5 街の長
「お待ちください! 食料をこんなに 献上してしまっては生きていけません!」
「これは“あのお方”の決定事項だ。逆らえば全員死ぬことになる。同じことよ」
「我々が死んでは食糧も献上もできなくなります!」
「そうか、……ならばお前も今ここで死ぬかっ!」
——男は剣を抜いて振り上げた。
振り下ろされようとしている剣を見て、僕の体は勝手に動く。
間一髪、彼女との間に入り剣を受け止めた。
「旅の者。何故肩入れする」
「人が殺されようとしているのに黙って見ているやつはいない……!」
「ほう、ならば、それなりの覚悟が……あるのだなっ!」
僕は弾き飛ばされ、姿勢が崩れる!
「死ねぇっ!」
しまった! この体勢じゃ……
——切られる!
「なっ……!?」
ゆっくり目を開けると、相手は振りかぶった姿勢のまま動けずにいる。
師匠が剣の切先を喉元に突きつけているからだ。
「悪いな、こいつは俺の連れだ。この町のごたごたに首を突っ込むつもりはない。だが……」
剣がゆっくりと撫でるように移動して、切先がやつの顔の前に来る。
「俺たちはこれから酒を呑むんだ。血なまぐさいのはよしてもらおう」
敵も退ぎながら、しかし笑みはまだ崩さずに聞いてきた。
「おまえ、パラシュを殺った野郎だな?」
師匠は答えない。
「……野郎ども! 今日は引き上げだ!」
やつは仲間に号令を出す。
意外にもあっさり引き上げて行った。
「はぁ……」
先ほどまで怒鳴られていた女性がへたり込む。僕は声をかけた。
「大丈夫ですか?」
「ええ、ありがとう。おかげで助かりました」
そう言う女性。彼女の上品な服装を見ればただの町むすめじゃないことは伺えるが、それ以上に、その佇まいが、騎士のような気高さを感じさせる。
すっと立ち上がり、服の土を軽く払うと、その女性は改めて挨拶をする。
「私はこの街の長で、アデラと申します。旅のお方、この度は助かりました」
「今のは?」
「……旅のお方には関係のないことです」
ごもっともだが、僕も引くわけにはいかない。
「何かお力になれることは」
「お気遣いありがとうございます。ですが……もうこの町は危険です。明日の朝早く発つのがよろしいでしょう」
それだけ言うと、その女性はすぐに建物の中に引っ込んだ。その後を町の人が後追って建物に入っていく。
それを目で追いかけながら、アマリアさんがつぶやいた。
「この町も狙われているのね……」
「アマリアさん、シシオ軍団っていったい……?」
アマリアさんが寂れた街中を見渡して、こちらを向くと話し始める。
「地獄領主シシオ。どこから来たか知らないけど、何年か前にアタシたちの国、|ルーテリエント王国に来た傭兵団よ。近隣諸国との戦争のために国王が雇ったの」
「この国の味方だったんですか?」
「最初はね。……奴らは瞬く間に周辺の国を制圧し、領土拡大に貢献した。そして国王がシシオを信頼しきったところで……国王の一族を皆殺しにして国を乗っ取ったの」
「そんな……」
「今はシシオ軍団を名乗って、ひ職人を攫うわ、鉱山を占拠するわ。国の中はめちゃくちゃ」
「他の国は? 隣はあの帝国なんですよね?」
帝国は強い軍事国家だ。そんなヤツを放っておくはずがない。
「何故か帝国はこの事態を静観している。噂では帝国と裏取引きをしてるらしいわ」
「そんな……」
「この国はシシオの支配下になりつつある。この街も危ないわ」
「それなら、この街は……」
「今も多くの街が重税と強制労働に苦しんでいる。反乱軍を組織する人もいるらしいけど、ほとんどはすぐに潰されてしまう」
アマリアさんは拳を握りしめる。
「国の人々を使い捨てるようにして、増強した軍備で領土を拡大する。そして、また同じように支配するのよ」
「許せないっ……師匠! 助けましょう!」
「やめておけ」
さっきから黙っていた師匠は厳しい口調で言う。
「お前一人が首を突っ込んだところで、この情勢は変わらん」
「師匠!」
「さっきのは様子見だ。明日には本体がこの町を襲うぞ」
「なら本体は町の近くで拠点を作っているはず。僕たちの村のように親玉を叩けば崩すことができます!」
僕は意見を師匠にぶつける。
「だめだ。お前達は首を突っ込むな。……俺は酒を探す」
師匠の後ろ姿を見送って、僕は師匠の心の声を聞いた気がした。
師匠、わかりましたよ。師匠はこう言いたいんですね。
“お前の実力は認めている。お前の力で敵を倒してみろ”
「……そういうことですね」
僕は思わず呟いてしまった。
「アンタ、なんか勘違いしてない?」
アマリアさんが何かを言っていた気がしたが、それより、アデラさんを追わなくては!




