを面接で見極めていかなければ意味が無い。うちの会社の人事にも言えることだわ。最近の新人は直ぐに辞めるか、会社を舐めてるかの二択だもの。この子いいわよっていうの聞いたことないし。だからゲームの中だけでも最高の人材を選別したいわけよ。うまくエンリコさんたちに伝わるかしら。他に色々とやることはあるんだけど今日くらいは頑張って付き合ってあげてもいいかもね。




