子供舌な魔王とハンバーガー
今日の注目すべきお客様は…ローブを纏った方。
顔もあまり見えないけど…此処に来た以上はお客様である事には変わりないんだ!
いつも通りに接客しよう!
「此処がレストラン月光…か」
ヴェネタリアの街にある日突然現れた料理屋…レストラン月光、現れた当初は街の人間達は困惑し…衛兵は勿論、騎士達を呼ぶ程の事態にまで発展したが…今では街の人は勿論、噂を聞きつけたヴェネタリアの同盟国出身の冒険者達や亜人達も常連になる店となっている。
そんなレストラン月光の目の前に…ローブを纏った1人の男が立っていた。
「索敵!ふむ…この建物の中には数人の人族に2人の獣人族と1人の妖精族に4人のエルフ族…魔力も並の者ばかり…。まぁ、仮に正体がバレても余の力を見せつければ問題は無い」
男は目の前にあるレストラン月光に対して索敵を使い…中にいる者は何人か種族は何かを探ってから入った。
「いらっしゃいませ!お1人様ですか?」
「そんな事…見れば分かるだろう。余の後ろに誰かいるとでもいうのか?」
「も、申し訳ありません…!で、では空いている席へどうぞ!」
「分かれば良い。では好きな席へ座らせて貰うぞ…」
「は、はい…!お、お好きな席へどうぞ!」
男が店の中に入ると、近くにいたテイルスがいつものように接客を行う。
だが男はテイルスの質問を質問で返し、謝罪させるのであった。
「なんて無礼な給仕だ…。もし此処が余の城内であったら打首にしていたぞ…」
「ひっ!?(アレだけで打首って…いったいこの子どんな場所から来たんですか!?)」
男は窓際の席へ向かう過程でテイルスとすれ違う際に小さく呟き、その呟きをしっかりと聞いたテイルスを怯えさせるのであった。
「さて…。何を頼むか…」
「し、失礼します!こ、こここちらはサービスのお冷です!む、無料なので無くなったら気軽にお声がけください!」
「無料か…。ならば有難く受け取ろう」
席に座った男が何を頼もうか考えていた時、テイルスがサービスのお冷を持ってやってきた。
先程の男の台詞が効いているのか、声は震えて話し方はかなり動揺している。
この時に男の正体を知ったのならば…テイルスは確実にショック死するかもしれないが…。
「そ、それでは!ご注文がお決まりでしたらお呼びください!」
「…少し言い過ぎたか」
テイルスはそう言って、男の元を離れていく。
男もそんなテイルスを見て、言い過ぎたのかと反省するのであった。
「…改めて…何を頼もうか。いつもはサンダーバードやドレッドブルの丸焼きといった肉ばかりであるからな…」
男はメニューを開いて何を注文しようか悩むと同時に、自分が普段食べていた物を思い出していた。
この男は体が資本の仕事をしている故に体力を付ける為に肉ばかりを食べていた、なので今日は趣を変えて肉がメインではない料理もしくは肉が主張していない料理を頼もうと考えたのだ。
「シーモンのカルパッチョにカレーライスか…。カルパッチョは魚、カレーはライスだからな…パンだったら頼んでいたが…む?」
気になる料理は幾つか見つかったが、男の食べたい物ではないと躊躇うが…ページを何枚か捲った時、ある料理が男の目に付く。
「ハンバーガー…?」
その料理とは…ハンバーガーだった。
丸く焼いて横半分に切ったパンに肉または魚、野菜、ソースやチーズを乗せて挟んだだけという調理法はシンプルだが、男の所望する肉が主張していない料理だ。
おまけにサイドメニューにフライドパターテとチキンナゲットもあるのだが、それ等2つも合わせて注文すると好きなドリンクが1杯無料で付いてくるという財布に親切なセットもある。
それを知った男は…
「すまぬ!注文が決まった!」
「あ!はい!すぐに向かいます!」
近くで給仕の仕事をしていたリリィを呼んだ。
リリィもすぐに返事をした後、男の元へ飛んでやって来た。
「お待たせしました!ご注文をお伺いします!」
「この…ハンバーガーをフライドパターテとチキンナゲットのセットで1つ頼む!この3つを同時に頼むと無料で1杯出てくるというドリンクは…オラ…じゃない!クレーブジュースを氷抜きで」
やって来たリリィに男は料理の注文をした。
ハンバーガーセットに対してはスラスラと注文したが、サービスで付いてくるドリンクはオランジジュースを頼もうとしたが、途中で止めてクレーブジュースに変更する。
「かしこまりました!〔店主!ハンバーガーセットが1つ入りました!サービスのドリンクは氷なしのクレーブジュースです!〕」
「かしこまりました!すぐにお作り致します!」
〔給仕の妖精!テレパシーで店主に注文内容を伝えるか!なるほど、面白い事を考える…〕
「っ!では暫くお待ちください!(私のテレパシーを聞いた上に私に対してテレパシーを…?この子…人族じゃない?もしかして魔人族?)」
リリィはいつものように客に返事をしながらテレパシーで輝に料理の注文を教える。
輝はリリィのテレパシーによる料理の注文を承った旨の返事をする。
これが普段のリリィが接客する場合のパターンなのだが…男はテレパシーを使い、リリィだけに話しかける。
リリィも突然の事態に目を丸くするも、すぐに平静を装い料理が来るまで待つように言って男の元を飛び去るが…内心で男は人族ではなく妖精族と同じくテレパシーを普通に使う事の出来る魔人族の類なのではないかと疑念を抱くのだった。
(だけど今の所は敵意は無いみたい…。本当に料理を食べに来ただけだったりして)
リリィは魔人族と予想しているこの男に敵意が無い事を感じ取った後、目的は単に料理を食べに来ただけなのかと自身より弱い者を力で支配するという精神を持つ傾向が強い魔人族には有り得ないような目的を想像するのだった。
「お、お待たせ致しました!ハンバーガーセットとサービスのクレーブジュース…氷抜きです!」
「おぉ…!コレがハンバーガー!」
注文をしてから数分後…テイルスが料理を持って男の元へやって来た。
目の前に置かれた料理を見て、男は目を輝かせる。
「フライドパターテとチキンナゲットはこの小皿に入っているケチャップを付けてお召し上がりください!では失礼します!」
テイルスは調子を取り戻したのか先程までの怯えは無くなっており、男に対して料理の説明をいつも通りに済ませて去っていく。
「では…温かい内に食べるとしよう!はむっ!むぐむぐ…んぐっ。…おぉっ!?」
男はハンバーガーを手に取り、大きくかぶりついて食べた。
そして数回程咀嚼して飲み込むと…
「美味い!」
男はただ単に美味いと言い放った。
肉しか食べた事のない人生だった為なのか、今まで来た客の中ではある意味でシンプルな感想を述べる事しか出来なかった。
もしも野菜やパン等も食べていればもう少し何か言えたのだろうが。
「なんだこの美味さは!これはまさか…神が作った料理か!?」
(多分ですが貴方魔人族ですよね!?いや、この店はどんな種族でも危害を加えない限り受け入れますけど、神とか言って良いんですか!?)
男はハンバーガーを食べると思った事が自然と口から出てくるのだが…その反応を見ていたリリィは心でツッコミを入れる。
何を隠そう魔人族は基本的に神を悪の象徴、邪神を正義の象徴としていたからだ。
「んー!このクレーブジュースも美味い!余がいつも飲んでいたワインと色は同じな筈なのに味が全く違う!寧ろこちらの方が飲みやすい!」
男は次に口休めのつもりなのかクレーブジュースを3分の1程飲んで美味いと感想を述べた後、普段飲んでいるワインよりも飲みやすいと言った。
「このチキンナゲットも…このフライドパターテも…どれも美味い!こんな美味い物を作れる料理人が人族にいるとは!」
サイドメニューであるチキンナゲットとフライドパターテも食べる男はあまりの美味しさに感動に浸るが…
「お、おい…あの客って…!」
「ま、まさか…」
感動に浸っていた男の様子を見ていた周りの客はそれどころではなかった。
何故なら…
「?何があったんでしょ…う…?」
「ん?どうしたんだ?なんかホールが騒がしいよう…な…」
(あーあ…折角ローブのフードで隠してたっていうのに…このお客様は…)
なんと美味しさに感動するあまりに変身が解け…フードで覆っていた頭には山羊の角、背中からは黒く大きな蝙蝠の翼、臀部からは黒い龍の尻尾が生えていた。
そして、ローブはあちこちが男の体から生えてきた角や翼でボロボロになった事で…
「あっ…!もう全部食べてしまった…。まぁ手持ちは沢山あるからお代わりを…ん?なんか余への視線が多いような…?」
「お客様。纏っていたローブが角や翼でボロボロになって…その下に隠されていた本当の姿が皆に見られていますよ」
ローブは床に落ち…男の本当の姿がこの店にいる輝は勿論、他の客達の目に入ったのだ。
ハンバーガーを食べる男の本当の姿とは…銀髪のロングヘアー、目元に浮かぶ左右非対称の青い痣、黒と紫を基調とした悪魔が纏うに相応しい服装、頭にある2本の山羊の角、背中にある黒く大きな蝙蝠の翼、臀部にある黒い龍のような尻尾…そう、見るからに魔王というべき姿が。
「へ?………あっ!?しまった!ハンバーガーの美味さに感動してうっかり変身が解けてしまった!!いや、まだ大丈夫だ!魔人族である事はバレるかもしれないが余が魔王である事は決してバレては…」
自分が置かれている立場がやっと分かったのか、この男は自分の服装を見ながら慌てふためく。
口元にはケチャップと塩とセサミー、指先にはパターテに振られていた塩を付けたまま。
「いや、今バレたよ!?ってか、思いっきり口走ったからね!?」
リリィは普段のキャラをかなぐり捨てて、渾身のツッコミを魔王に入れ…
「「「「「アンタが魔王なのかよ!?」」」」」
他の客は自分達の目の前にいるのが、人族が長年恐れて止まない魔王であると分かって驚愕し…
「見るからにまだ10歳くらいの子供なのに!?」
テイルスは目の前にいる魔王の全身を見て、まだ子供じゃないかと言い放った。
「テイルス!ソレは思ってても言わないであげて!?絶対気にしてると思うし!」
輝は流石に可哀想だと思ったのか、リリィと同様に普段のキャラをかなぐり捨ててテイルスにツッコミを入れた。
「ぐはっ!?」
当の本人である魔王(仮)は口から血を吐いて後ろに倒れて気を失った。
「思った以上に大ダメージ!?血を吐いてるし!」
…どうやら相当身長や見た目に関しては触れられたくなかったらしい。
もし此処に勇者がいたとしたら何をおもったのだろうか…。
「う、うぅん…?はっ!此処は?」
「レストラン月光の中だよ。…まぁ正確には僕の部屋なんだけどね」
魔王(仮)が目を覚ますと…目に入ったのは知らない天井だった。
輝も傍にいたのか、魔王(仮)の疑問に答える。
「う…。余は確か…ハンバーガーを食べてあまりの美味さに感動していたら…此処に来る為に使っていた変身が解けて正体をあの場にいた皆に晒して…確か…あの中の誰かに1番気にしてる事を言われて…そこから先は覚えていない…」
「へ、へぇ…(身長の事、1番気にしてたんだな…そういや魔王が履いてたこの靴…よく見ると踵部分が上げ底に…まさかのシークレットシューズ!?)」
輝の言葉を聞いたのか、魔王(仮)は自分がどうしてこの場にいるのかを思い出すかのように呟いていく。
気絶する最大の原因となった発言をしたのがテイルスだった事以外を語っていく魔王(仮)に輝は顔を引き攣らせながら返事をした後、内心では身長が低い事を気にしていたのかとツッコミを入れると同時に、魔王が身長を高く見せる為にシークレットシューズ(5cm厚底)を履いていたという事実を知り、この世界にもシークレットシューズがあるのかという事に驚愕していた。
「…そういえば…自己紹介がまだだったな。余の名はソロモン・ディアヴォラス…魔人族の長…貴様ら人族には魔王と呼ばれる存在である」
「僕は神月 輝…このレストラン月光の店主だ。よろしく」
「わ、私はテイルス・フォクシア!狐の獣人族で給仕をしています!」
「同じく給仕のリリィ・ピュアリィ」
「お、おぉ…。そういえばヒカル。ハンバーガーの追加を頼めないか?余はアレがもう1つ食べたくてな…」
輝達の自己紹介を聞いた後、ソロモンはハンバーガーをお代わりしたかった事を思い出して輝にお代わりを頼めないかを尋ねた。
「ごめん。もう店仕舞いした後なんだ…。それに明日…いや、今日は新作メニューの開発をする為に昼と夕方に弁当だけの販売にするんだ…。だからハンバーガーを食べたいなら明後日に来てくれないかな?」
「うっ…。まぁ、こんな夜中に突然そんな事を頼まれても了承する事は無いとは思っていたが…仕方ないか。また明後日出直すとしよう…」
だが、輝の答えはNOだった。
しかも間の悪い事に明日は弁当のみの販売にするという事を聞いてソロモンは明後日に出直すと言って帰ろうとした。
「あぁ。その代わりといってはなんだけど…コレ、今日余った具材でサンドイッチを作ったんだ。持って帰って食べると言い。飲み物にはオランジとクレーブの缶ジュースが1本ずつ入ってる。」
輝はソロモンの行動を見越してなのか、今日の営業で余った具材を使ってサンドイッチを作っており、ソレを丁寧に詰めた箱とクレーブとオランジの缶ジュースの入った紙袋をらソロモンに差し出した。
「そ、そうか…!礼を言うぞヒカル。…ところで缶ジュースとは?」
ハンバーガーではなかったものの料理を手渡された事でソロモンは輝に礼を言ったが、缶ジュースというのが何なのか分からなかったらしく…輝に缶ジュースについて尋ねた。
「あぁ、ソレも今から教えるよ。缶ジュースというのは…ほら、こんな感じの金属の筒に入った物なんだが…」
輝は嫌な顔をする事も無く、自分が時折飲んでいた缶コーヒーをソロモンの目の前で見せ、説明しながら蓋を開けて缶コーヒーを飲み干すのだった。
「さて…!早く魔王城に帰ってこのサンドイッチを食べるとしよう!中身はいったい何だろうなぁ?余は楽しみだ♪」
その後、転移魔法を使って魔王城に帰ったソロモンは…余り物で作ったサンドイッチに舌鼓を打つのは勿論だが…弁当販売にもやって来て10人前の弁当を注文するのは…別の話である。
有名になるのは良いんだが…まさか魔王まで此処に来るとは思わなかったなぁ…。
まぁ、危害を加えない限りどんな客でも受け入れるけど…それより、僕の作った賄いサンドイッチ(照り焼きチキン、ローストビーフ、タマゴマヨネーズ、フィッシュフライ)…気に入ってくれると良いなぁ。
あ、一応ハンバーガーの代金はリリィが魔王の財布から丁度貰っておいたらしい。




