魔鍵が繋ぐのは…
レパーディさんから貰った魔鍵を使う事にしたけど…僕は本当に元の世界へ戻れるんだろうか。
いや、ここで迷ってたら帰れる物も帰れなくなりそうだ!
こんな時は…思い切ってみなきゃ!
「…よし。使ってみよう」
「リリィさん。ヒカルさんは本当に元の世界へ戻れるんでしょうか?」
「分かりません。確かにあの鍵から凄い魔力は感じるけど…ヒカルさんの居た世界は魔法という概念が既に架空の物となった世界と言っていました…。だとしたら最悪は…」
「そ、そんな…」
レパーディが店を後にし、何事もなく店を続けて今は閉店している時間帯。
そんな時間に輝は魔鍵を手にして裏口へとやって来ていた。
その理由は勿論…自分が元いた世界へ戻れるのかを確かめる為だ。
「レパーディさんの残した手紙にはこう書いてあったな…扉を使って転移する場合、自分が行きたい場所を思い浮かべて鍵を使え…って。但し鍵穴付きの扉にしか繋がらない…要は行先は限定される某国民的アニメに出てくるドアだね」
「「?」」
輝は手に持っている鍵を見て鍵の使い方と鍵の使い方を聞いてふと思った事を独り言のように呟く。
それを聞いていたテイルスとリリィは輝の呟いたドアが何の事か分からずに首を傾げていたが。
「…ま、案ずるより産むが易し…だ。使ってみるか!…そうだな…僕が行きたいと思う場所…マスターの喫茶店!」
「「ッ!」」
輝は漸く鍵を裏口の鍵穴へと差し込み、行先を言ってから鍵を回した。
施錠されていた鍵が解錠された音を聞いたテイルスとリリィはゴクリと唾を飲む。
「…じゃあまずは僕1人だけで行ってみるよ。もし僕が戻ってきたら2人も入ってきて」
「「は、はい!」」
輝はノブに手を掛けると、後ろにいたテイルスとリリィにまずは自分1人だけでドアの向こうへと行く事を伝えた。
輝の言葉を聞いたテイルスとリリィはすぐに返事をして輝がドアの中へと入るのを見届ける。
「じゃあ…行ってきます」
「「行ってらっしゃい!ヒカルさん!!」」
輝はゆっくりとドアを開けて…中へと入っていった。
「おや?戸締りはきちんとした筈だが…。私ももう歳かな?」
同時刻…輝が異世界で魔鍵を使って鍵を解錠した時、今日の営業を終了して食器類を洗っていた壮年の男は鍵が解錠された音を聞いて首を傾げた。
「…念の為に見て来ようか。強盗とかだったら大変だろうし」
男はそう呟いた後、足音を消して音のする方へと歩いていく。
…っと、そういえばまだ紹介がまだだったな。
この男の名は蛇蔵 明雄、この喫茶店Snakeの店長だ。
30代の頃まで海外で軍人をしていたらしく、軍人を辞めた後に手元にあった財を元手として日本でしがない喫茶店を始めた。
コーヒーも紅茶も一級品なのは勿論だが料理の味も絶品で嘗て輝や煌太郎もこの店のカレーに惚れ込み、味を再現する為にこの店へバイトをした経験がある程だ。
尤も…輝は勿論だが輝の父である煌太郎も完全にその味を知る事は叶わなかったが。
「さて、いったい何…が…?」
明雄は音の発生源である入口を見た瞬間、目を見開き言葉を失った。
何故なら…
「………お、お久しぶりです…。マスター」
「あぁ。6ヶ月ぶりだね…輝君」
この世界では行方不明となっていた人物であり、この喫茶店の常連の1人である神月 輝が立っていたからだ。
輝は言いにくそうな表情と口調であったが明雄は全く気にしていないような表情と口調。
流石、この街にいる中では年長者の料理人と言えるだけの事はある。
「…色々と話したい事はありますが…少し時間を頂けますか?このドアの向こうに連れてきたい人が2人いるので…」
輝は魔鍵の力が本物であると実感した事でドアの向こうで待っているであろうテイルスとリリィを連れて来る事を話した。
「構わないよ。それじゃあ私は…コーヒーを淹れてくるから」
「は、はい!すぐに連れてきます!」
明雄は構わないと即答した後、自分を含めた輝達の分のコーヒーを淹れてくると返事をした。
輝は明雄の返事を聞いて、慌ててドアを開けて喫茶店を出ていった。
明雄からすれば出ていったように見えるが輝からするとテイルス達のいる世界へ戻っていったのである。
「「あっ!ヒカルさん!」」
輝が戻ってくるのを待っていたテイルスとリリィは勢いよく開いた裏口のドアから輝が出てくるのを見て安堵した。
「テイルス!リリィ!一緒に来て!」
「「えっ?あ、あの?元の世界へ…」」
そんなテイルスとリリィを尻目に輝は一緒に輝の世界へ来るように言った。
テイルスとリリィは困惑しながらも輝に元の世界へ帰れたのかと尋ねる。
「戻れたよ!今はマスターが皆の分のコー…フェを淹れて待ってるんだ!」
輝は戻れたと即答しつつもドアの向こうでは明雄が4人分のコーヒーを淹れて自分達が来るのを待っていると簡潔に伝えてから再びドアノブに手をかける。
「「わ、分かりました!」」
「じゃあ…入るよ!」
テイルスとリリィはイマイチ事情は掴めていないものの輝の言葉に返事をして輝の元へと歩み寄る。
2人が近くに来たのを確認してから再びドアノブを回してドアを開け…ドアの中へと入っていく。
「マスター!戻りました!」
「「も、戻りました!」」
「ふふ、随分早いね。おや?その子達が輝君の言っていた…君を待っている人かな?(それにしても狐の獣人族に妖精族…。しかも獣人族の方は多尾者…やはり君は私と同じくパンゲア大陸へと飛ばされていたのか)」
明雄は輝がテイルスとリリィを連れて戻ってきたのを見ると当たり前のように返事をする。
だが、明雄は平静を装いながらもテイルスとリリィを見て即座に獣人族と妖精族だと内心で見抜いている。
しかも…輝自身はまだ知らない事実…月光を経営している世界の名前の事も知っているようだった。
「えぇ。僕が今現在の月光で雇っている個性豊かな…従業員です」
「テ、テイルス・フォクシアと言います!よ、よろしくお願いします!マスターさん!」
「私はリリィ・ピュアリィです」
「こちらこそよろしくお願いするよ。私は蛇蔵 明雄、この喫茶店Snakeのマスター…簡単に言うと輝君のような立場かな?まぁ、輝君からしたら私は彼の師匠の1人でもあるんだけどね?」
輝は異世界の人間だと言う事を暈しつつも今現在の月光の従業員だと話す。
それに続いてテイルスとリリィも自己紹介をし、明雄は最後に自分の身分を明かした。
「「は、はい!………ってヒカルさんのお師匠さん!?」」
「あぁ。輝君の店で出しているカレーの味のベースは此処のカレーだからね。もっと言うと輝君のお父さんの代から…」
テイルスとリリィは明雄の言葉に返事をした後に数秒経ってから明雄が輝の師匠であると言う事に驚くのだった。
そんなテイルスとリリィに明雄は自分が何故師匠なのかである理由を語る。
「と、父さんも此処のカレーの味に惚れ込んでいたんだ。…因みに父さんはどの位?」
輝はたった今、煌太郎もSnakeのカレーを真似しようとしていた事を知って苦笑いしつつも煌太郎はどの位再現が出来ていたのかを質問した。
「ふーむ…。随分昔だったけど…見積もって6割って所かな?」
「うっ…!僕でさえ3割だったのに…」
「「あ、あの美味しさのカレーで半分も此処のカレーを再現できてなかったんですか…!?」」
明雄は少し考えてから輝にある意味で残酷な現実を容赦なく突きつけた。
その現実を聞いた輝は胸を押さえて分かりやすく凹んだ。
そんな輝を見てテイルスとリリィは輝のカレーを食べた事があるのか、半分も再現が出来ていないという明雄の言葉を聞いて驚きを隠せないでいた。
「ふふ。私のカレーはそう簡単に再現されては困るからね♪私以外に作れるのは妻だけ…かな?」
「「「お、奥さんですか…(成程。身内なら食材は勿論作る際の工程や火加減とかを見てますからね…)」」」
「あぁ。今は私の店に出す新しいコーヒー豆を探しに世界中を飛び回ってるけど…」
明雄の言葉を聞いて輝達は反論する事も無く納得していた。
そんな輝達の話を聞いて明雄は自分の妻は今この場には居ない事を話す。
「そ、そうですか…。もし帰ってきた時に伝えてくれませんか?最近コーフェ豆が不足したから僕の分も確保してほしい…って」
輝は明雄の返事を聞いて残念に思いながらも明雄の妻が帰ってきた時に自分の店で使う分のコーヒー豆も調達してほしいと頼んだ。
「あぁ。伝えておくよ♪それより…パンゲア語が混ざってるよ?こっちではコーヒー豆…だろう?」
「………あっ!…って、パンゲア?」
「「えっ?」」
明雄は微笑みながら輝の頼みを受け入れつつもパンゲアでの言葉が話に入り込んでいると指摘する。
その言葉を聞いた輝はしまったと言いたげな反応をした後にパンゲアという輝もまだ知らない単語を聞いて目を丸くした。
勿論、傍で明雄の話を聞いていたパンゲアで生まれ育ったテイルスとリリィは輝以上の反応をしていた。
「「………あの…マスターさんは…私達の事を知ってるんですか!?」」
テイルスとリリィは少し考えてから明雄に自分達の事を知っているのかと尋ねた。
初めて会った人物にここまでズバリと言われては気にならない筈は無いだろうから。
「いや、君達とは初めて会ったが…。40年前かな?実は君達が生まれた異世界…パンゲア大陸に飛ばされた事があってね?理由は現在進行形でそうなってる輝君と同じで全く分からないけどね」
「そ、そうなんですか…?」
「「40年前…ヘビクラ…あれ?今更ですが何処かで聞いたような…」」
明雄は40年前に輝と同じように自身も理由も分からないがパンゲアに飛ばされた事を話す。
その時に人族以外の種族に会った事で慣れた為にテイルスとリリィを見ても驚かなかったのだ。
その事実を聞いた為かテイルスとリリィは明雄の苗字と飛ばされた時代を聞いて聞き覚えがあるような反応をするものの…
「「………うぅ…。全く思い出せません…」」
「ははは。大した事はしてないから無理に思い出さなくても良いよ」
今日も月光は忙しかった為に思い出す事が出来ず涙目で落ち込む。
明雄はそんなテイルスとリリィを見て笑いながらパンゲアでは大した事はしてないと言って誤魔化すのだった。
この後、パンゲアに戻って輝が調べた結果…目の前にいる明雄はパンゲアで凄まじい偉業を成した男である事を知るのであるが…それはまた別の話である。
「はい。輝君がいつも注文していた…スネークブレンドと生チョコ。テイルス君とリリィ君にはクッキーだよ」
「「「あ、ありがとうございます…」」」
美味しかった…マスターの淹れるコーヒーは絶品だな。
テイルスとリリィも満足してるし、また今度人がいない時に連れて来ようかな?
…っと、その前に翔の元にも顔を見せないと。
折角だしアイリス様も連れてこようかな?
もう亡くなった両親以外だと僕以外にアイリス様と会ったのは翔だけだもんな。




