22 宿屋のグレル
鉱山の方に行くと、大勢のドワーフが列をなして歩いてくる。
先頭はアマリアさんとハンジローさんだ。僕は急いで駆け寄った。
「ロシュ、町の皆さんが囚われていたわ。あと……」
アマリアさんの視線の先には、布をかぶせられた人が荷車に横たわっている。
そうか、鉱山の中で……。
「お年寄りたちも働かせていたの。人質にしていたのね……」
嫌な予感がして、僕は恐る恐る亡骸を確認した。
煤で汚れてよくわからなかったけど、1人だけ、はっきりと顔がわかった。
「ロシュー!」
遠くから聞き覚えのある声が近づいてくる。僕が今一番聞きたくなかった声だ。
「ロシュ! 鉱山でお袋を見なかったか? 実はお袋は奴らに……おい、ロシュ?」
何かを察したペドロさんは言葉が詰まってしまった。僕は目をそらしたきり何も言えなかった。
「おい、まさか、その布……」
荷車の上の布をめくる。
「お、お袋! 嘘だろぉ! お袋ぉ!」
布の下にはペドロさんのお母さん、ミラおばさんがいた。
何か言わなくちゃいけないと思ってペドロさんに近づいたけど、何も言えなかった。
「ロシュ君。無事か?」
サガラさんが馬から降りながら聞く。
「はい、僕は無事ですが……」
「くそ、我々がもっと早く来ていれば……」
ロペスさんが立ち上がってこちらを向く。
「セキホー隊のみなさん。ありがとう……」
ロペスさんは、精いっぱいの声を振り絞ってお礼を言った。
——
机を囲んで相楽さん達と今後の作戦会議をする。
「このまま北東に進むと次の都市があります」
「カヴァスキですね」
大都市カヴァスキ。父さんと初めて行ったときは大きい街でおどろいたっけ。
「そこには工業区があり、銃の量産もそこでされていると思われます」
「ドワーフの話では、カヴァスキに連れていかれたドワーフは誰も帰ってこんちゅう話じゃ」
「次はここを押さえて、ドワーフ達を救い出し、相手の武器の補給を断ちます」
「船で行くのはどうでしょうか」
カヴァスキは港町だ、急ぐなら海だ。
「残念ながら、港は商会連合により見張られています。そしてその商会は志々雄の傘下」
「なら陸路ね。遠回りだけど、橋を渡っていましょう」
「陛下、急ぎましょう。出発は明後日、準備をお願いします」
全員で顔を合わせると、相楽さんが立て続けに言う。
「それと、義勇軍の志願が殺到しています。訓練のため我々はしばらくここに残ろうかと」
「わしもじゃ。ドワーフを訓練してから合流する。先に潜入ばしておいてくれ」
「ドワーフも戦力にする……、とても良い案です。我々も協力します。この人と協力というのが不本意ですが」
「なら来んでええが?」
にらみ合う2人をよそにアマリアさんが立ち上がった。
「次のカヴァスキを押さえられれば、国土の半分くらいは取り返せるわ」
よし! 今日は早く寝て出発に備えよう!
「ロシュ、素振りを忘れるな」
「……はい」
——
カヴァスキに行くには2通りの行き方がある。
1つは海路、これは海上を押さえられている僕たちには危険だ。
アマリアさんが言っていた。志々雄たちはまず港を押さえ、海上の封鎖から反乱を始めたという。
ではもう1つはというと、もちろん陸路だ。この大陸にはタヴァー川という大きな川が横断している。どこに行くにも必ず橋を渡らなくてはいけない。
そう、橋を渡らなくてはいけないんだけど……。
そこに架かっているはずの橋が途中で途切れている。
これでは馬車が通れない。どうしたものか……。
「仕方ない。飛び越えていくか」
どんな提案してるんですか師匠!
「いえ、駄目ね。潜入するなら馬車はないと不自然だわ。商人のフリをしていくんだから」
アマリアさんが真っ当なことを言う。
「橋が修理されるまで待つしかないわ。どっちにしろセキホー隊が通れなかったら潜入しても都市は取り返せないし」
壊れている場所を見る。石でできた橋がえぐれているようだ……。
「これ、魔法で壊したんですかね?」
「……言われてみれば、魔法の痕跡がない。何か大きなものがぶつかったみたいな……」
「お困りですかー?」
遠くから声をかける人がいる。
その人は長めの金髪を後ろで結んで、とても実直な感じがする男の人。服装からして街の人ではなさそうだ。山に焚き木を取りに来た人かな?
「私はグレル・マレシャルと申します。近くで宿屋をやっているものです」
「僕はロシュです。えーと、商人をやっていて、橋を渡ろうとしてたんです」
「数日前に大きな音がしたと思ったらこの有様です。直っているか見に来てみたのですが……」
多分シシオ軍団が壊したんだろう。セキホー隊を足止めする気か。
「そうなんですか。これからカヴァスキに行かなくてはいけないのですが……」
「それは大変ですね……。村の大工が動いているようで、数日中には修理をするという話です」
数日……。これは結構な遅れになるぞ。
「そうだ! 橋が直るまでうちに泊まりに来ませんか? まだ部屋は空いておりますので」
「ありがとうございます!」
「いえいえ、こちらもお客が1人だけでは寂しいですから」
馬車で半刻ほど行ったところにあるらしい。
グレルさんも乗せて馬車で行くことにした。
——
「グレルさんはずっとここに?」
「いえ、それが覚えていないんです。記憶喪失というやつらしく、しばらくはこの先の川を下った村にいたんですが、数年前にここで宿屋を始めました」
「それは大変でしたね」
「いえ、その村の人が大変親切で、グレルという名前も村人が付けてくれました。服の襟がとても大きかったので、襟ってわけです」
「へぇ。どうりで変わった名前だと思いました。でもなんで元 帥なんですか?」
「私が道で倒れていた時、軍服のような服着ていたのですが、金のバッジが15個もついていたそうです。それで皆が面白がって”マレシャル”と呼ぶものだから、ふふ、気に入ったのでそのまま名前にしたんですよ」
「へぇー、おもしろいですね!」
「……」
「そのペンダントは?」
アマリアさんが身を乗り出して聞く。
「ああ、これは村の人からもらったお守りです。私の身の安全のためだそうで」
「もしかしてその村ってサウソ村ですか? 猫の魔術師で有名な」
「そうです! よくご存じで」
猫の魔術師か! 僕も絵本で読んだことがある。
「……」
師匠もなんかしゃべってくださいよ! 気まずいじゃないですか! 僕は師匠に視線を送る。
視線に気が付いたのか、師匠がポツリと聞いた。
「……昔のことを思い出したいと思わないのか」
あー、でた。こういう時、空気読めないんだよなぁ、師匠は。
「え? まあ、昔は悩みましたが、……今は妻も子どももいて、とても幸せなんです」
「……そうか」
反応薄い! ここは僕が話を繋ぐ。
「ええと! この辺でおいしいものはありますか? 川魚とか?」
「ありますよ! うちの宿は川魚の塩焼きが自慢なんです」
焼き魚か! 楽しみだなぁ。




