水人族と魚料理(フィッシュアンドチップス編)
海船丼は気に行ってくれたみたいだけど…あのスクアロという客はまだ満足していないみたいだな。
生以外の魚で美味しい料理といったら…アレくらいしかないけど…。
モデルになった料理を少し改造してるけど。
「美味しかったぁ…」
「アクエラの言う通り、この海船丼が美味かったのは認める。認めるが…俺としてはまだ食い足りねぇ…」
海船丼を平らげたアクエラは満足していたが、スクアロはまだ食べ足りないと呟く。
「その為に大盛りにしたけど…やっぱスクアロには足りなかったみたいだね」
アクエラはスクアロの食欲を知っていたからこそ具とシャリを大盛りで注文したが、それでもまだ足りなかったのかと悩む。
「………あのぉ…」
「「ん?」」
スクアロを満足させられる魚料理が何か無いか…アクエラが悩んでいた時だ。
テイルスが横から話に入り込んできたのだ。
「実は…刺身や海船丼以外でスクアロさんのようなお客様が満足できそうな魚料理が1つあるんですが…」
「何だと!?」
スクアロが満足できそうな料理があるという事を話したのだ。
それを聞いたスクアロは驚くが、当の本人であるテイルスは何処か不安そうな表情をしていた。
そんな表情になる理由はすぐに明かされる。
「あ、でも…スクアロさんの好きな生の魚ではないんですが…」
「それでも良い!さっきのダシチャヅケで生以外も美味いって事は分かったからな!勿論大盛りでだ!!」
そう、スクアロの好きな生魚を使った料理ではなかったからである。
給仕としての仕事をしている中でも獣人族である為に周りの話がしっかりと聞こえるので、スクアロが生魚が好きである事を把握していた為に不安そうな表情をしていたのだ。
だが、スクアロはそれでも構わないと言ったので…
「わ、分かりました!店主!フィッシュアンドチップスが大盛り入りました!!」
「はい!リリィ。タルタルソースとケチャップの用意をお願いします!」
「分かりました!」
スクアロの注文をテイルスは承り、厨房にいる輝へとその旨を伝える。
すぐに返事が来ると共に、輝と同じく厨房にいたリリィに何かを用意するように頼んでいた。
輝の言葉を聞いたリリィはすぐに返事をする。
「では、少々お待ちください!」
「あぁ!」
テイルスもそう言ってから給仕の仕事をする為にスクアロの元を離れていった。
「フィッシュアンドチップス…フィッシュは魚って事は分かるが…チップスって何だ?」
「チップスってのは…パタートを三日月のように切った物を揚げた物なんだ。料理というよりは酒のツマミに入る方かな?今から出てくる料理は」
スクアロはフィッシュアンドチップスが来る迄の間、注文した料理はどんな物なのかとアクエラに尋ねた。
アクエラも1度食べた事があるのか、チップスという単語は何なのかを即答すると同時に単品で食べる料理というよりは酒と一緒に食べるのが相応しい料理であるという事も伝える。
「酒っていうと…麦の味がするとか水で薄めないと飲めないって噂のアレか?」
「いや。この街で出回ってるのはそうだけど…この店では全く別物なんだよ♪尤も、今日はお酒は提供してない日だけどね」
酒という概念を知っているのか、スクアロは顎に手を当てて考えるような素振りをしながらアクエラに確認を取る。
アクエラはスクアロの質問の半分を肯定し、半分は否定した。
「ほぅ?じゃあ何時になったら出てくるんだ?その酒とやらは」
「次に出てくるのは…あぁ、3日後だね」
「3日後…(その日は非番だし…魚を土産に此処に行ってみるか?)」
アクエラの話を聞いて興味が湧いたのか酒が出せる日は何時なのかとスクアロは尋ね、アクエラはメニューの傍にあった立て札のような物を見て3日後だと伝えた。
酒が出るのは3日後という事実を聞いたスクアロはその日は漁師の仕事は非番なので、新鮮な魚を土産にこの月光を訪れようかと考えていた。
(スクアロのあの顔…今度行ってみようかなって顔してる…。まぁ、ボクもその日は歌姫の仕事は休みだし…また此処へ来るつもりだよ♪海船丼に合うお酒があると良いんだけど…)
アクエラはスクアロの考えを見抜いており、心の中で自分も3日後に月光へ酒と海船丼を味わう為に訪れようと考えていた。
「お待たせしました。フィッシュアンドチップスです」
話をしている内に料理が出来たのか、輝がアクエラとスクアロの席へとやって来たのだ。
手には料理の乗ったトレーを持って。
「これが…フィッシュアンドチップス…!」
スクアロの目の前に置かれたのは…輝の人差し指、中指、薬指の3本を纏めた大きさのフィッシュフライが6本と傍にはパタートを櫛切りにして揚げたフライドパタートが山盛りの状態で皿に乗っていた。
「それと此方はサービスです。本日は酒を提供しておりませんが…この料理はビールやコーラのような炭酸…シュワシュワの飲み物と相性が良いので」
輝はフィッシュアンドチップスに興味を示しているスクアロの傍に氷と黒く泡の溢れる飲み物が入ったグラスを置く。
海船丼の時に左手で匙を取るのを見ていたのか、左手でフィッシュアンドチップスを食べると想定し…右手側にだ。
「それと…こちらはタルタルソースとケチャップです。魚のフライにはタルタルソースが、フライドポテ…パタートにはケチャップが良く合いますよ。それでは!」
「ほぅ…。んじゃまずはこの魚から…」
輝は説明をしながらタルタルソースの入った小皿とケチャップの入った小皿をフィッシュアンドチップスの乗った皿の前に置いて、その場を去る。
そしてスクアロは真っ先に魚のフライを手で掴み…そのまま口へと運んだ。
「ふむ…おっ!?この風味は…スノーフィッシュか!」
スクアロが最初に食べたのはスノーフィッシュのフライだ。
口に入れて噛んだ途端、雪のように身が溶けていくと同時に淡白な味が口いっぱいに広がる。
「ん?そういや揚げ物にはこの黒く泡の出ているコーラ…とかいうのが合うってあの餓鬼は言ってたな…んっ…」
スクアロは右手側にあったコーラのグラスを見て輝の言葉を思い出し、グラスを取ってコーラを1口飲む。
「っ!このコーラって飲み物…甘さの中にレモーネのような風味と口中で弾けるような感覚が堪らねぇ!!」
コーラの甘味、そして風味付けにレモーネの果肉を搾った事で油で満たされた口の中を洗い流してくれるのだ。
「あはは…。油物はお腹はそうだけど口の中も油っぽくなるからね…」
アクエラはかつての経験から、苦笑いを浮かべてフィッシュアンドチップスのような揚げ物の欠点を語る。
「あぁ。だがコーラはそんな油っぽくなった口中を元に戻す…。いったい何処で売ってるんだ?このコーラって飲み物は…」
だがスクアロはそんなアクエラの苦言を一笑に付すかのようにコーラの入ったグラスを掲げて満足気に笑う。
この3日後、ビールと一緒にフィッシュアンドチップスを食べる際も似たような事を言うが…それはまた別の話だ。
「んじゃ次は…真ん中のフライだ…!」
スクアロは次に真ん中の色が違う魚のフライに手を伸ばす。
「次は…これはシーモンか!さっき食った海船丼ともダシチャヅケとも違う食感と風味が最高だな!」
塩胡椒で軽く味を付け、油で揚げられたシーモンはスクアロの口にあったようだ。
スノーフィッシュとは異なり、噛めば噛む程にシーモンの風味が染み出てくる事で飲み込むタイミングを見失ってしまう。
「んでもってこのコーラで流し込む…くあぁー!犯罪的だ!!」
再びグラスを手に取り、コーラを半分程飲む。
そして…歓喜の声が再びスクアロの口から放たれた。
「は、犯罪的って…(しっかしスクアロ…。目の前に置いてあるタルタルソースに気付いてないの?)」
上機嫌になるスクアロに対してアクエラは苦笑いでツッコミを入れつつ、タルタルソースの存在に気付いてないのかと心配になる。
このタルタルソースこそ、魚の揚げ物の真骨頂であるのだから。
「この調子だと…右端の物も違う魚だろうな…いったい何の魚か…なっ!」
スクアロは期待を込めて右端の魚のフライを手に取り、迷いなく口に入れた。
「この魚は…スノーフィッシュ?いや、断面の見た目は似ているが違う…」
「レイヴンプレースだよ。そのフライに使われてるのは」
「レイヴンプレース!?あのデカいだけで味の薄いあの雑魚か!?」
「そうだよ。ボクも最初に聞いた時はビックリしたんだよ?あの雑魚がこんなに美味しいフライになるもんだから…」
レイヴンプレース…輝が元の世界でレストランをしていた時に使っていたカラスガレイにそっくりな魚で、この世界では水人族は生で食べていたから難無く捕れやすいものの薄味で美味しいとは思われていなかった魚であった。
そんな雑魚を輝は手間暇をかける事で美味しい料理に仕上げたのだ。
「さて…ん?そういやタルタルソースとやらを付けるのを忘れてたな…。魚のフライには合うと言っていたが…」
スクアロはタルタルソースの存在に今気付いたのかもう1つ残っていたスノーフィッシュのフライを手に取り、タルタルソースを付けてから口に運ぶ。
「………んっ!?こ、これは…!」
(ふふ、引き込まれたか…!タルタルの海に…)
タルタルソースを付けたスノーフィッシュのフライを齧ったスクアロの反応を見て、アクエラは生暖かい目でスクアロを見つめる。
実はこのアクエラもタルタルの海に引き込まれて…否、沈んでいた。
海船丼で満腹にならない時は、タルタルソースを使う魚のフライを少なめで頼む程に。
「このタルタルソースという物は悪魔のソースか!?この白く美しい見た目からは想像もつかない程の美味さだ…!」
「マヨネーズっていう卵をたっぷり使った調味料にヴィネガー漬けのオルニオの微塵切りとか、茹でた卵の微塵切りなんかを混ぜ込んであるんだって。他にも色々あるみたいだけど…忘れちゃった♪」
タルタルソースと魚のフライは小指と小指が赤い糸で結ばれているかのように相性が抜群だった。
油で揚げた魚の味をタルタルソースが引き立て、揚げ物で膨れる筈の腹を食べれば食べる程に空かせていく。
「なんでもまだまだ先の話になるらしいけど…オスティアーのフライにもこのタルタルソースが合うらしいよ♪年中食べられる物だと…シュリンブフライとこのフィッシュアンドチップス…後はチキンナンバンっていう肉料理とか…とにかく万能なソースなんだって」
「流石は悪魔のソース…。魚だけではなく肉にも合うとは…恐るべしだな人族は…」
アクエラの話を聞いたスクアロは、タルタルソースの凄さを改めて実感すると同時に人族はある意味で恐ろしい種族だと勘違いをするのであった。
尚、付け合わせのフライドパタートもしっかり完食する。
「「「ありがとうございました!」」」
(…よし。3日後も此処へ来るとするか…!アクエラですら手に入れられないような魚を手土産にして…!)
輝とテイルスとリリィに見送られる中、スクアロは3日後もこの月光を訪れると誓った。
そして、ビールとフィッシュアンドチップスの凶悪な組み合わせにより、多少金を払う程に食べて飲んでしまう事になったのは言うまでもない。
勿論、スクアロとは別の時間帯に1人で月光に来たアクエラも同じ轍を踏むのだが…。
ありがとうございました。
あれ?アクエラさん何か忘れてるみたいだな…。
ゼリーのような形を持った柔らかい水って事は僕に渡す為に持ってきた魚かな?
でもこの姿って…色は真っ白だけどフグか!?
この世界にもフグが…ってうわっ!手を触れたら紫色になって動かなくなった…!?
もしかして僕のいた世界と同じように毒を持ってて今死んだって事か…?
…これ、フグの免許持ってる人でも無理ゲーじゃないか?




