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女騎士と唐揚げ丼

今回のお客様は異世界での月光での初のお客様であり、現常連のラヴァンダさん。

今日は何か大手柄を立てたのか部下は勿論、周りの客にも奢っていた。

そんなラヴァンダさんには〆として食べているメニューがあるんですよね…。

「お前ら!今日はアタシの奢りだ!好きなだけ食って好きなだけ飲みやがれ!!」


「「「「「ゴチになるっす!ラヴァンダの姉御!!」」」」


「だが!明日は食った分働き、飲んだ分は鍛える事を条件だ!それが出来ねぇなら自腹だぁ!!」


「「「「「了解っす!姐さん!!」」」」」


「んじゃ改めて…乾杯(サルーテ)ッ!!」


「「「「「乾杯!!」」」」」


とある日のレストラン月光、今現在の時間は夜の8時…店内は殆ど満席状態で、その中の7割が同じ服装で統一されている人達が占めていた。

そしてその集団を統率しているのは…紫色の長髪を後ろで1本に束ねた顔立ちが良く、話し方や周りにいる男達からの慕われ様を見ればまさに姉御肌というような女性だった。


「今日は良い事あったのかな?ラヴァンダさん」


「なんでも…このヴェネタリアにこっそり入って来た指定危険物を密売しようとした人を捕まえたらしいんです」


「指定…危険物?密売…。僕の世界でいう麻薬みたいな物かな?(異世界アニメとかでも偶に麻薬のような物が出てくるけど…この世界も例外じゃないんだな…)」


男(騎士)達のリーダー的存在(第2騎士団団長)、ラヴァンダ・フルールの姿を見ながら、輝は今日は何か良い事でもあったのかと独り言を呟く。

そんな輝にテイルスはラヴァンダが上機嫌になっている理由を語り、輝は指定危険物という単語で自分達のいた世界でいう麻薬のような物なのかとテイルスに尋ねた。

内心は異世界にも麻薬は存在するのかと複雑な気持ちになっていたが。


「はい。1匹1房でも出没すると1週間も経たずにこの街を1つ滅ぼせる位の動物の卵や茸を持っていたそうで…」


「へぇ…。ん?ちょっ…待っ!?おまっ…何てモノ持ち込んでんだソイツ!?」


テイルスの言葉を聞いた輝は最初は興味無さそうに返事をしたが時間差で漸く事の重大さに気付いたらしく、パニックになった後にテイルスに大声でツッコミを入れた。


「そんなに驚きますか。でも…店主の住んでた所でもそんな物があるんでしたよね?」


「いや、流石にテイルスが言うようなヤバい物は無かったよ…。考えたくないけど…そんな物が仮に僕の世界に現れるような事があったらさ…多分、僕は生きてないと思う」


オーバー気味に驚く輝にテイルスは疑問符を浮かべながら、輝の世界にも似たような物はあった筈ではと尋ねた。

輝は首を横に振り、危険な物があるとはいえ国を滅ぼすレベルの物は無いと答えた。

そして同時にそんな物が仮にあったとしたら自分は生きてないかもしれないとも答えた。


「え?そ、そうなんですか…。ほっ…」


「?」


(…あぁ。もしかしたらヒカルさんと会えなくなった未来を想像したんですね…テイルスは)


輝の返事を聞いて、もし輝がいなかった場合…最悪の可用性が自分に降り掛かっていたかもしれない…そう思ったテイルスは輝に返事をした後にホッと胸を撫で下ろす。

何故そんな反応をするのかが分からず輝は首を傾げたが、テイルスの事情を知っていたリリィはテイルスが何で胸を撫で下ろしたのか…察したのである。


「ヒカル!アタシの席にはシーザーサラダ。トッピングにサンダーバードのサラダチキンを!他の奴らには…」


「俺の班はシュリンブの海鮮サラダ!」


「俺達はパターテサラダを4つ!」


「俺ん所には野菜スティック4人前!」


「という訳だ!頼むぜヒカル!!」


「「「かしこまりました!」」」


「アタシはビールを大ジョッキで頼む!」


「かしこまりました!店主、私はビールを注いできます!」


「了解!」


そんな中、ラヴァンダ率いる第2騎士団の凄まじい注文の波状攻撃を…時間を多少懸けるものの輝、テイルス、リリィの3人で何とか捌くのだった。






「あー!食った食ったぁ…。さてと、皆寝ちまったし…そろそろアタシも〆といきますか。おいヒカル!!」


それから2時間後…ラヴァンダ達の飲み会はラヴァンダ以外が寝落ちするという形で終わりを迎えようとしていた。

だが、ラヴァンダはまだ〆の料理を食べていない為に輝にある料理を作るように呼ぶ。


「はい。ご注文は?」


「分かってるだろ?アタシがこの店で至高のメニューと信じてやまない…唐揚げ丼を並盛で頼む!!」


「…かしこまりました。すぐにお作りします!」


唐揚げ丼。

これがラヴァンダが初めてレストラン月光で食べた…至高の一品といえる料理である。






「ふぅ…今日もいつものように老鶏の燻製肉をパンに挟んで食うと…ん?」


遡るは6ヶ月前。

ラヴァンダは朝の訓練を終え、昼の1時から仕事に入るまでの1時間の休憩時間を使い、馴染みのパン屋と肉屋へと足を進めていた。

だが、パン屋の近くに来たラヴァンダはある物を見て足を止めた。

そのある物というのは…


「………なんだこの家!?」


そう、今でこそラヴァンダの馴染みの店となっているレストラン月光である。

昨日まで更地であった筈の土地にまるで転移魔法を使ったかのように聳え立つ建物にラヴァンダは驚きを隠せなかった。


「あっ!ラヴァンダ!大変なんだ!」


「パン屋の旦那。いったい何があったんだ?この家?もそうだが…」


驚くラヴァンダに声を掛けたのは…今でこそ輝の店で使うパンを仕入れるビジネスパートナー的存在…パン屋の店主である。

ラヴァンダはすぐにパン屋の店主に詳しい話を聞いた。


「そ、それが1時間前の事なんだが…。突然転移魔法の魔法陣が此処…この更地に現れたと思ったら…」


「魔法陣からこの家が出てきたって事か…。はあぁ…今休憩時間だってのに…面倒事がやって来やがって…。第1団長に言えば夕方の休憩時間伸ばしてもらえるかな…」


パン屋の店主から話を聞いたラヴァンダは溜め息を吐いた後、両手を合わせてポキポキと音を立て愚痴を言いながらレストラン月光へと歩いていく。


「ちっ…鍵が掛かってる。仕方ねぇ…ぶっ壊すしか…」


ラヴァンダはドアノブに手を掛け、動かしながら引っ張ったり押したりしたもののガチャガチャという音しかしない為に強硬手段に出ようとした。

…そんな時だった。


「参った…まさか寝坊するなんて!「ぐえっ!?」…ん?今なんかぶつかった音がしたような?」


ドアが突然開き、ラヴァンダは顔面をドアに強くぶつけてしまう。

そしてドアの中からは…


「…あっ。…あの…誰です?貴方は」


「お、俺はパン屋の店主だ…。それよりも坊主、下。下…」


そう、レストラン月光の現店主である神月 輝が出てきたのだ。

輝は目の前にいるパン屋の店主に身分を尋ねると、パン屋の店主は即答した後に下を指差した。


「へ?下?下って…うわっ!?だ、大丈夫ですか?(す、凄い格好だな…臍出しの鎧にミニスカって…今日はコミケのある日だっけ?)」


輝はパン屋の店主の指差した方向に視線を向けると…そう、ドアに思い切り顔面を打って倒れているラヴァンダが映ったのだ。

すぐに音の原因を察して、介抱しようとした。

内心では凄い完成度の高いコスプレと思っていたり、今日はコミケのある日だったかと自問自答していたが。


「う、うぅ…。はっ!お前は誰だ!!」


ラヴァンダもこの程度で気絶する程ヤワじゃない為か、すぐに目を覚まして立ち上がり…輝を睨みながら尋問をする。


「ぼ、僕はこのレストラン月光で店主をしている神月 輝です!年齢は25歳です!はい!」


「レストラン?なんだそりゃ(アタシより2つ歳上…?てっきり10代後半かと思ったが…)」


輝はラヴァンダに殺気を込められた表情で尋問されているが、嘘偽りなく自身の身分を語った。

ラヴァンダはレストランという単語の意味が分かっていないようで、首を傾げつつも心では輝が自分よりも2つ歳上なのかと驚いていた。


「りょ、料金を対価に食事を提供する店です!」


「料理屋だと?」


輝の説明を聞いて、ラヴァンダは輝の返事を反芻するように言った。


「はい!本当は11時から開店する予定でしたが何故か体が動かなくて…。い、今から開店しますので…クレームだけはご勘弁を…」


「どうやら嘘をついてはいないのは確かだな。表情に一切の曇りが無いし…おまけにアンタの服装は少なくともアタシやパン屋の旦那も見た事は無いし…恐らく異国の者が何者かによって店ごと転移魔法で此処へ飛ばされた…って所か?」


輝は本来の開店時間である11時に店を開けなかった事を謝るが、ラヴァンダは冷静に分析をしながら独り言を呟くのだったが…


「へ?え?て、転移魔法って…?」


「なんだアンタ、魔法を知らないのか?」


輝はラヴァンダの話に出てきた転移魔法という単語に首を傾げる。

ラヴァンダも輝が魔法の概念を全く知らない事に疑問を抱いたので、魔法を本当に知らないのかと…輝に尋ねた。


「え?は、はい…。というか魔法って昔はあったらしいっていう概念ですよね?今では異世界系やファンタジー系の漫画とかアニメで出てくるような存ざ…い?(待って、今この女の人の後ろを通り過ぎて行った人…虎の耳と尻尾が生えてる!?)」


「「い、異世界?ファンタジー?」」


輝はラヴァンダの質問に正直に答えた。

魔法は昔はあったと記録されているが、今となっては異世界やファンタジーで出てくるような架空の存在であると言ったが、話している途中で目に入った女性に生えていた虎の耳や尻尾を見て、言葉に詰まる。

その一方で…ラヴァンダとパン屋の店主は輝の言った単語に疑問符を浮かべ、首を傾げる事しか出来なかった。


「………あの、すみません。つかぬ事を聞きたいのですが…」


「な、なんだ?」


輝は何かを悟ったらしく、真剣な表情でラヴァンダに1つの質問をする。

ラヴァンダは輝の態度の変化に動揺しつつも質問を聞く事にした。


「此処は…日本で合ってますよね?」


そう、今自分がいる場所は日本なのか…という輝にとっては当たり前の質問を。

だが返ってきた答えは…


「ニ、ニホン?そんな名前の国…聞いた事無いぜ?ついでにいうと此処はヴェネタリア…。街の周りは海に囲まれ、街の中には運河が流れているのが特徴の国だ!」


「………嘘ぉ…!」


輝が望んでいた答えではなかった。

そう、輝は自分の店ごと異世界へ転移してしまったのだ…。

幸いなのは、電気やガスで動く筈の機械や調理家電、調理用のコンロが問題なく使える事であるが…。


「ん?この音は…」


輝の近くからグルルルという猛獣の唸る音…ではなく、腹の虫がなる音が聞こえてきたのだ。

その音が鳴った原因は…ラヴァンダだった。


「あぁ。そういや昼休憩中だったな…ラヴァンダ」


「わ、悪ぃ…。取り敢えずパン屋の旦那、いつものを頼む」


パン屋の店主がラヴァンダの腹の虫が鳴った理由を察し、ラヴァンダは顔を真っ赤にしながらパン屋の店主からパンを買おうとした。


「待って。僕が何かご馳走するよ!原因は分からないけどこの街の人に迷惑かけたみたいだしそのお詫びって事で…」


だが、それに待ったをかけたのは輝だった。

輝がラヴァンダに食事を作ると言い出したのである。


「「マジで!?」」


「う、うん…まぁ、今すぐに作れるのは唐揚げくらいだけど…」


その言葉を聞いてラヴァンダとパン屋の店主は輝に本当かと確認した。

輝は若干引きながらも頷き、すぐに出せるのは唐揚げだと補足をする。


「カラアゲ?何かは分からねぇが…腹が膨れりゃ何でも良いか」


「ラヴァンダさんは質より量を優先するからなぁ!」


「あはは…それじゃ、中に入ってください」


それぞれ違う反応をするラヴァンダとパン屋の店主に輝は苦笑いを浮かべつつラヴァンダとパン屋の店主を店の中へと案内する。

思えば、これがレストラン月光の異世界での最初の客になるのだ。






「…おっと、いけね。6月前の事を思い出しちまったな…」


「ラヴァンダさんも同じ事を思ってたんですか?」


ラヴァンダは唐揚げ丼を楽しみにするあまりに輝と初めて出会った時の事を思い出していたのだ。

そんなラヴァンダに対して、輝も同じ事を考えていたのかと言いながら、蓋の被せられた丼を持ってやって来た。


「ッ!ヒカルが此処に来たって事は…」


「えぇ、出来ましたよ。ラヴァンダさんの〆のメニュー…唐揚げ丼!」


ラヴァンダは輝の存在に気付いて目を輝かせる。

そんなラヴァンダに対して輝はラヴァンダの目の前に丼を置いて、メニューの名前を言うと同時に被せられた蓋を取った。


「おぉ…!やっぱりこれを食わなきゃレストラン月光に来た意味が無い!!」


「そ、そこまでの存在なの?ラヴァンダさんにとっては…」


ラヴァンダの目の前に置かれた丼には…盛り付けられたライスにオルニオスライス(オニオンスライス)が敷かれ、その上にドーナツ状に1口大の唐揚げが6つ、中央に彩りと薬味を兼ねたホワイトラデッシュ(大根)のすりおろし、ホワイトラデッシュと同じく彩りと薬味を兼ねた刻んだグリンオルニオ(長葱)が乗っていた。


「さてと、唐揚げ丼が冷めない内に…いただきます!」


ラヴァンダは両手を合わせていただきますと言ってから唐揚げ丼を食べ始める。

最初に出会った時はこのいただきますという輝の作法に疑問を浮かべていたが、意味を聞いてから真似をするようになっただけでなく、箸も完璧に使いこなせるようになった。


(う、美味い…!唐揚げの肉にはガリークとジンシャーと醤油の味が付いていて噛むと肉汁と共に旨みが溢れてきやがる!!)


まず、ラヴァンダは唐揚げを1つ食べる。

嘗ては数回噛んで飲み込むのが常だったが、唐揚げを口にして以来…どんな食べ物でもよく噛んで飲み込むようになったのだ。


(しかしコレがサンダーバードの肉なんて信じられねぇぜ…。どんな方法であの痺れる肉をあの時食べた鶏肉と同じに出来るんだ…?)


ラヴァンダは今食べている唐揚げに使われている肉がサンダーバードという巨大な鳥型モンスターの肉であるのが信じられないという事と調理しても電気が多く残ってしまう肉をどうすれば食べても無害な物に出来るのかと疑問に思っていた。

尚、このラヴァンダの疑問に関しては簡単で…サンダーバードの生肉を濃いめの塩水に沈めて30秒程置けば良いだけの話である。

因みに電気抜きの際、肉についた塩分は水で洗い落とせば料理した際に塩味が濃すぎるというような事は無くなる。


(まぁ、今は飯に集中だ!)


ラヴァンダは考え事をするのを止め、目の前にある唐揚げ丼を食べる事に再び専念する。

流石は騎士団の中でも色気より食い気が多いと言われる騎士だ。


「っと!そろそろ味変するか!このポン酢をホワイトラデッシュのすりおろしにかけて…唐揚げとライスとオルスラと一緒に食うと…んんんんん!美味ぇ!!」


ラヴァンダはホワイトラデッシュのすりおろしに唐揚げ丼の傍に置かれていた小皿に入っていたポン酢をかけ…それを唐揚げとライスと共に口に運ぶ。

ラヴァンダはおろしポン酢と唐揚げの生み出す美味さに悶えるのだった。


「あ、そうだラヴァンダさん。新しい味付けを今考えててね…今度来た時に是非試食して欲しいんだ」


「マジで!?じゃあまた今度の昼休憩にソレ注文するから!」


唐揚げ丼に夢中になっているラヴァンダに輝は唐揚げ丼の新作を作っている事、次に来た時に試食してほしいという旨を伝えた。

その話を聞いたラヴァンダは目を輝かせながら輝に次に来た時に新作の唐揚げ丼を注文すると返事をする。


「因みに油淋鶏(ユーリンチー)、ドライプラムソース、グリンオルニオソルトソースの3種類を予定してるんだけど…」


「うっ…!どれも美味そう…。今唐揚げ丼を食ってるのに腹が空いてくるじゃねぇかぁ!!」


乗り気なラヴァンダに輝は3種類の唐揚げ丼を開発している事を伝えるが、ラヴァンダはそれを聞いて悩みに悩みながら目の前に出された唐揚げ丼を平らげるのだった。

お会計2ラチナと5ゴルドと9シルバです。

えぇと…3ラチナで支払いですね?

では、3ラチナお預かり致しまして…お返しが4ゴルドと1シルバです!

またのご来店、お待ちしておりますか…懐は大丈夫ですか?

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