レストラン月光の閉店後(酒騒動?)
今日も今日とてレストラン月光は大繁盛。
お客様が沢山来るのは良いんだが…懸念している問題があってね…どうしようか?
久々に臨時休業にしてその問題について考えるかな?
「今日も美味だった…。いつものように代金は此処に置いておく。…それではな」
「「「またのご来店、お待ちしております!」」」
とある日のレストラン月光。
今現在の時間は夜の10時45分、この店のラストオーダーである夜10時半を少し過ぎた時である。
本日最後の客が自分が使っていた席のテーブルの上に代金を置いて店を後にした。
店主である20代の男、神月 輝と給仕である獣人族の少女、テイルス・フォクシアと妖精族の少女、リリィ・ピュアリィが3人揃って客を見送る。
「…さて、お客様は全員帰ったし…。僕は表の看板を回収してくるよ。店内の掃除はテイルスに売上計算はリリィに任せる。看板を回収したら僕は食器洗いをするから」
「「はい!任せてください♪」」
輝はテイルスとリリィに店内での作業を任せ、玄関に立てかけている看板を回収する為に外へ出る。
外へ出た輝を見届けたテイルスとリリィはすぐに仕事に取り掛かる。
「…1ゴルドに8シルバ…。うん、これといった過不足もありません♪」
「それにしても…何時もこの時間帯に来てビーフステーキと赤ワインを注文するあのお爺さんって、いったい何者なんでしょうか?」
「さぁ?服装から察すると貴族の人だとは思うけど…表には見張りの人もいなかったし…本当に謎ですね…」
「…まぁ、考えてても掃除が終わるわけないですし、お掃除が終わった後にお部屋でゆっくり考えましょう♪」
「ふふ、そうね。シャスミー茶とクッキーをお供に女子会の議題にしましょう」
テイルスとリリィは各々に課せられた仕事をしながら先程見送った老人の正体について話していたが、今考えても仕方ないと割り切り仕事を再開する。
「お待たせ。さて…看板は此処に置いて…。よし、溜まった食器洗いと新メニューの開発の為に必要な材料の選別をするか」
看板を入口の扉付近に立て掛けた輝はこの後にする作業を呟いて厨房へと戻っていく。
これがレストラン月光の閉店後の作業である。
「店主、これで洗う食器は全部になります!」
テイルスは水の張ったシンクに洗う予定の食器を割れないように入れてから輝に報告をする。
「ありがとうテイルスにリリィ!あ、それと…ホールの清掃を終わらせたら一足先に寝てて良いよ!明日は臨時休業にして街の市場で珍しい食材が無いかを見てくるから!」
「「は、はい!(明日は臨時休業ですか…。それなら今日は朝まで女子会が出来ますね♪)」」
テイルスの言葉を聞いた輝は自分達の作業が終わったら就寝してて良いという旨の返事をしてから食器洗いを始めた。
スポンジと洗剤で汚れをある程度落としてから、神の力か魔力なのかは不明だが何らかの力によって動く事が出来る食洗機に洗った食器を入れて、汚れが無いように徹底的に洗浄していく。
「…しかしどうやって動いてるんだろ?この世界にはまだ電気やガスを商品として扱う人間は居ないはずなのに…」
輝は誰1人としていない厨房の中で、誰も答える事の出来ない疑問を呟くのであった。
「ふぅ…店主、ホールの掃除終わりました!」
「こっちも計算が終わりました♪本日の売上は75ゴルドに8シルバに2ブロンです!」
「お疲れ様…僕の方も終わったよ。予想はしてたけど今日は昨日よりも多かったね。やっぱり1週間の中で唯一お酒を提供してる日だからかな?」
各々の仕事に取り掛かってから30分後…。
輝とテイルスとリリィは、ほぼ同時に仕事が終わったと報告する。
それと同時に輝は今日の売上は昨日より多かった事、そしてそうなった原因は酒なのではないかと呟く。
「そうだと思いますよ!7日に1日の中でこの日だけ他と比べて売上が段違いですから…その証拠にさっきのお爺さんもそうですが…殆どの常連さんは料理と共にビールやワインを注文してます」
テイルスも同じ事を思ったらしく、最後の客や常連である客達の殆どが料理と共に酒を注文していたと言った。
「やっぱりかな?まぁこの世界のビール…いや、エールを麦を茹でて搾ったのかっていう位麦の味がするし…ワインは渋味が強過ぎて水で薄めないとまともに飲めなかったもんな…」
輝はテイルスの言葉を肯定すると同時に、輝が今いるこの世界の酒類は自分の口に合わなかった事を苦虫を噛み潰したような表情で語る。
それ程に不味かったのだろう…顔が分かりやすく青ざめているのだから。
「あはは…それは私も同感です…。だって私が最初にヒカルさんがこの店で提供しているビールを飲んだ時…これがエールなの!?って思った位ですし…ワインも…」
「それは私も驚きました。水で薄めないでスっと飲めるワインなんて初めてだったもの…」
輝の言葉を聞いたテイルスとリリィはこの世界と輝のいた世界の酒を飲んだ時の感想を述べる。
どうやら…この世界の住人もこの世界の酒は不評らしい。
自分達で作ったのにも関わらずにだ。
「…よく異世界物の飯テロアニメで見た光景だなぁ…いや、僕が実際そうなってんだっけ。客じゃなくて料理を提供する側だけど…」
「「飯テロ?」」
「いや、こっちの話だ。気にしないで」
「「?」」
そんなテイルスとリリィの反応を見て、輝は複雑な表情をしながらそう呟く。
勿論、テイルスとリリィは輝の話が何の事か分からずに首を傾げるのだった。
だが…
「…このお酒が売上に貢献するのは嬉しいんだけどね…もうすぐ無くなるのが1番の懸念なんだよ」
「「………へ?」」
そんなテイルスとリリィを尻目に、輝は今最も懸念している問題を口走った為、この後に女子会をしようとしていたテイルスとリリィはそんな気分では無くなってしまった。
「「それ、どういう事ですか!?」」
「………それが…」
「「………寒っ!」」
輝はテイルスとリリィを酒類を保管している倉庫に案内する。
倉庫の中は12度と低い為に慣れていない2人は若干体を震わせた。
輝は慣れているのか特に反応はしていない。
「…これだけなんだ。今のお酒の在庫は…赤と白ワインがボトルで各10本ずつ…グラスで出す様のワインパックは赤が2パックに白が3パック…ビール樽は…10リットルタイプがあと5樽。多分見積もって1ヶ月持つかどうか…ってレベルだよ」
「この光景を見ると意外と多く見えますけど…」
「お酒好きのお客様は今の時点でいっぱいいるから…これからの事を考えるともっと早くなるかもしれませんね…」
倉庫の中に保管されている未開封の酒を見て、輝は顎に右手を当てて考えるような素振りを見せる。
数だけを見ると大丈夫そうに見えるが、客の反応を見ているテイルスとリリィは最悪の事態を想定する。
「………これがもし無くなったとしたら…」
「一気に客足が遠ざかり…」
「最終的には…店を畳む事になるかも」
テイルス、リリィ、輝の順でどうなるのかを語る。
輝の言葉を聞いた2人…特にテイルスの顔は一気に青ざめる。
「そうなるのは絶対に嫌です!だって此処は私が最も長く働ける仕事場なのに…それが…無くなるなんて…!」
「…だから明日は臨時休業にしたんだ。街の市場にいけばもしかしたらビールは無くてもワインは見つかるかもしれないって思ってね」
テイルスはこの店が潰れる事が絶対にあってはならないと涙目で訴える。
どうしてここまで必死になるのかという事情を知っている輝はそうならない為に明日は臨時休業にすると言ったのだ。
「え?でもヒカルさんの世界のお酒がどうやって市場に出回るって…あぁ、そういう事ですか」
「流石は僕のいた世界では狡が…んん!賢いと言われる動物の狐族。理解するのが早いね」
「へ?ど、どういう事ですか?」
テイルスは輝が市場に手がかりがあるのかと悩んだが、すぐに意図が分かった為にそういう事かと納得しながら返事をする。
輝はテイルスのモデルとなった動物から連想したのか狡賢いと言いかけ、良い子であるテイルスを悲しませないように賢いと言い換えて褒める。
一方でリリィは分かっていないらしく、どういう事かと輝とテイルスに尋ねた。
「ヒカルさんは何処から来たか知ってます?」
「え?何処からって…ヒカルさんは私達が住む世界とは別の世界から突然やって…あぁ!そういう事ね!!」
「そうです!料理人である輝さんと同じようにワインを作る人もこの世界に飛ばされてるんじゃないか…と、ヒカルさんは考えたんでしょう!」
「正解だよ♪だって星の数ほどいる人間の中で僕のような一般人が飛ばされたんだ。その中にはもしかしたら酒職人だって飛ばされてる可能性もあるんだ。だったら行ってみるしかないでしょ!」
輝のような一介のレストランの店主をこの世界を司る神様が勇者にする…といったような理由もなく、突然この異世界に飛ばされたのだ。
そんな人間がテイルスとリリィの目の前にいれば酒職人も同様の理由で飛ばされたかもしれないと考えるのはそう難しい事ではない。
「確かに良い考えかもしれないけど…もしいなかったらどうするの?」
「その時は…その時だよ。最悪、ワインだけでも密造とか…」
「ソ、ソレは絶対に駄目ですよ!ワインなら罰金程度で済みますが…密造したのがラガーだったら…最悪の場合は死刑になるんですよ!」
「流石に冗談だよ…。というか、酒税法に似た制度がこの世界にもあるんだな…」
リリィがもしも市場に輝の世界からやって来たワイン、若しくは輝のように異世界に飛ばされてから酒造りをしている人間が造ったワインが売ってなかったらどうするのかと、輝はその時はその時と言った後に冗談混じりでワインだけでも密造しようかと呟き、それを聞いたテイルスに咎められるのだが…
「………へぇ。もう少しで此処の美味い酒が無くなる…ねぇ?アタシが気に入ってる酒が飲めなくなるのは嫌だし、アタシが一肌脱ごうかしら?」
この会話をこのワインを盗みに来た常連である女盗賊が聞いていたとは…
「ん?………あれっ?」
(ッ!気付かれたっ!?流石アタシと同じ獣人族…!)
「どうした?」
「あ、いえ!何でも無いです!(気の所為だったのかな?今、聞き覚えのある声が聞こえたような…?)」
…夢にも思うまい。
とある物が料金代わりに輝に渡されるまでは。
…うーん、あぁは言ったものの…本当にどうしようか。
僕や先代の店主である父さんのレストランで使ってたワインやビールを作ってる人がやって来ないかとも考えたが…不謹慎過ぎるよなぁ…。
んっ!このテイルスの作った和風ザワークラウト…またの名をキャベツの浅漬け…結構美味い…。
浅漬けの素が無くなるまで限定メニューとして出してみようかな?




