20 “百識”の方治
「ここじゃな」
「2番目の部屋みたいですね」
「しゃあらっ!」
刀で錠を破壊して、扉を開ける。
中にはドラガナ姫が目を伏せながら座っていた。昔会った時よりも少し大人びている。
「ドラガナ姫殿下ですね」
「あなたたち。誰? あなたは確か……」
「姫、助けに参りました。さぁ、ご一緒に——」
「誰じゃ!」
後ろを警戒していたハンジローさんが構える。
「勝手に入るとは不躾なやつらだな」
振り向くと、男が立っていた。
あの男! いつもシシオのそばにいた!
「あの王族の生き残りか。キジも鳴かねば撃たれまいに」
長い上着をなびかせて尊大にふるまっている。挑発しているのかしら。
「シシオの仲間ね」
「その通り、十本刀・真打が一人。“百識”の方治。」
「せからしか。斬られたくなくば失せぇ」
「薩摩の犬が……、調子に乗るなよ!」
——ドォン! ドォン! ドォン!
コートの中から素早く何かを取り出した瞬間だった。
手元から火花が出たと思ったら部屋に置いてある水甕に穴が開いている。
これは銃? でもマスケットは連射できないはず!
「リボルバーじゃと?」
「その通り、この世界のマスケットの時代は早くもおわった」
見せびらかすように銃を傾けると、すぐにハンジローさんに銃を向ける」
「今のは威嚇だ。いかに貴様の抜刀術が早かろうが、この連射にはかなうまい」
「……くっ」
「この拳銃はクラヤマツミ。私が開発した、志々雄様がこの国の征するための武器のひとつだ」
——ドォン!
「きゃあ!」
ドラガナ姫の冠についている装飾が撃ち抜かれる。親指ほどの大きさしかないのに!
「私は専ら策略家だが、この世界では志々雄様の剣ともなる。わかっただろう この距離で私のクラヤマツミから逃れることはできない」
拳銃を指先でくるくるともてあそびながらこちらに向かってくる。ふざけているようで隙はない……!
「この世界は素晴らしい。ここに来た途端、体中に電気が走ったようだった。私は触った武器の構造が魂で理解できるようになっていたのだ。その瞬間、官僚時代に触った最新式のスミス&ウェッソンの図面が私に降りてきたんだよ。あはははは! まさに啓示だ」
なんとか隙をみて、魔法を……
——ドォン!
杖を構えようとした私のイヤリングをかすめた。
「動くな。武器を捨てろ。貴様らにはまだ利用価値があるが……、今ここで殺すこともできる」
ハンジローさんが姿勢を低くするのを見逃さず、銃を向けた。
「おっと妙なことを考えるな中村半次郎。お前は私のクラヤマツミの弾はあと1発だと思っているだろう。しかし私は……もう一丁持っている」
ひらりと上着をめくって見せる。
「……チッ」
ハンジローさんを見ると、観念したように黙って刀を床に置く。
「そうだ、それでい……」
「しゃあらっ!」
その瞬間、ハンジローさんが低い姿勢のまま切り込んでいく!
「なに!?」
弾き飛ばされる拳銃にひるんで奴は距離を取る。
「置刀からの逆手抜刀とは、さすが人斬り半次郎」
「腕を狙ったんだがの、運のいい奴じゃ」
「……しかし、残念だったな。志々雄様が貴様を欲しがっていたから生かしておくつもりだったが、——もう殺す!」
プオォーーーーーーーーーーン!
「なんだ! 何をした!?」
「これはドワーフに伝わる角笛。王族だけが吹ける特注品よ! 」
青ざめた様子で外を見ると同時に、慌てた様子の看守が入ってくる。
「方治様! 大変です! 奴隷どもが暴れて! 手が付けられません! ……うわぁ!!」
雪崩のようにドワーフたちが暴れている!
「くそっ! やってくれたな! 死にぞこないが!」
「阿呆。おいはとっくに死んどるわ」
「退却だ。軍を引け!」
「逃がさない!」
走り出す私の前に腕が伸びてきた。
「やめえ。解放が先じゃ」
ハンジローさんは刀を握りこんで叫ぶ。
「兵児どもー! 押し潰せー! あっはっはっは!」
走り出すハンジローさん。なんであんなにうれしそうなのかしら。
——
洪水のようにあふれ出したドワーフたちが、あっという間にこの鉱山を陥落させた。
「ウォ! ウォ! ウォ! ウォ!」
小気味のいい雄叫びがこだまする。勝利の儀式なんだとか。
「よーし! ここじゃ、ここへもってこい!」
すっかり指導者となったハンジローさんに付き従うドワーフたちは樽を一つ持ってくると、坑道の外に出て、少し開けた場所に置いた。
「爆ぜるぞぉ!! さがれぇ!!!」
宴会の音頭を取るように前に出たハンジローさん。
敵から奪った銃を樽に向け
——引き金を引いた。




