レストラン月光、リニューアルです!
元の世界に戻れるようになってから酒類や調味料の仕入れを済ませたけど…パンゲアでは中々求人に来る人がいない…。
3人だけでは回せそうにないし、駄目元だけどあの2人の元を訪れてみようかな?
「テイルス!このカシスオランジと生チョコをお代わり!」
「かしこまりました!すぐにお持ち致しますね!」
「リリィ!ボクにはブルーラグーンを1杯!」
「俺はモスコミュールを頼む!」
「か、かしこまりました!」
輝がレパーディからハンバーグの代金の代わりとして貰った魔鍵を使い…元の世界に帰還した日から1週間が経ったレストラン月光。
その日から4日間は普通に営業をしていたレストラン月光は突然、店内営業も弁当販売も無い状態で3日間も休業したと思ったら…通常通りの営業に戻ったのだ。
…否、正確には幾つか品目が増えた上に酒類を提供する日時の制限が無くなったのである。
その為に普段よりも多い客が更に増えており、ホールはてんてこ舞いだ。
勿論、輝も対策をしていない訳じゃない。
「春香ちゃん!小春ちゃん!カクテルとデザートの用意をお願いします!」
「「はい!任せてください!」」
そう、輝は対策として元の世界で雇っていたアルバイトの内2人…桜庭 春香とその妹である小春をこの世界で経営するレストラン月光に連れて来ていたのだ。
勿論その2人に払う給料は…輝の世界の金である。
え?どうやってその金を工面したかだと?
それは簡単…輝が今の店を構えている世界…パンゲア大陸ではルビーやサファイアといった宝石は基本的に装飾品程度の存在でしかなく魔晶石と呼ばれる石よりも遥かに価値が低い上に洞窟の中といった危険の少ない場所で簡単に手に入る上に質も高い。
洞窟で手に入れた宝石を輝の世界に持ち込み、明雄の知り合いである宝石コレクターに言い値で買い取って貰った金(例:2カラットのダイヤ1つ…10万から20万程度)を給料に充てていたのだ。
ある意味では反則的過ぎる稼ぎ方なのだが輝自身が私腹を肥やすような使い方はしないのでパンゲアの神も目を瞑っているのだろうか。
「テイルスちゃん!まずカシスオレ…じゃなかった!オランジと生チョコの用意が出来ました!」
「リリィちゃん!私の方もブルーラグーンとモスコミュールの用意が出来ました!」
「「あ、ありがとうございます!」」
春香と小春は動じる事もなくテキパキとカクテルやツマミを用意し、待っていたテイルスとリリィに渡していく。
「それにしても…獣人や妖精は勿論だけど…ドワーフや魔人に人魚や魚人…ありとあらゆる種族を相手に輝さんは相手にしていたんですね…」
「お姉ちゃんの言う通りね。しかも極めつけはこの国の王女様と婚約までしてるなんて…聞いた時は吃驚したよね!」
今はすっかり従業員であるテイルスとリリィは勿論…アクエラやソロモンといった異形の客にも慣れたものの、初めて顔合わせをした2日前の時は春香も小春もかなり動揺していたのは秘密にしておこう。
「「「「おーい嬢ちゃん!ビールを大ジョッキでお代わりじゃ!!」」」」
「「はい!すぐにご用意します!」」
春香と小春はドワーフ達の注文に笑顔で対応し、速急にビールを注ぐのだった。
「しかし…輝さんがいなくなってからやむ無く始めたバーのバイトがこんな形で役に立つなんてね♪」
「それは確かに言えてるよね。小春」
さて、この春香と小春がどうして此処で再び働くに至ったのかを語る事にしよう。
「「あ。いらっしゃいませ!お1人様で…す…か…?」」
「…6ヶ月ぶりだね。春香ちゃんに小春ちゃん」
「「ひ、輝さん!?」」
遡るは2日前の夜9時。
輝は明雄から情報を聞いて元の世界でバイト経験が長かった2人…そう、春香と小春の元を訪れていた。
最初は基本通りに接客をしようとしたのだが、客としてやって来た輝の顔を見た事で動揺してしまう。
「はい。レストラン月光3代目店主…神月 輝その人です」
「「………ほ、本物です…。い、いっだい何処に行っでだんでずがあぁぁぁぁぁ!!」」
輝は目深に被っていた帽子を取ると自らの素性を明かす。
その素顔を見た春香と小春は本物の輝だと判断するや否や目から大粒の涙を流して輝に抱き着いたのだ。
「は、春香ちゃんに小春ちゃん!?そ、そのお客様とは知り合いなの?」
「あ、それは僕が答えます…。何しろこの2人が前に働いていたお店の店長だったので…」
「え?…って事は貴方が春香ちゃんと小春ちゃんが言っていた輝さんなの!?」
「は、はい…(春香ちゃんに小春ちゃん…。いったいこの人にどんな話をしたんだろう?)」
春香と小春の行動を見ていたバーの店長は驚いた後に輝を知っているのかと尋ねる。
泣いている為に春香と小春は話せそうに無いと思ったのか輝が代わりに返事をしたものの春香と小春から話を聞いていたのか輝という人間へと辿り着いたのだ。
「お待たせしました。照葉樹林です」
「………美味しい」
「っ!ありがとうございます!」
「こ、こちらはサービスです!」
「オールデイズチョコ!お酒のツマミになるから時折買ってたっけ。…っ!6ヶ月もこっちのお菓子を食べてなかったから妙に美味しく感じるな…!」
春香と小春との感動(?)の再会の後…輝はお酒を飲みたいと思ったのか、このままバーで飲む事にした。
勿論、3000円で2時間アルコールとソフトドリンクが飲み放題となるサービスで。
ちなみにこの時テイルスとリリィは明雄の喫茶店にコーヒーを飲みに来ていたりする。
しかも…輝の親友である翔も交えて。
「「?…こっち?」」
「あぁ。此処で話すのも何だし…此処のバイトが終わってから2人とも店に来て欲しいんだ。もし再び働きたいって思うのなら」
「「っ!その話…聞こうと思います!」」
(ふふ。あの子達…本当にあのお客様の事が好きなのね♪でも…左手の薬指に嵌っているのは…)
輝はパンゲアでの事を暈してはいるが口走った事で春香と小春は違和感を覚えたので輝は注文したカクテルを1口飲んでから今日このバーにやって来た理由を話していく。
春香と小春は輝の言葉を聞いた瞬間に両目を開いてすぐに返事をした。
そんな春香と小春をバーの店長は微笑ましい顔で見つめた後に輝の左手付近を見た事で悲しげな表情になる。
「次は…ん?…ディアボロをお願いします」
「かしこまりました!」
こんな感じで2時間も強い酒、弱い酒、時折チェイサーを飲んで過ごすのであった。
…これが以前におでんの屋台で火酒を飲んで気を失った男のやる事か?
否、あの火酒は度数が90度近くもあったから無理もないか。
「テイルス。ただいま(リリィはもう寝ているみたいだね…)」
「あ、輝さん!おかえりなさい♪…って…凄い量を飲んだんですか?この間スピリタス…という物に近い火酒を飲んで倒れたと言うのに…」
「ア、アレは別次元でしょ…。まさかあんな強いのをテイルスの世界の酒職人が作っていたなんて普通思わないし…」
2時間後…飲み放題を充分に楽しんだ輝は丁度バイトを終えた春香と小春を連れて、タクシーでレストラン月光へ帰る。
輝が帰ってくるのを待っていたテイルスはドアを開けて店の中に入ってきた輝に挨拶をすると同時に鼻に来た匂いから酒をかなり飲んできたのかとジト目でおでんの屋台を初めて開いた日の事を言及した。
輝自身はその時の事を黒歴史と思っているのか、目を逸らしながら言い訳をするのだった。
「ん?…輝さんとも酒の匂いとも違う人間の匂いが2つ…。輝さんの後ろに誰かいるんですか?」
「っ!流石は犬と同じ仲間である狐の特徴を持つ獣人族故に鼻は効くんだね…正解だよ。もしかしたら一緒に働く事になるかもしれない2人の新人…いや、働いていた時間からするとテイルスとリリィの先輩に当たる存在…かな?」
輝の言い訳わジト目で聞いていたテイルスだが…ドア越しに人の匂いを感じ取った事で首を傾げながら輝に尋ねた。
テイルスの言葉に輝は目を見開き獣人族という存在に感服しつつも春香と小春の事を暈して話す。
「?」
「入ってきて。春香ちゃんに小春ちゃん」
「「し、失礼します! ………って、貴女は誰ですか!?」」
頭に疑問符を浮かべるテイルスを尻目に輝は外で待っている春香と小春に入ってきてと大きな声で言う。
すぐに春香と小春の返事が来てドアが開き、テイルスの目の前に並び立った。
勿論、この月光の店主である輝を含めて自分達3人だけの空間と思っていた春香と小春は目の前にいるテイルスは誰なのかと尋ねる。
「私ですか?私はテイルス・フォクシアです!今はこのレストラン月光で働かせてもらっています!(もしかして輝さんがパンゲアに来る前に働いていた人達でしょうか?私達の先輩って事は…)」
「「そ、そうなんですか…(輝さんが行方不明になってた6ヶ月の間、1度もこのレストラン月光に電気が付いた事は無かった筈…。というか頭に狐の耳、お尻には狐の尻尾…室内でコスプレ?)」」
テイルスは春香と小春の質問に丁寧に答え、春香と小春はテイルスの堂々とした返事に若干引き気味だった。
何しろ…春香と小春の目にはテイルスは室内で狐のコスプレをしていると思っているから。
「今、春香ちゃんと小春ちゃんが思っている事…当ててみるよ。テイルスはコスプレをしてる訳じゃ無くて…「きゅうっ!?」見ての通り、この子の耳や尻尾は自前なんだ」
「「………えっ?」」
輝は春香と小春の考えている事を読み取ったのかテイルスの耳と尻尾を撫でながら答える。
って…何故にテイルスの弱点を撫でたんだ…。
「ヒ、ヒカルさん!急に耳と尻尾を撫でないでください!擽ったいんですから!」
「ごめんごめん。今度の賄いきつね蕎麦と稲荷寿司出すから許してくれない?」
「………蕎麦はお揚げ3枚で」
「了解」
((この子、凄くチョロいですね!?))
突然の行動にテイルスは耳と尻尾を手で隠した体制で見るからに怒ってますと言いたげな表情で輝に抗議をする。
輝は右手で頭を掻きながら謝りつつ、今度の賄いはテイルスの好物を出すから許してほしいと言う。
テイルスは蕎麦のお揚げを3枚にするなら許すと精一杯の抵抗(?)をし、輝はそれを了承。
そのやり取りを見ていた春香と小春はテイルスをチョロいと思っていたが。
「成程。輝さんはどういう訳かテイルスちゃんの住んでいた世界…パンゲアという大陸へ飛ばされ、そこでレストラン月光を続けていたんですね…」
「…だとしても電気が点かないのは妙な気がしますが…」
「そうなんだ…。まぁ、そんな事は今どうでも良いさ」
「「「どうでも良いんですね…」」」
この世界の人間である春香と小春がパンゲアの人間であるテイルスと顔合わせをして1時間後…輝が行方不明となっていた間の出来事を話した上でパンゲアで営業している時に働いてみないかと話を持ちかけたのである。
「今は僕とテイルスと…ぐっすり寝ている妖精族のリリィの3人だけだから結構忙しくてね。昨日は旭と実に話をつけて酒を卸してもらうように頼んだから…次に店を開く時は凄く忙しくなると思うんだ」
「私もそう思います。今までは7日に1度…土の日だけお酒を提供していたから毎日飲めるようになるって聞いたら…きっと…」
「「………」」
どうやら春香と小春の前は旭と実という話から察すると酒を作っているであろう人間と再会し、行方不明だった時に自分が置かれていた状況を話した上で不足していた酒を卸してもらうように頼み、それを了承してもらったのだろう。
テイルスは今まで以上に忙しくなるであろう月光で飛び交う酒の注文によりパニックになる自分の姿を想像したのか、話をしていた時のテイルスの顔色は青かった。
勿論、テイルスの話を春香と小春は真剣に黙々と聞いている。
「…勿論、今の2人がしているバイトが楽しいと思っているのなら無理強いはしないよ?パンゲアの方でバイトの募集をするから」
「「いえ!また輝さんの元で働けるのなら異世界であろうと問題はありません!昼は月光、夜は此方のバーでのWワークという形にしようと思っています!」」
輝は春香と小春の意見を汲み取るのを前提にして、再びこの月光で働くか否かを選ばせる。
その言葉を聞いた途端、春香と小春は迷いなく働くと返事をした。
勿論、今のバイトを辞めたくは無い事とそのバイトは夜7時から開くバーであった事を踏まえてWワークという形を取ったのだが。
「そっか。月光が此方で経営していた時にWワークも受け付けてたっけ」
「「わ、忘れてたんですか?」」
輝はパンゲアに飛ばされる前の月光はWワークも可能だった事を忘れていたので、春香と小春にツッコミを入れられた。
「うん。何しろ此方に居た頃のバイト全員、此処だけで働いてた物だから…つい」
「「そうだった…。此処って時給990円と結構高かったからね」」
元々の時給が高かった為にWワーク前提で求人に来る者がいなかった所為だろう。
輝の反論を聞いて春香と小春は納得するしかなかった。
「私とリリィさんの場合は日給で5ゴルド…。此処の世界で換算すると5000円程でしたっけ?」
「住み込みの身だからね。あまり多くすると妬まれる可能性も…と思ったからね」
「私達の世界だと1日3ゴルドあれば4人家族を養えるので…それでも少し多いんですよね」
「「さ、流石は異世界…」」
「此方だとネパール並かな?」
春香と小春が昼の間だけとはいえ働くのが決まった事で輝達の話はいつの間にか異世界での衣食住に関する話にすり替わるのであった。
「そういえば…提供するお酒がビールとワインだけなのも少し気がかりですね…」
「だったらカクテルも少し加えたりしませんか?そうしたら客層も更に増えると思いますよ!」
そして4人で話をしていく内にビールとワインだけでは頭打ちになると春香が言い出し、小春はカクテルも数種類加えないかと提案したのだ。
これが…レストラン月光でカクテルも出す事になった理由である。
勿論、カシスオレンジ等の果物の名前が入るカクテルはパンゲアでの言語に直した上での表記にしているが。
昼だけとはいえ春香ちゃんと小春ちゃんが戻ってきたのは良かったよぉ…。
後は夜も問題なく回せるようにパンゲアでも人を探してみるかな。
…今度、ヴェネタリアを隅々まで調べてみようかな?
異世界作品だと大抵ある…アレを探す為に。




