ごもっとも
ギャランさんご一行を【出入口】でラハナスト侯爵邸へお送りした後、私は黒モフを連れてギルドに戻った。
何故関係ない黒モフを連れ出したかというと、本人が暇そうにしていたのもあるけれど、私が癒しに飢えていたからでもある。あわよくば散歩がてら街の外に出て自然を満喫出来たらなと思ったからだ。だってもう私がいてもすることないでしょ?
❝何が”大丈夫だから”じゃ。好奇の目で見られるし、童がうるさくてかなわんではないか❞
❝ごめんって。でも“大きい猫ちゃん”って言われてちょっと嬉しそうだったじゃない❞
❝たわけ!❞
めっちゃ不機嫌になってる~。
そんな思い切り背中向けなくてもいいじゃない。そう言えば猫ってうるさいの嫌いだったわよね。まあ大人には怯えられるし、子供は騒ぐしで、散々だったものね。魔物と間違われて騎士団に職質されたし。一応“ペットです”で押し通したけど。でもここのギルド職員にはウケがよかった。だからこうしてギルドの片隅に座り込んでるんだけど、キヨラさんには絶対に獣人の始祖ってバレてるな。あの黒モフを見る冷たい目はそういう意味だと思うわ。
なんだかんだでギルドに着く前に遠くからラッパの音は聞こえていた。
掲示板に職安ギルド新設の記事が上がったのだろう。ああもうそんな時間なのかくらいにしか思ってなかったんだけど、ギルドに着くと意外にも人で溢れかえっているのには驚いた。こんなに人が見に来るなんて想定外。だって開店は明日なのよ。準備中のギルド見て何が面白いのよ。入れ代わり立ち代わり街の人や冒険者が入って来る。中にはいくつか質問をする人がいて、それの対応もあってラミレスさんたちは忙しそうにしていた。ここで“抜けてもいいっすか?”なんて言えない。なので端っこで体育座りして黒モフの足の肉球をぎゅーぎゅー握って様子を窺っているのである。
にぎにぎしながらぼーっとしていると、目の前に誰かが立ち塞がった。
「おい、何で手伝わないんだ?他の奴らは忙しそうにしているぞ。それにどうして獣人の始祖がここにいるんだ。」
顔を上げるとクラウンが偉そうに立っている。
黒モフに対して訝し気な視線を送っていた。また機嫌悪いんかい!その後ろではセレマが黒モフに釘付けになっている。もうこれは可愛さに魅了されている目だ。絶対に触りたいはず。やっぱりモフモフは種族を超えて愛されているのね。
「私が何かしたら逆に邪魔でしょ?黒モフと気分転換しようと思っただけよ。ってかさ、もう私必要ないと思わない?一緒に連れてってよ。」
お膳立てはした。
もう私はお役御免でいいんじゃないの?
「まだ営業してないだろ。軌道に乗るか見極めろって言ったよな?」
「わかってますー。聞いただけですー。」
そう言うだろうと思ってた。
エンリコさんの件もあるから、じゃあ来いって言われても困ったけどさ。だったら一体今日は何しに来たのよ。ちゃんとやってるか確認しに来たのかしら。
「なら、後は任せたぞ。これからここを発つからな。」
はあーーーーーーーーーーーーーー?
急すぎやしませんか?近いうちにとは言ってたけど、私が帰らなかった次の日に出発しますか?
「ちょ、今から発つの?」
「ああ、西の停留所でボルボたちを待たせてある。次の宿はカジカという名だ。そこそこ有名だから直ぐにわかると思う。じゃあな。」
クラウンは黒モフにデレついているセレマを促すと、素っ気なく立ち去ってしまった。
振り返るとか、手を振るとかないわけ?黒モフが呆然としている私に憐憫の眼差しを向けているのがわかる。
❝冷遇されとるのぉ。本当にあんな奴を好いとるのか?❞
❝ほっとけ!声がいいからいいんです!❞
❝まだカミルの方がマシじゃと思うがの❞
ごもっとも。




