7 名も知らぬ親玉
街のはずれにある醸造所は、やはり悪党共に占拠されていた。
僕たちは三十人ほどの手勢をそろえて、少し遠まきにヤツらと対峙する。
「お前ら! 何しに来たぁ? そんな武器で勝てるとでも思っているのか?」
「わざわざ殺されにくるとはな! あーはっはっはっは!」
ヤツらは一斉に笑い出す。
そりゃそうだ。こちらの武装は農民一揆のそれだ。
物干し竿の先に短剣をつける者、包丁を括っているだけの者、笑われても仕方ない装備だ。しかし……
「いくわよっ!」
僕たちは一斉に後ろを向いて小走りで引き返す。
「この野郎! 待ちやがれ!」
次々に追ってくる奴らを気にも留めず、狭い道に誘い出す。
かと思うと、隠れていた槍部隊が後ろから入れ替わり、次々とお手製の槍を突き出す。
「なんだこいつら! 近づけねぇ! もっと人数を呼んでこい!」
「今よ!」
アマリアさんの号令で森の奥から矢が飛んでくる。うまく誘い出せたようだ。
「下がれ! 逃げられないだろ!」
「お前がどけよ!」
我先に逃げ惑うやつらを、長い槍が追い立てる。
いける! このまま……
「うわぁ!」
一人が後ろに吹き飛ばされるように飛んできた。あいつは——
「てめぇら! 何をチンタラやっている!」
図体のでかいやつが現れた。なんだあの大きな鎌は!
「お頭!」
「てめぇら、あの男と一緒にいた奴らか。小賢しい!」
大きな鎌は突き出した槍の先を刈り取って、ただの棒きれにしてしまった。
「全員下がって! トゥネットスリツ!」
アマリアさんが魔法を放つ。あ、当たった!
「ぐはぁ! いってーなコイツ!」
やつは雷をものともせずに向かってくる。アマリアさんを狙う気だ!
「アマリアさん!」
僕はまたやつの鎌を受け止める。今度は転ばされない! 僕だって剣術を練習してきたんだ。
「クソガキ! こいつ!」
押してきた! ここだ! 僕は身を翻して、相手が突き出している右手に一太刀浴びせる。
「いてぇ!」
浅い! 僕はすぐ構え直し……
……?
……ん? なんだこれ、みんなが後ろを見ている。この道の向こうから、何かが、
……何か来る。
……殺気だ。
後ろから殺気の塊が近づいてくる。僕のような駆け出しの剣士にもわかるくらい凶悪な。
歩いてくる。ちょっと早歩きだ。近づくにつれ顔がはっきりと見えた。
……師匠だ! 助けに来てくれたのか。
ずんずんと歩いてくる師匠。
あまりの形相に気圧されて、誰も動けない。
「ちょ、ちょっと!」
呼びかけるアマリアさんを無視して歩いていく。
そして、敵の親玉の前にすっと歩いて行ったかと思うと、全員を睨みつけて言った。
「酒をぶちまけたのはお前らか……」
「は? ……そうだ。それがどうし……」
ドゴォオオオ!
——真後ろに吹っ飛んでいく親玉。
拳が見えないほど早かったからだろうか、砂ぼこりが舞ったかと思えば、まだ名前すら知らない親玉は向こうの壁にめり込んでいた。
「ひえっ……」
思わず敵の一人が声を上げるが、もう誰も声を漏らすことはできない。
やっぱり師匠は僕たちが心配で……
「酒をぶち撒けるとは何事だぁ!!」
怒るとこそこ!?
師匠はすっと抜き払った刀を敵に向ける。
「俺は今、すこぶる機嫌が悪い」
だめだ、このままでは味方ごと全員斬られる……。
……ん?
——ドドドドドドドド
今度は馬の蹄の音?
少しの数じゃない。音の方を見ると、今度は敵の後ろの方から軍団が近寄ってくる。
まさか、敵の援軍か!?




