王女と思い出のフルーツゼリー(依頼編)
今、僕は目の前の光景は夢なのではないかと現実逃避する程の事態になっている。
…え?どんな事態になってるかって?
それは…目の前に市場では見かけない果物、そしてこのヴェネタリアの第1王女が笑顔で僕を見てるんですよ!?
「…あの。王女様?」
「はい。何でしょうか?ヒカル様」
「この…恐らくですが果物…の山はいったい…?」
此処は輝が現在住んでいる国に建つヴェネタリア城…の中にあるヴェネタリア王国第1王女、アイリス・スピラ・ヴェネタリアの部屋。
レストラン月光の店主である輝は今日の朝7時に開店していないにも関わらずに突然やって来たラヴァンダに連れられ…今こうして自身の目の前に積まれた輝が食べた事の無いこの世界の独自の進化をした果物と思われる物の山を指差しながらアイリスに質問していた。
「はい。ヒカル様の仰る通り此方はこのヴェネタリアは勿論、同盟国であるドルリンやランパリスの森で採れる希少な果物。そして今日…この国の街に突如として現れたレストラン月光の主人であるヒカル様を此処へ連れてきた理由になります。改めて…最初からお話致します…」
「………ッ!」
どうやら輝の見立ては正しかったらしい。
輝の目の前にあるのは…この世界では希少価値の高い果物であると同時に目の前に積まれたこの果物の山こそが自身が王女に呼び出された理由である事が分かり、輝は口の中に溜まった唾を飲み込む程に緊張した。
だが、その緊張はアイリスの発言によって一気に霧散する事になる。
何故なら…
「単刀直入に言います。この果物を使って…フルーツゼリーを作って欲しいのです!」
「………へ?フ、フルーツ…ゼリー?(な…なんでこの王女様がフルーツゼリーを知ってるんだ?)」
アイリスの口から放たれたのは…罪状ではなく、料理の注文であったからだ。
原因不明とはいえ飛ばされた国の中で店を経営していた事で死刑になると思っていたのもあり、そうでないと分かった事で安堵すると同時にアイリスの発言を疑問に思った。
この異世界ではある物が手に入らない事もあってメニューには出していない筈なのに…何故アイリスがゼリーの存在を知っていたのか。
「…やはり…難しいでしょうか?」
「っ!(そんな顔で言われると断れないじゃないですか!…でも何か…何処かで会ったような…?)」
悲しげな表情で尋ねるアイリスの顔を見て輝は頬を赤らめると同時に、目の前にいるアイリスの顔に何処か既視感を覚える。
アイリスは異世界の人間である為に1度足りとも元いた世界では会う事が出来ない筈なのにも関わらずに…だ。
「あ。いえ…元の世か…故郷で何度も作った事があるので難しい事ではないのですが…ゼリーを作るのに肝心なある材料が僕の…あ、いえ…私の手元に無いので1度レストラン月光に戻らないと作る事が出来ないんです」
輝は作る事は可能であるが、ゼラチンが手元に無いので一旦戻らないとならないと言った。
その返事を聞いたアイリスは一瞬だけ目を見開いたが、すぐに平静になり…
「それはもしかして…ゼラチンですか?」
ゼリーを作るのに必要な材料…ゼラチンの名を口にしたのだ。
「っ!?は、はい!そうですが…。な、何故にゼラチンを知っているのですか?」
「…ふふ。私はこの国の王女なのですよ?この位の事は造作もありません♪」
「そ、そうですか…(す、凄いな…。この国の諜報員は…)」
輝はアイリスの答えに驚きつつも肯定すると、この世界にはまだ無い筈のゼラチンを何故知っているのかと質問した。
アイリスは含んだ笑みを浮かべ、自分はこのヴェネタリアの王女であるから1つの事を調査するのは造作もないと煙に巻く。
尚、輝はアイリスの発言を信じたのか冷や汗を垂らしていた。
「改めて聞きます。フルーツゼリーの注文…お願い出来ますか?」
「…分かりました。少々お待ちください」
「はい!お待ちしております」
輝は謎多き王女、アイリスの注文を受ける事にした。
「…という訳で…今日は臨時休業になったんだ」
「「そ、そうですか…(凄い人からの注文ですね!?)」」
時間は進み、現在昼の12時。
輝は大量の果物をパンドラの箱に詰め、レストラン月光に戻ってフルーツゼリーの調理に取り掛かっていた。
「それにしても…王女様からのご注文が凝った料理ではなくフルーツゼリーなのが疑問なんだよな…。今はゼラチンが確保出来ないからデザートはシャーベットかパンケーキ位しか出てないのに…」
輝は元の世界の物とは形は似ているが、皮の質感や大きさが異なるスターフルーツやドラゴンフルーツに似ている果物を見ながら呟く。
「フルーツゼリーって…。この前に食べたあの透明で柔らかくて美味しいお菓子ですか!?」
テイルスは輝の呟きが聞こえたのか、両目を輝かせながらゼリーは少し前に食べた物の事かと尋ねた。
「あ、あぁ…。まぁ、今回作る物に使う果物は缶詰じゃないんだけどね…」
「王女様にお出しする物ですからね…。缶詰のゼリーも美味しかったけど缶詰は保存食ですからね…」
「缶詰なんて使ったら父親である王様から死刑宣告受けますよ…。最悪の場合」
そんな会話をしながら輝は味を調べる為に果物の皮を剥き、果物の端を切って1口食べる。
輝が最初に食べたのはスターフルーツに似た果物…メテオフルーツ。
元の世界では薄味で果物というよりも野菜に近い為にサラダの彩りに使われていた物だが…
「…ッ!…美味しい。元の世界のスターフルーツよりも甘くてジューシーだ!」
どうやら…この世界ではとても美味なる果実であったらしい。
口に含むと最初に舌で感じたのは…マンゴーのような甘みだった。
切れ端のメテオフルーツを味わっていると…
「(そろそろ飲み込…ッ!?)こ、今度はキウイのような味に変わった!?流石は異世界の希少な果物…。味が変わる果物があってもおかしくないか」
飲み込もうと思った時にその変化は現れる。
マンゴーの甘みは次第にキウイのような酸味がかった甘みに変わる。
(温度によって味が変わるのか?いや、唾液に触れる事で味が変わるのかな?米は噛み続けると次第に甘みに変わるような感じで…)
輝はメテオフルーツの味が変化する原理を推測していると…更に味に変化が出る。
「次はメロン…それも赤身の…夕張メロンか?この世界に飛ばされる少し前に親友に貰って食べたから間違いない…。いったい何処で採れるんだろう…。調べたいけどスマホは何故か消えたし…こういう異世界物では鑑定!なーんてある訳無いか。だって僕は魔法の無い世界から来たんだし…」
キウイの次はメロン、それも夕張メロンの味に変化したのだ。
ここまで来ると流石に欲しくなったようで輝は漫画やアニメでよくあるように鑑定スキルを使おうとした。
勿論、出る訳は無いと思っていた事もあって指で頬をポリポリと掻いて苦笑いする輝だが…
「あはは…。『検索結果…メテオフルーツ』って本当に出た!?心做しかスマホの検索結果に似てるけどそれは置いといて…。えーと…メテオフルーツ?名前が星から隕石に変わったのか。成程、メテオならこの石のようにゴツゴツとした質感と感触な訳だ」
そんな輝の眼前にホログラムのような白くて四角い枠が現出する。
その枠の中には目の前にあるメテオフルーツの写真とその写真の下にはメテオフルーツの名前と説明と思われる文章が綴られていた。
「メテオフルーツの果肉は唾液により味の成分が変化して様々な果実の甘みになる。5回程味が変化し、最後はレモンのような酸味に終わる…か(元の世界だと味が変わる飴やガムはあったけどね…)」
「ご、5回も味が変化するんですね…」
輝はメテオフルーツを味わいながら、目の前の枠に綴られた情報を読んでいく。
一方でメテオフルーツの説明を聞いていたテイルスはこれまでに無い果物の特徴に丸くする。
食べると口の中で味が変化する…というのは輝の世界では駄菓子の飴やガムで何度か経験しているのだが今回の場合は異世界の果物…輝はテイルス以上に内心で驚いていた。
「採れる場所は決まって隕石が落ちた肥沃な土地…。その地点から半径5キロ圏内の樹養を吸い尽くして成長して5,6個の実しか成らない…結構えげつない植物だな…。しかも説明からするとコレは宇宙から飛来した植物の実って事になるぞ…。この果物の種を元の世界で育てたらどうなるだろうか…」
「「ソレ、絶対止めた方が良いんじゃないですか!?」」
「………流石に冗談だよ。食べた事はないけど朝鮮人参もこのメテオフルーツに似た育ち方するからね…。芽吹いたとしたらその後どうなるかは火を見るより明らかだよ」
輝は説明文を読みながらメロンからラズベリーの味に変わるメテオフルーツを味わい続け…レモンの味に変わった所で飲み込む。
そして切られて残っている実に入ってるかもしれない種を元の世界に帰る事が出来た時に植えたらどうなるかを呟くと…傍で聞いていたテイルスとリリィは即座に止める。
ある方法で元の世界に戻る手段が見つかった後、輝が考えた事をして朝鮮人参よりも尋常でない被害を齎した馬鹿な人間がいるのは…別の話だ。
「さて次は…コレはドラゴスケイルっていうのか…。確かに鱗っぽい皮だからそんな名前でも変じゃないか」
メテオフルーツの味見を済ませた輝は次にドラゴンフルーツに似た果物…ドラゴスケイルの味見に移行する。
「どれどれ…ドラゴンの幼体が成長に必要な栄養を補給する為に親のドラゴンが採ってくるのか…。火山地帯でしか育たない為に採取は困難…。こっちは元の世界で植えても火山に成る奇妙な木ってニュースに取り上げられるだけになりそうだな」
「「止めてくださいね!?」」
「いや…無理だよ。噴火する火山に近付くなんて普通は出来ないし…」
そんな感じで輝による未知なるフルーツの味見は進んでいった。
取り敢えずは味見と鑑定はしたけれど…殆どは生の状態だとゼリーに出来ない物が殆どだった。
缶詰のように一旦砂糖水で煮て酵素を減らしてゼリーにするのも良いけど…それだと砂糖の味も混ざって本来の味が出そうに無いかも…。
加熱すれば酵素は減るというし…今回は果物を蒸して、蒸した果物をゼリーに閉じ込めてみるかな?




